主張
返済苦の奨学金
給付制の導入こそが急がれる
学生時代に借りた奨学金の返済に苦慮する若者たちが増加しています。「就職が決まらず返すめどがたたない」「収入が少なく返済できない」。日本弁護士連合会が最近行った全国いっせい奨学金返済問題ホットラインには切実な相談が相次ぐなど事態は深刻です。
社会人としてスタートしたばかりの若者に多額の「借金」を強いる貸与制奨学金の過酷さを浮き彫りにしています。世界で主流となっている、返済の必要のない給付制奨学金の導入が急がれます。
世界に例ない過酷さ
奨学金は、経済的理由で進学が困難に陥らないように、国民に教育の機会均等を保障するための仕組みです。学費が高騰しているなかで学生の半数以上がなんらかの奨学金を利用するなど重要な役割を果たしています。
問題は、奨学金を利用して学業を終えた学生が、卒業とともに返済に苦しむ事態を引き起こしていることです。日本学生支援機構の調査では、同機構の奨学金滞納者は約33万人(2011年度末)と、返還対象者の1割以上にのぼっています。返せない理由の60%以上が「家計収入の減少」です。滞納者の約55%が派遣やアルバイト、失業・無職となっており、89・3%が年収300万円未満です。
就職難と不安定雇用が若者の暮らしを直撃し、「返したくても返せない」という実態を招いていることは明らかです。
75%が返済時に高額な利子がつく仕組みが深刻さに拍車をかけています。月12万円の奨学金を4年間利用した人は200万円近い利子がつく場合もあります。返還できない人に過酷な取り立てが行われ、延滞金も加算され、金融機関のブラックリストにのせられる“制裁”まで科せられます。
こんな過酷な仕組みのため奨学金利用を断念し、進学そのものを断念する若者も後を絶ちません。若者の希望を奪っている貸与制しかない日本の奨学金制度が根本から問われています。
世界では高等教育の無償化が大きな流れとなっています。OECD(経済協力開発機構)加盟の34カ国のなかで大学授業料を無償化している国は半数にのぼり、返還の必要のない給付制奨学金を導入している国は32カ国と圧倒的多数となっています。
日本政府は昨年9月、「中等・高等教育の無償化を段階的にすすめる」ことを定めた国際人権規約の留保の撤回をようやく決めました。世論と運動が政府を動かした重要な成果です。
ところが政府は態度をあらためません。12年度までは給付制奨学金の一部導入を概算要求段階で求めていたのに、13年度予算案では要求すらしない後退ぶりです。奨学金貸与数拡大も有利子が中心です。留保撤回をしておきながら、直後の予算編成で無償化に背を向け続ける態度は許されません。
無償化を確実にすすめよ
経済的理由で、教育上の差別がつくられる社会に未来はありません。貧困の広がっているときこそ国民が等しく教育を受ける権利が保障されなければなりません。
国の奨学金をすべて無利子に戻すことや返還猶予・免除などの改革を急ぐとともに給付制奨学金導入に踏み切るときです。高校、大学、専門学校の無償化を確実にすすめるうえでも重要です。