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【ジュニアドクター育成塾】第5テーマ「水素社会に必要な科学技術」実験解説【愛媛大学】
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【ジュニアドクター育成塾】第5テーマ「水素社会に必要な科学技術」実験解説【愛媛大学】

2017-12-18 17:00
    第5テーマ「水素社会に必要な科学技術」(12月5日開講)は,岩谷産業株式会社(以下,岩谷産業と略します)の中央研究所(兵庫県)の荘所正先生に講座を担当していただきました。

    内容について,背景,実験の2回に分けてお届けします。
    今回は実験『水素と二酸化炭素の性質』について考えてみましょう。

    1 達成目標を設定しよう
    今回の内容について整理しましょう

    最終目標(Why)
    次世代エネルギーである水素や温室効果ガスである二酸化炭素について理解を深める。

    具体的な目的(How) 
    ・水素と二酸化炭素の特性を知る。
    ・燃料電池を知る。
    ・次世代エネルギーとしての水素の利用法を体験する。

    計画(What)
    ・水を電気分解して電気を作る実験
    ・水素と二酸化炭素の性質を確認する実験
    ・水素社会を体験する
    の3つを通じて,水素エネルギーについて理解を深める。

    実験① 水を電気分解しよう!
    前のブロマガで説明した,水を電気分解して水素を作り,水素から電気を作る方法を実験で確かめました。

    (1)くらべよう! −対照実験−
    科学は基準の学問です。そのため,実験で,もっとも大事なのは『くらべる』ことです。実験の結果が,ほんとうに実験によるものなのか,そうではないのかを知るためには『くらべなければなりません』。そこで,まず『くらべる』ための実験をしました。

    ①プラカップに,鉛筆の芯をさし,水と少量の食塩を入れました(どうして食塩が必要なのでしょうか?疑問はどこにでもありますね)。
    ②鉛筆の芯にワニ口クリップケーブルで,LEDを接続しました。

    結果:LEDは光りませんでした
    この結果は重要です。もし,電気分解していない状態でLEDが光ったとしたら,電気分解で発生した水素から電気ができるとはいえなくなるからです

    (2)電気分解する!
    いよいよ実験開始です。(1)②のLEDを外して角型電池につなぎかえます。これで,水の電気分解がはじまります。

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    図1 電気分解で水から水素と酸素が発生

    すぐ鉛筆の芯から気体が発生し始めました。赤いクリップの方が,黒いクリップよりも多く気体が発生していました。電極,気体の発生量から,どちらが水素か確認できそうですね。

    (3)発電する!
    角型電池を外してLEDにつなぎかえます。

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    図2 電気分解した水でLEDが点灯

    結果:LEDが点灯しました。

    この結果は(1)とちがいますね。つまり,電気分解によってつくり出したエネルギーを使って発電しているのです。

    何が起こっているのでしょうか?
    電気分解で,水から水素と酸素をつくり出しました。

    水 → 水素 + 酸素

    そして,つくり出した水素と酸素から水ができる過程で,化学反応のエネルギーを電気エネルギーとして取り出すことができたのです。

    水素 + 酸素   →   水
            電気発生

    水素を使って発電しているのです。これが燃料電池のもっともかんたんな仕組みです。
    実際の燃料電池では,もっとうまく電気を取り出す方法が日々研究されています。

    実験② 水素と二酸化炭素の性質は?
    次世代エネルギーの水素,地球温暖化を起こす二酸化炭素は,どんな性質を持っているのでしょうか。シャボン玉アントシアニンを使った実験で体験しました。

    (1)浮く?沈む?
    シャボン玉で遊んだとき,ふわふわと浮いたあと,地面に落ちて割れるのを見たことがあるでしょう。このシャボン玉には,あなたの『呼気(はいた息)』が入っています。
    では,シャボン玉のなかに『水素』や『二酸化炭素』が入っていたら,どうなるのでしょうか?

    ・軽い!
    水素は,気体の中でもっとも軽い性質を持っています

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    図3 水素は真上に上がっていきます

    結果:水素を入れたシャボン玉は,天井に向かって真っ直ぐに飛んでいきます。水素の『軽い気体』としての性質は,シャボン玉で確かめることができます。

    ・重い!
    二酸化炭素は,大気中にある気体のなかでは重い方です

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    図4 二酸化炭素は真下に落ちていきます

    結果:二酸化炭素を入れたシャボン玉は,地面に向かって真っ直ぐに落ちます。二酸化炭素の『重い気体』としての性質もシャボン玉で確かめることができます。

    ・燃える!
    水素は,化学反応しやすい気体です。酸素ともよく反応するので,かんたんに言えば『燃えます』。この性質をうまく利用しているのが,ロケットです。ロケットは水素と酸素との爆発的な化学反応−私たちは,これを『燃える』と呼んでいます−によって,ロケットを宇宙まで運ぶエネルギーを得るのです。

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    図5 水素シャボン玉は燃えます

    結果:水素を入れたシャボン玉に火をつけると,シャボン玉は燃え上がります。

    ・燃えない!
    二酸化炭素は炭素が酸素と化学反応したあとの気体です。つまり,これ以上は酸素と反応できませんので,かんたんに言えば『燃えません』。この性質をうまく利用しているのが消火器です。二酸化炭素で,まわりの酸素をふきとばして火を消すのです。さらに気体ですからあとに残りません。
    結果:二酸化炭素を入れたシャボン玉に火をつけると,シャボン玉が熱で割れるだけで終わります。

    (2)二酸化炭素は水に溶ける
    二酸化炭素は水に溶けます。これを一番かんたんに確認する方法は炭酸飲料です。開けるとプシュッと音がして,気体がシュワシュワと出てきますこの気体が二酸化炭素です。そこで,この二酸化炭素が水に溶ける現象を実験で確認してみましょう。

    ①ムラサキキャベツから青紫色の色素(アントシアニン)を煮出す。
    ②ペットボトルなどのフタができる容器に入れる。

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    図6 最初のアントシアニン溶液(青紫色)

    ③二酸化炭素をふきこむ(ドライアイスや重曹も使えるでしょう)。
    ④一生懸命ふる

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    図7 青紫色の溶液を振ると……

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    図8 赤紫色になって,ペットボトルが凹みました

    結果1:青紫色の液体は,一生懸命ふると赤紫色になりました。
    これは,二酸化炭素が水に溶けて,水が酸性になったからです。

    酸性?

    そうです。炭酸飲料を飲んだときにチリチリと感じる刺激は,酸性だからなのですね。

    結果2:容器は凹んでしまいました。
    これも二酸化炭素が水に溶けたことが原因です。
    気体が水に溶けたので,溶けた分だけ体積が小さくなりました。しかし,フタが閉まっているので,体積が小さくなった分だけ,容器が凹んだのです。つまり,もしドライアイスや重曹でおなじ実験を行ったとすると,ちがう結果になる可能性があります(どうなるのでしょうか?ナゾは身近にありますね)。

    実験③ 水素のエネルギーを実感しよう!
    水素について実験を通して考えたので,今度は水素エネルギーの利用について実感しましょう。

    (1)模型を使った水素社会
    岩谷産業株式会社様が自作された
    ・燃料電池模型自動車
    ・水素ステーション模型
    をつかって,水素社会をシミュレーションしました。

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    図9 燃料電池模型自動車

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    図10 水素ステーション模型(後ろに水素ボンベがあります)

    水素ステーションから燃料電池模型自動車に水素を充填しました。
    ※模型自動車では水素は後ろの風船に充填されています。
    スイッチを入れると,模型自動車は(これも手作りの)コースを走り始めました。あと20年くらい経つと,この風景はふつうに見られるようになるかもしれません。

    ここで不思議な事が。

    模型自動車の走る速度が速いのです。ふつうのミニ四駆に近い速度で走っています。
    燃料電池の模型自動車はたくさん市販されていますが,どれもゆっくりと走ります。
    荘所先生によると
    市販品は遅くてつまらないので,100均で買ってきた車体に良い燃料電池を無理矢理のせて速く走るようにした
    そうです。だから自作の燃料電池模型自動車だったのですね。
    研究では,こうした遊び心も大事です。

    (2)ロケット
    こちらも岩谷産業株式会社様が自作されたロケットモデルを使わせていただきました。
    ロケットの発射台に,水素と酸素を充填して,着火ボタンを押すと……

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    図11 水素ロケット

    ポンッという音とともに,ロケットは発射されます。これが大きなスケールになると,衛星や宇宙飛行士を運んでいくのです。

    (3)燃料電池自転車
    四国岩谷産業株式会社様が自作された燃料電池を実感するモデルです。
    「市販の予定はないので,ありものをくっつけて作った」
    とおっしゃっておられましたが,燃料電池のすごさを誰にでも実感できる教材だと思います。
    いまのところ公道を走ることができませんが,海外では市販に向けた燃料電池自転車が開発されています。

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    図12 燃料電池自転車

    電気が発生しない状態では,とても重い自転車ですが,燃料電池が動いていると軽快に走ることができます。受講生や大学生は電動自転車になれていないのか,だいぶ苦戦していましたが,軽快な乗り心地でした。

    (4)燃料電池自動車MIRAIとCLARITY
    四国岩谷産業様にトヨタ自動車のMIRAIと本田技研工業のCLARITYの2台をお借りすることができました。子どもたちは試乗したり,愛媛トヨタ自動車様に説明を受けたりして,次代の科学技術を存分に体験しました。

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    図13 本田技研工業のCLARITY

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    図14 トヨタ自動車のMIRAI

    うしろと助手席をそれぞれ乗りくらべるなど,受講生は体験を通して熱心に水素社会について考えました。

    インタビューしよう!
    体験のあとに,荘所研究員にインタビューしました。すでに課題2で公開しているものをふくめ,さまざまな質問を通して,受講生は水素社会に必要な科学技術について理解を深めました。

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    図15 荘所研究員にインタビュー

    水素社会の到来と,そこで必要とされる科学技術についてイメージできたでしょうか?
    最終目標と具体的な目的は,どこまで達成されたでしょうか?

    2020年の東京オリンピックに向けて,水素社会の到来は加速しています。愛媛県には,まだ水素ステーションの建設計画はありませんが,これを機会に整備に進んでくれることを願っています。

    あなたは,未来の社会でどんなことをしてみたいですか。それは夢物語ではなく,20年後に現実になるものです。明確な目標を持つことが大事です。
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