多国籍企業指針の活用 日本初
「ネスカフェ」「キットカット」で有名な世界最大の総合食品メーカー、ネスレ(本社・スイス)の日本法人ネスレ日本(神戸市)と、ネッスル日本労働組合、兵庫労連が、31年にわたる労働争議について和解したことが6日、わかりました。多国籍企業に対して責任ある行動を求めた、経済協力開発機構(OECD)の「多国籍企業行動指針」にそった手続きで解決した日本初の事例です。
1日に東京都内で行われた調印式では、スイス本社の人事労務管理責任者、エンリケ・エルダー氏と、日本のナショナルセンター全労連の大黒作治議長が、和解確認書に署名しました。全労連とその加盟組合が、名だたる多国籍企業と対等の立場で調印したものとして注目されます。
合意内容は、▽ネスレ日本は、団体交渉の要請を受けた場合、速やかに開催する▽職場での人権侵害、いじめなど、差別的取り扱いの疑いをもたれる可能性のある行為がないよう努める▽人事異動を行う場合は、関連法令に基づき、ネッスル日本労組と事前協議を十分に行い、従業員の同意が得られるよう努力する▽過去にあった最高裁判決をはじめ、裁判所、労働委員会の判決または決定内容を真摯(しんし)に受け止め、今後は順守する―などです。
ネスレ日本(当初はネッスル日本)では、1982年~83年に労働組合乗っ取りや組合分裂攻撃が仕掛けられました。差別・人権侵害・不当解雇などで会社を断罪する命令・判決・決定などは100件を超えます。
ネッスル日本労組、兵庫労連、全労連は2005年、日本政府に設置されたOECD連絡窓口に申し立て。日本共産党の笠井亮衆院議員が07年6月に、ネスレ争議について国会質問し、麻生太郎外相(当時)から、指針順守のために「連絡窓口をつくってのぞんでいる」との回答を引き出したことで、解決に向けた手続きが進展しました。
全労連とネッスル日本労組は声明を発表。「(指針は)多国籍企業との紛争防止と争議解決の手段として有効であることの先例となり、労働条件の維持・向上と労働者の権利擁護の有効な手段となりうることを示しました」と評価しています。
OECD多国籍企業行動指針 先進34カ国が加盟する経済協力開発機構(OECD)が、多国籍企業に対して、人権、雇用、環境など幅広い分野で、責任ある企業行動に関する原則と基準を定めたもの。多国籍企業が労働組合の権利を尊重し、雇用条件などの労働協約を結ぶために労組と建設的な交渉を行うことなどを盛り込んでいます。
指針を採択した各国に連絡窓口(ナショナル・コンタクト・ポイント)が設置され、企業と労働組合、利害関係者などの協議を調整します。日本では、外務省、経済産業省、厚生労働省に設置されています。