アジア太平洋経済協力会議(APEC)の一連の会合が開かれたインドネシアのバリ島で1~8日、環太平洋連携協定(TPP)を交渉している日米など12カ国が首席交渉官、閣僚、首脳の各段階で会合を開きました。会合の実情を把握するため、現地で活動した日本共産党の紙智子参院議員(党農林・漁民局長)に聞きました。 (聞き手・北川俊文)
5項目「検討」は公約違反
―今回の会合にどんな特徴がありましたか?
オバマ米大統領が予算をめぐる対立という国内問題のために欠席する中で、米国が望む年内妥結という時間枠に沿って、米国に代わって交渉を加速させようと先走る安倍晋三政権の危険な姿が浮き彫りになりました。米国など先進国と途上国を「橋渡し」するとか、「岩盤のように固まった規制を打ち破る強力な『ドリルの刃』になる」とか、前のめりの姿勢を強めています。
首脳会合は、目標とされていた交渉の「大筋合意」を発表文書に盛り込むことができませんでした。それ自体は、各国間の相違の反映です。知的財産権の保護、国有企業の取り扱い、物品市場アクセス(関税)、環境問題など、合意に達していないものがあります。日本政府は、知的財産権の中間交渉会合を日本で開催するとか、日本の関税撤廃の割合を高めるよう検討を開始するとか、率先して合意への「地ならし」を買って出ています。
特に、首脳会合が終わったとたん、(1)米(2)小麦・大麦(3)牛肉・豚肉(4)乳製品(5)砂糖―の農産物重要5項目についても、関税を撤廃する品目を「検討」する方向で自民党内をまとめ、5項目を骨抜きにしようとしています。それでは、5項目は外見で残っても、中身が空洞化します。「検討」自体が公約違反です。
秘密主義を改めて実感
―現地でどんな活動をされ、どんな感想を持たれましたか?
TPP交渉の秘密主義を改めて実感しました。会合の動向を見守っていた関係団体の方々も、「内容が分からず、まったく困る」と嘆いておられました。
そんな中で、TPP問題を主管する内閣官房に対し、閣僚会合が終わった時点での説明を求めました。日本では、全品目の関税撤廃の原則を維持することで一致したと報じられていましたので、その事実をただし、交渉の成り行きに対する強い懸念を伝えました。同時に、首脳会合に出席する安倍首相にあてた、交渉からの撤退や情報公開を求める日本共産党国会議員団の申し入れ書を手渡しました。
全国農業協同組合中央会(JA全中)、全国漁業協同組合連合会(全漁連)、北海道酪農協会、北海道東京事務所などから、幹部の方々が現地入りしておられたので、その方々と情報交換、意見交換を行いました。
首脳会合が終わった8日夜には、説明を先送りしようとする内閣官房に強く申し入れ、首脳会合の結果について説明を受けました。
また、滞在中、オーストラリア公正貿易投資ネットワーク(AFTINET)のパトリシア・ラナルドさんともTPP全般について意見交換しました。同国で、政権が交代し、新政権が投資家対国家紛争(ISD)条項の交渉に応じる気配であることを危惧(きぐ)されていました。
広範な共同と運動広げる
―TPP交渉はいよいよ重大な局面に入ってきましたが?
政府・自民党は農産物重要5項目を「聖域」として守ると国民に公約してきました。しかし、今、5項目に属する品目の関税撤廃に手を着けるというのですから、明らかな公約違反です。自民党の決議でさえ、「聖域」の確保ができないと判断した場合は「脱退も辞さない」と述べていたではありませんか。
TPP交渉はもともと、関税撤廃が原則です。「聖域なき関税撤廃」ではないという安倍首相の強弁は、初めからごまかしだったのです。
公約違反が誰の目にも明らかとなった今、これまでに行ってきた交渉の情報を国民に公開し、TPP交渉からきっぱりと撤退すべきです。
政府・自民党の公約違反は、国会でも厳しく問わなければなりません。同時に、各界、諸団体、個人の方々との共同を広げ、交渉からの撤退を求める運動をいっそう強めたいと思います。
農産物重要5項目が注目されていますが、重要なのはそれだけにとどまりません。TPPは、国民皆保険、食の安全・安心の基準の緩和、国の主権を侵害するISD条項など、非関税障壁撤廃でも、国民生活や地域経済に害を及ぼす協定です。それらを明らかにする上でも、政府には情報公開を求めていきます。