主張

安倍施政方針演説

現実の“政治”が見えてこない

 政治はことばではなく、実際の行動ではかられるべきだということを痛感させられる演説でした。安倍晋三首相が衆参両院本会議で行った施政方針演説です。

 1月の所信表明演説に比べ中身は“総花的”でした。震災復興の加速や不況打開のために国民の所得を増やすなど、国民が聞きたいことはことばだけで中身がありません。その一方、安倍政権が持ち出そうとしている環太平洋連携協定(TPP)への参加や「原発ゼロ」政策の見直しについてもまともな説明がありません。「希望」や「世界一」などのことばだけでは、国民は納得させられません。

国民の知りたいことには

 施政方針演説は、首相就任直後などその時々の所信表明演説とは違って、この1年間の政治の基本方針を示すものです。昨年末の総選挙で政権を復活させた安倍首相が、どんな政治を進めるかが問われています。その演説で現実の“政治”が見えてこないのでは、国民が安心して、安倍首相に政治が任せられないのは当然です。

 首相は冒頭、「未来は明るい」と信じて前進することを呼びかけ、「苦楽をともにする」と主張しました。しかし続いてとりあげた東日本大震災からの復興では、解決すべき課題は「一つ一つ解決する」というだけで、政治の責任への自覚も対策の中身もありません。被災者の「自立心」を強調するだけでは、被災者にあまりに冷たい態度というほかありません。

 首相は就任いらい、経済の再生を最重視するとしてきました。今回の演説にも「世界で一番企業が活躍しやすい国」をめざすなどのことばは繰り返されていますが、首相が「三本の矢」と呼ぶ対策のもとでガソリンや食料品などの価格高騰が始まっていることへの説明ひとつありません。「デフレ不況」の打開に肝心なのは国民の所得を増やすことですが、首相は「可能な限り」報酬の引き上げをと、産業界に要請したというだけです。「要請」だけでなく具体策を講じなければ所得は回復しません。

 こうした一方、首相は施政方針演説で交渉参加を表明するのではないかといわれたTPPについては、日米首脳会談を踏まえ「今後政府の責任で交渉参加を判断」するとしただけです。参加表明を先送りしたのは国民の反対のためでしょうが、国民にまともな説明もせず、「政府の責任」で判断するというのは独裁政治家の手法です。

 原発問題では「安全が確認された原発は再稼働」と再稼働の方針は鮮明にしました。しかし、日米首脳会談でも言及した、民主党政権時代の「2030年代原発稼働ゼロ」の方針を「ゼロベース」で見直すという立場にはふれませんでした。国民に評判の悪いこと、政府に都合の悪いことは隠すという姿勢はあまりに露骨です。

改憲の本音のぞかせる

 安倍首相が施政方針演説で、歴代内閣が憲法に違反すると退けてきた「集団的自衛権」行使の検討などとともに、「憲法改正に向けた国民的議論」を呼びかけたのは重大です。時の首相が、明文であれ解釈であれ改憲の旗を振るのは閣僚の憲法順守義務に反します。

 安倍政権の危険な暴走に監視を強めるとともに、震災の復興や国民の所得を回復させるなどで、安倍政権にやるべき責任を果たさせることがいよいよ重要です。