安倍首相の「日米同盟強化」宣言

強行で住民と矛盾必至

 「失われた日米同盟の絆を回復し、強い外交力を取り戻す」―。安倍晋三首相はこう宣言し、米海兵隊普天間基地(沖縄県宜野湾市)に代わる同県名護市辺野古への新基地建設と、さらなる日米の軍事一体化を進める意向を示しました。ただ、どの課題も強行すれば住民や自治体との深刻な矛盾を生み出すのは必至です。(竹下岳)

辺野古  混乱の元凶は自民政権

 「辺野古へ移設する方向で地元の理解を得たい」。安倍氏は昨年末、こう明言しました。自公政権は新基地建設にむけた環境影響評価(アセスメント)を月内に終え、2月にも公有水面埋め立て申請を沖縄県に提出するかまえです。

 安倍氏は昨年11月のルース駐日米大使との会談で、「普天間基地問題をはじめ、民主党政権が日本の外交を混乱させた。政権を奪還したら日米同盟の再構築に努めたい」と“公約”。普天間基地「移設先」で迷走した民主党政権との違いを鮮明にしました。

 民主党が普天間基地問題を混乱させた―。これは自民党の一貫した認識です。

 「多くの沖縄の人たちが職を賭し、命をかけて、実現一歩手前まできていた。それを国外だ、最低でも県外だ、その結果がこれだ」。自民党の石破茂政調会長(当時)はこう述べ、鳩山政権を厳しく非難したことがあります。(2010年8月2日、衆院予算委員会)

 辺野古「移設」問題は、自民党政権時代だった1996年12月のSACO(沖縄に関する日米特別行動委員会)合意が発端です。沖縄県内の首長との“合意”が形成され、「実現一歩手前」だった、というのが石破氏の主張ですが、これは誤りです。

 97年12月の名護市民投票では、政府の激しい干渉にも関わらず「新基地建設反対」が多数を占めました。「実現一歩手前」どころか、今日まで辺野古の海にくい一本打てていません。

 ところが自民党政権はこの民意に逆らって新基地受け入れを迫ってきました。辺野古をめぐる混乱の元凶は歴代自民党政権にあるのです。

 しかも、県政は新基地を推進していた前の自公政権時代と違い、いまは普天間基地の「県内移設反対」が「オール沖縄」の声です。「理解」が得られるはずはなく、このままでは普天間「固定化」か、新基地の強制着手による大混乱のどちらかです。

「嘉手納以南」返還  米議会で予算執行凍結

 安倍政権は加えて、昨年4月の日米外交・軍事閣僚(2プラス2)合意に基づき、沖縄本島の「嘉手納以南」5基地の返還計画を月内にも提示します。

 「返還」対象の基地はいずれもグアム移転や県内での機能移転といった「移設条件」つきです。ところが米議会はグアムでの新基地建設に関して、設計費を除く予算執行を凍結。追加された環境アセスメントが終了するのも2015年以降です。また、米軍は県内での移転先として嘉手納町や金武町などを想定していますが、返還計画に自治体名を明記すれば、新たな反発を広げることになります。

オスプレイ  事故の不安募るばかり

 沖縄では、米海兵隊の垂直離着陸機オスプレイ配備への怒りが収まる気配はありません。日米合意にも違反した飛行が常態化し、住民の事故への不安は募るばかりです。

 米軍はこれを無視して昨年12月6日に「本格運用」を宣言。低空飛行訓練など本土での訓練も開始するかまえです。民主党政権はその最初の拠点として、キャンプ富士(静岡県御殿場市)を想定。説得を試みてきましたが、現時点で自治体側は「最終的には住民の理解が必要」(若林洋平・御殿場市長)という立場を示し、容認していません。

 自民党はオスプレイ配備について明確な姿勢を示していません。推進姿勢を明確にすれば、怒りの矛先は安倍政権に向かいます。

TPP  「反対」で当選議員が多数

 安倍首相は同時に、防衛計画の大綱やガイドライン(日米軍事協力の指針)改定を指示。軍事費の純増や集団的自衛権の行使を目指すなど、日本の軍事面での役割分担拡大を狙っています。

 これらはいずれも野田政権期に路線が敷かれたものですが、長島昭久前防衛副大臣は昨年11月の講演で、「(米国中心の)アジア・太平洋の新しい秩序をつくるという大目標」を掲げ、中国軍の海洋進出を念頭に置いた「海洋秩序」に加え、環太平洋連携協定(TPP)交渉参加の表明を狙っていたことを明らかにしました。軍事とTPPは、同盟強化の文脈で密接に関わっているのです。

 自民党は総選挙政策でTPPへの賛否を明らかにせず、多くの議員は「TPP反対」を掲げて当選していますが、米側からTPP参加を強く要求された場合、深刻な矛盾に陥ることになります。