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めるまがアゴラちゃんねる、第095号をお届けします。
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・ゲーム産業の興亡(106)
まもなく始まるゲーム見本市E3、SCE有利との見方変わらず
新清士(ゲームジャーナリスト)
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特別寄稿:新清士(ゲームジャーナリスト)
ゲーム産業の興亡(106)
まもなく始まるゲーム見本市E3、SCE有利との見方変わらず
まもなく、米ロサンゼルスで、ゲーム見本市のE3が開催される。米国西海岸時間の9日午前にはマイクロソフトが、夕方には、ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)が、毎年恒例のプレスカンファレンスを開催する。
このプレスカンファレンスは、新型ハードやサービスの発表や、今年の年末に発売される他社も含めた大型タイトルが発表やプレゼンテーションが行われることが多く、ハードプラットフォーム企業にとっては重要な場だ。ネットを通じて全世界にライブ中継もされるため、メディア向けだけでなく、全世界の熱心なゲームユーザー向けというニュアンスが年々強まってきている。
■コアゲーマー向け大型タイトル中心の発表とみられるSCE
SCEは、昨年のE3では、発売半年前のPS4を盛り上げる大型タイトルの発表を行った。ただ、「コール・オブ・デューティ」シリーズなど、毎年全世界で、PS3やXbox360などの合計で、1000万本以上の大ヒットタイトルになるとはいえ、マンネリ化した印象を感じさせる内容ではあった。
今年も、家庭用ゲーム機ならではのアピールとして、コアゲーマー層を対象とした、大型タイトルの発表を中心にしてくるとみられる。大きな驚きは少ないと思われる。
ただ、販売台数が、800万台を超えたとみられるなど、販売が好調であることなどポジティブなニュースも多い。また、PS3のゲームをストリーミング配信で楽しめる「PlayStation One」のサービスも北米で準備が進んでいるため、その概要の発表が行われると予測される。実際、どの水準でゲームが遊べる技術水準が実現できたのか、また、ビジネスモデルがどのような設計になるのかが、高い注目を受けることになるだろう。
■統合戦略なきマイクロソフト
対するマイクロソフトは、「XboxOne」の巻き返し戦略の発表を行うと思われるが、今のところ劣勢を挽回するまでのサプライズはないと思われる。
SCEの戦略への評価はますます高まっている。英GameIndustryBiz誌は、5月30日に「A Tale of Two CEOs」という興味深い分析記事をあげている。これはSCE出身のソニーのCEOの平井一夫氏と、マイクロソフトの新CEOのSatya Nadella氏のゲームビジネスに対しての理解を比較した記事だ。
ソニーの前社長のハワード・ストリンガー時代にも、ゲーム事業を行うSCEはソニーのビジネスの中で「ブラックボックス化」しており、その意味を的確に理解していたとは言えないとする、一方で、平井氏は「ソニーのネットワークの戦略で、プレイステーションの役割を語っている」と、先月の経営方針説明会を高く評価している。SCE出身の平井氏は、PSの新しい技術のビジネスの向かう方向を適切に理解しているとしているのだ。
一方で、カルフォルニアのカンファレンスで、Nadella氏は、「率直に言って、今、マイクロソフトを全体的に動かして行く中で、Xboxをどのように適合させるのかを考えるのは非常に難しい。ビジネスの位置づけが孤立している」と発言している。
これはゲーム機というビジネスにマイクロソフトが上手く適合できていないことを示す消極的な発言と受け止められている。マイクロソフトにとって、エンターテインメントデバイスを単体でどのように位置づけるのかというビジョンは現在も不明瞭なのだ。ウィンドウズなどとも明確な統合戦略が存在していないと想定できる。
昨年、マイクロソフトがXboxOneについて、オフラインではゲームを楽しむことができない、また、中古販売されたゲームの動作を保証しないといったビジネスモデルを展開すると、E3で発表して不評を買った。
翌日のSCEのカンファレンスでは、XboxOneを意識して、「そうした制限は一切行わない」と発表したことで、会場からは拍手が起こり、PS4が「敵失によって支持を受ける流れができる大きな要因にもなった。
同じように、今年も、マイクロソフトは明確な戦略を提案することができず、SCE有利という状況をさらに増すことになると思われる。
■プレスカンファレンスを見送る任天堂、岩田社長も欠席
プラットフォーム企業では、唯一任天堂は、プレスカンファレンスの開催を今年も見送り、火曜日の朝にストリーミングのビデオ配信により、その代わりとすると発表している。任天堂がプレスカンファレンスを開催しないのは、昨年に引き続き2回目だ。広いホールなど会場を貸し切って、高額な費用をかけるよりは、世界の多くのユーザーに向けて配信するには、ビデオ配信を行った方が費用対効果の面で、高いという判断があると思われる。
このスタンスは、任天堂が新規ハードなどの目玉となる何かを用意できていないことも要因と思われる。今年は「ニンテンドー3DS」や、「Wii U」のハードの後継機種といったサプライズはない。
その代わりに、メディアを集めて、任天堂関係者が小さな規模でのインタビューは受けるといったメディアブリーフィングは行う。ただし、先週金曜日に、岩田聡社長が、健康上の理由で、E3に参加しないことが明らかにされた。
任天堂は「スマッシュブラザーズ」といった年末にヒットが見込めるタイトルを前面に押し出してアピールすると思われるが、昨年以上に今年はアピールできる点が少なく不利な条件が多い。なかなか、盟主復活の手立ては見えていない。
E3は、相対的に地盤沈下が進んでいる。E3はアメリカのゲーム業界団体ESAに加盟している家庭用ゲーム機の大手企業のみが参加する見本市であるため、ゲームとして爆発的な勢いを持つ、スマホゲームの存在がないに等しいためだ。もちろん、アップルやグーグルの出展はない。
ただ、世界的にみると、PS4のヒットから見られるように、着実に存在するコアゲーマーが大きく反応する。ある程度、毎年と同じような続編が発表されるとしても、一人称シューティングなどの分野は相変わらず人気が高い。それらのゲームが、どの程度評判を集めるのかは、今年も注目すべきだろう。
□ご意見、ご質問をお送り下さい。すべてのご質問に答えることはできないかもしれませんが、できる範囲でメルマガの中でお答えしていきたいと思っています。連絡先は、sakugetu@gmail.com です。「新清士オフィシャルブログ」http://blog.livedoor.jp/kiyoshi_shin/ も、ご参照いただければ幸いです。
新 清士(しん きよし)
ジャーナリスト(ゲーム・IT)。1970年生まれ。慶應義塾大学商学部、及び、環境情報学部卒。他に、立命館大学映像学部非常勤講師。国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)名理事。米国ゲーム開発の専門誌「Game Developers Magazine」(2009年11月号)でゲーム産業の発展に貢献した人物として「The Game Developer 50」に選出される。日本経済新聞電子版での執筆、ビジネスファミ通「デジタルと人が夢見る力」など。
Twitter ID: kiyoshi_shin