笹子トンネル事故 常識外れの中日本高速

大震災後も目視点検のみ 、「仮設」用ボルトを本設に

現場監督経験者語る

 安全を下請け任せにして、中日本高速道路は何をやっているのか―。9人が死亡した中央自動車道「笹子トンネル」(山梨県)天井板崩落事故。全国二十数本のトンネル工事に携わり現場をよく知る元現場監督者(51)が見た異常事態とは…。(遠藤寿人)

424323031b2241ff5a3ab31736ca84cfbd96000a 今回抜け落ちた天井のつり金具を最上部で支えるアンカーボルトが、トンネル天井部のコンクリート壁に穴をあけ、接着剤で固着した「ケミカルアンカーボルト」だったと聞いて、度肝を抜かれました。

 ケミカルアンカーボルトは、あくまでもトンネルの内部で、重い荷物を移動させるために、天井にフックを取り付ける際など、「仮に」使用するものです。

 通常、アンカーボルトは、トンネル天井部のコンクリートを打設する前に、中の鉄筋と溶接して一体化し、コンクリートの中に「埋め込む」もので絶対抜けません。自分が工事を担当したJR新幹線のトンネルではすべて「埋め込み式」でした。

 施工した後でコンクリートに穴をあけ、それも重力と反対の上向きで長期にケミカルアンカーボルトを使用するのは、強度の点できわめて不安があります。「仮設」としてではなく、永久構造物に近い「本設」に使用していたことは驚きであり信じられません。

環境的に厳しい

 中央自動車道の小仏トンネルや笹子トンネルの一帯は、破砕帯の層があります。この付近の発電所トンネル工事で異常出水した経験があります。

 今回の事故もトンネルの出口に近いところでしたが、出入り口は一番崩れやすい場所です。雨や湧き水によってクラック(ひび割れ)が入ることなど容易に考えられます。

 環境的にも厳しい条件の中で「ケミカルアンカーボルト」を使い、「3・11」大震災が起きても目視点検しかしていないのはおかしい。2000年以降、天井部の打音検査をしていないのは信じられません。

 トンネルを掘っている時は、震度4以上の地震がきたら掘るのを止めて全部点検し、安全を確認するのが決まりになっています。もし地震で生き埋めにでもなったら大変だから必ず点検します。

 現場で真剣に携わっている人なら、クラックはないか、水の流れは変わっていないか、隅々まで点検し「不安だからみんなでたたこう」という。だれも「たたこう」といわなかったのだろうか。

 アンカーボルトはたたけば違いが100%分かります。音が全然違う。コンクリートにきちっと固まっていれば“キンキン”と音がする。浮いていると“ボコボコ”と鈍い音がします。小学生でも違いが分かります。10本に1本でもいい、100本に1本でもいい、たたいて見て回るのが現場の常識です。高いところは目視だけして手の届く範囲しか打音検査をしていなかったのは怠慢といわざるをえません。

点検下請け任せ

 点検は下請けに任せ本体はいったい何をやっていたのか。サービスエリアなどを立派にして金もうけに走っています。人材派遣で技師を募集して、施工管理を任せていることが業界ではまかり通っています。人材派遣できた人が責任感をもってできるか。自前でお金をかけて若い人を育てていかないと、これからも同じことを繰り返すでしょう。

 1000メートル以上のプロジェクトは国土交通大臣の許可が必要です。大動脈のインフラを預かるものとして、中日本はじめ各高速会社は、利益第一、人命軽視では困ります。