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山田玲司のヤングサンデー 第405号 2022/8/29

古いものの良さ,地面を認識する

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みなさま、夏も終わりの気配を感じる今日この頃、いかがお過ごしでしょうか?

今日は久世です。以下の2本をお届けします。



・古いものの良さ

・地面を認識する




【古いものの良さ】


ずっと人が使ってきた古いものってとてもいいなと思いました。


先日高校時代の友人とすこし遠出をしました。


舞台でお世話になった照明家の方がその地方の出身ということを思い出して、


どこかおすすめの場所は無いかと聞いたところ


「うちの実家が明治時代からある旧い家で、よかったら寄って見てってください。階段がすごいです。少し前はそういう家、

たくさん残っていたんだけど、今は過疎化でうちしかなくて。あとは、廃れた商店街とか、地方の現実を見てきてください」


といっていただいて、お言葉に甘えてその方の実家にお邪魔しました。



観光名所でもない古い家を訪ねるという経験が面白そうでもあったので。



入り口から、玄関、居間、お座敷、台所、勝手口、中庭、二階、屋根、各所細部に

当時の建築の技術が駆使されていて、初見の僕が見たら使い方もわからないものの宝庫でした。



そのご家族は戦後すぐから住んでいるらしいのですが、

その前は酒屋の家族が事務所兼住居として住んでいたようで。



少し特殊なつくりににもなっていました。




詳しくは説明しにくいんですが、明治時代からある家ということで、


慶事のときなどにその家の旗を立てられるようになっている場所が家の敷地内にいまだに残っていたり、


天井に何か所かレールが着いていて、物を引き寄せられるようになっていたり、豪雪地帯なので、屋根の形がちょっと特殊だったり、

見ていて、今とは違うテクノロジーの上に生活が成り立っていたというのがはっきりとわかって。


床に使われている木もどんなニス塗ったってそんな色にならないだろうなという独特の光沢で、100年以上人が手入れをして暮らすと

木ってこんな色になるんだなと、おいそれとよそ者が踏んでいいものか緊張して歩きました。


今は無くなった建築の技術が駆使されているということは、昔はその地域、もしくは日本の慣習・習慣において、

その技術が必要だったということで、使い方を聞いたり想像したりしていると、


今住んでいる家族の時間だけじゃなくて、色んな時代の息吹や人の気配を感じたりして、

普段意識しない、過去の知らない人の生活が文章や映像じゃない形で飛び込んできたのがとても新鮮でした。



おすすめされていた階段も、一本の立派な木を伐り出して出来ていて、

階段自体の側面が全部タンスになって収納を兼ねており、それもとても古いんだけど、

使っているから古びれてはおらず。温もりが感じられる、とてもいい風合いの階段でした。



僕は小さい頃から、新しいものも好きだけど、割と古いものも好きでした。


いまでも、新しいものに真っ先に飛びつくタイプではありません。


新しいものへの怖さも、古いものへの怖さも両方あります。


結局使うのは人間なので、新しいものでも、古いものでも、

そこに温度を感じられるかというのが僕の中では重要になってきます。


温度というか体温というか。


いくら古いものがいいといったって、半分壊れかけているような、

なんだか不気味な雰囲気の家は怖いです。温度が感じられません。


新しいものでも、ぱっとは出てきませんが、何か、人が使うことで、

温度が感じられるようなものは好きです。どうぶつの森とかはそうかもしれません。

電子マネーとかそういうのも、手触りが感じられる瞬間があれば好きになるでしょう。


便利になったことで生まれるものもたくさんあるんだけど、便利になったことで消えることもたくさんあって。

消えるものの中に僕にとってはとても素敵だなと思うモノも多く含まれていると感じます。


「前がどこか」というのは個人個人違うので一概には言えないけど、

「進もう」という時代の大きな流れは個人の力では止められないので、

(例えばインターネットを全世界で禁止にしよう。明治時代の生活の水準に戻そうなどは無理だけど)

この時代だからこそ出来るはずの、ここを逃すと消えてしまうかもしれないから、

古いものと新しいものの共存の形を自分自身も見つけたいと思います。


失われていってもう二度と手に入らないモノの価値と新しいものがうまく共存できる世界が素敵だなと思います。


今回のおうちの訪問は、人間が住んでいたので、絶対に色んなことがあったんでしょうけど、

それでも、その場所を丁寧に扱って人がずっと手入れしてきた独特のあたたかさがあって、文化財とかになっちゃうと、

いくら丁寧に扱っても消えてしまう人の気配がありありと感じられたので、とても貴重なものを見れました。


今あえてあの家と同じものをつくろうとしたってつくれない。

ずっと陽だまりのような場所だなと感じました。





【地面を認識する】


小説家の森沢先生がヤンサンにいらっしゃったときに

「新しい言葉を知ると、世界が広くなる。比喩じゃなくて、実際に」

という旨の話をされていて、それは僕も普段からそう思うので、同意して楽しくお話をしていたのですが、

それとは少しずれるかもしれないと思ったので、放送では言わなかったのですが、


意味と言葉と詩と世界の話を考えるとき最近必ず思い出す話があって。