あの日の「しゃべり場」
90年代の終わり頃、僕が夢中で見ていた番組はNHKで放送されていた「真剣10代しゃべり場」だった。
この番組は当時10代の若者10数名が輪になって、その時の自分が抱えている悩みや主張を語り合うというもので、その中で起こる様々な「予期せぬ事」が話題になった。
司会者のいない中、本音をぶつけ合う10代の人達の主張は当然「いびつ」で「知識や経験に乏しい」ので、当時も「青臭い」という批判も多く「ガキどもが偉そうにしていて観ていられない」みたいな批判もよく耳にした。
ところが僕はそんな「青く」て「本気」の彼らの話が新鮮で大好きだった。
録画した放送を何度も繰り返して観ていたので、1期や2期の人達の中には今も名前も覚えている人がいる。
この番組は司会がいないので、進行はその日の当番になった10代の人が担当する。
【ブチ切れる談志】
そして毎回1人だけ「大人」が参加する。
岡田斗司夫さんや、江川達也師匠なども出演している。
彼らも若者の輪の中に入り「偉い大人」も「名もなき10代の人達」と同じ扱いになる。
立川談志さんが出た時は、途中でブチ切れてスタジオを出ていったりした。
その理由が「ガキの戯言に付き合っていられねえ」だったのか「俺を誰だと思ってやがんだ若造が」だったのか、本当のところはわからないのだけど、最後まで全力で自分をぶつける若者と比較されるので実に「大人げない人」に見えた。
さらに「談志退出」に動揺して泣き出す子供や、楽屋まで謝罪、説得に向かう若者もいて、僕はそんな彼らの行動にいちいち感動していた。
当然番組は編集されたもので、作り手の恣意的な部分が入るのは否めないけれど、とにかく彼らの「表情」や「ちょっとしたやりとり」が多くを語ってしまうのが面白かった。
【壁を超える】
この番組に出ていた若者は、見事なまでに属性が多様だった。
映画「ブレックファスト・クラブ」のように、クラスではまず友達にならないような人達が集まって対話する。
「体育会系」「文学少女」「意識高い系」「不良キャラ」「ギャル」に「お坊さん」までいた。
この「壁を超えて出会う」という感じも実に良かった。
「ワールドトリガー」や「進撃の巨人」などに通じる「他者を知る体験」が何週も続くのだ。
そこで彼らに生じる変化は素晴らしく、対話で心の壁を越えていくある種のドキュメンタリーでもあった。
【出たい】
当時の僕は平凡な漫画家で、ゲストのオファーも来なかったけど、とにかくこの番組に参加したかった。
番組に出たいというより「その場」で彼らの話を聞きたかったのだ。
ところが僕には最後まで出演のオファーはなく、番組は終わった。
【ヤングサンデー】