10月18日 日本共産党

 安倍内閣が今臨時国会に「秘密保護法案」を提出する準備をすすめていることに、国民の各界各層から大きな不安と懸念の声がひろがっています。「秘密保護法案」のねらいは、防衛・外交をはじめ国政の重要問題で、国民の目と耳、口をふさぎ、日本を「海外で戦争する国」につくりかえることにあります。日本共産党は、「秘密保護法案」に断固反対し、この企(たくら)みを阻止するため全力をつくします。

〔1〕民主主義の根幹である国民の知る権利、言論・表現の自由を脅かし、日本国憲法の基本原理を根底からくつがえすものです

(1)「秘密の範囲」は政府が勝手に決め、国民には何が秘密かも知らされません

 法案は、政府のもつ膨大な情報の中から「特定秘密」を指定し、それを漏らした公務員や聞き出したりした者に最高で懲役10年という厳罰を科すことを骨格としています。

 まず問題は、いったい何が秘密なのか、「秘密の範囲」がきわめて曖昧で不明確なことです。「特定秘密」の対象は、「防衛」「外交」「特定有害活動(いわゆるスパイ行為)の防止」「テロ活動防止」の4分野としていますが、例えば「防衛」では自衛隊の運用から装備、施設などあらゆる事項が対象とされており、「限定された」などといえるものではありません。

 最も重大なことは、「特定秘密」を指定する決定権が「行政機関の長」に委ねられていることです。外務省・防衛省など「行政機関の長」が「わが国の安全保障にとって著しく支障を与える恐れがある」と判断すれば、「特定秘密」に認定できる仕組みであり、政府行政当局の恣意(しい)的判断で秘密は際限なく広がってしまいます。しかも、いったん秘密指定すれば政府の判断で秘密の期間はいくらでも更新できることになっており、永久に公表されない恐れすらあるのです。

 国民には、何を秘密にしたのかも知らされません。これでは、自分が接した情報が「特定秘密」かどうかもわからないまま、処罰されることになってしまいます。

 政府は「原発やTPPは秘密保護法の対象ではない」といいますが、法文上にはそれらが除外される保障はどこにもありません。原発事故での資料隠しのように、政府に都合のわるい情報を秘密にして国民に隠そうとする危険は重大であるといわねばなりません。

(2)国民の知る権利、報道の自由を奪い、違反したら最高で10年の懲役に

 法案は、最高で懲役10年という重い刑罰で公務員をはじめ幅広い国民に「秘密保持義務」を課すものです。「特定秘密」の漏えいは、故意に漏らした者だけではなく、過失によるものでも処罰対象とされます。

 「特定秘密」を取り扱うことになる公務員や契約企業の労働者に対しては、「適性評価」と称して、警察などの国の行政機関により、本人の犯罪歴、病歴、借金をはじめ思想調査をふくむ網羅的な身上調査がおこなわれ、調査対象は家族や友人にも及びます。このままでは多くの国民がプライバシーを侵害され思想信条を理由とした差別的取り扱いという重大な人権侵害の危険にさらされてしまいます。

 法案は、「特定秘密」を漏らした者だけでなく、ジャーナリストの取材活動や一般市民による情報公開要求など「特定秘密」にアクセスしようとする行為まで処罰対象としています。さらには「共謀、教唆、煽動(せんどう)」も処罰するとしており、処罰の対象は、市民のあらゆる行為におよび、家族・友人などにもひろがる危険があります。

 しかも最高で懲役10年という刑罰は、現行自衛隊法の防衛秘密の漏えいに対する刑罰(5年以下の懲役)を倍にするもので、在日米軍の機密漏えいの場合(米軍刑事特別法、懲役10年)と同じであり、日本の秘密体制をすべて米軍機密なみに重罰化するものとなっています。このことが報道・取材を萎縮させ、言論・表現の自由、国民の知る権利に対して致命的な打撃を与えることは明らかです。

(3)「特定秘密」というだけで国会の立法権や国政調査権を制限してしまうものです

 法案は、「特定秘密」に対して、国権の最高機関である国会の調査権をも制限しています。国会に「特定秘密」を提供するときは、非公開の「秘密会」を要求したうえ、提供の範囲を限定し扱い方にも制限を加えています。国会議員や国会職員も秘密を漏らせば処罰対象にされるのです。これでは、外交・防衛という国政の重要問題で、国民を代表する国会が政府を監視しチェックすることは不可能になります。これは、国会の立法権、国政調査権を侵害し、国民主権の原理にも反するものです。

 法案は、日本の国会には開示を制限する一方で、アメリカなど同等の秘密保全体制をとる外国政府に対しては、外務省や防衛省の判断で特定秘密を提供することができる仕組みとなっています。これは、国民には隠しながら日米同盟で情報を統制し操作しようという、法案の危険な本質をしめすものといえます。

 法案の内容は、民主主義の根幹である国民の知る権利を侵害し、憲法の基本原理を根底から覆すものです。政府や与党は、法文に「報道の自由」や「知る権利」に配慮する旨の規定を盛り込むことで、国民の批判をかわそうとしています。しかし、いくら「報道の自由への配慮」を明記しても、幅広い厳罰規定のもとで情報を統制する法体制によって、報道の自由などの基本的人権が侵害される危険性を拭うことなどできません。

〔2〕「海外で戦争する国」につくりかえるため、国家が強権的に情報を統制し、国民の言論・表現を規制するのがねらいです

(1)アメリカと軍事情報を共有し、日米軍事一体化をすすめるためのものです

 安倍政権は、今臨時国会で「秘密保護法案」を国家安全保障会議(日本版NSC)設置法案と一体で成立させることをねらっています。

 国家安全保障会議は、アメリカのNSCをまねてつくるもので、内閣総理大臣を中心に外交・安全保障政策の「司令塔」として機動的に活動し各省庁の情報を集中させ、アメリカと軍事戦略・情報を共有する「受け皿」となるものです。

 すでにアメリカの要求で軍事情報包括保護協定(GSOMIA、2007年)が締結されていますが、日米で国家戦略や軍事情報を共有し、日米軍事一体化をさらにすすめるうえで、アメリカと同等の包括的な秘密保護体制をつよく要求されているのです。情報の管理・統制の強化は、日本の軍需企業が、F35戦闘機などアメリカをはじめとする国際的な武器の共同開発・生産へ本格的に参画するうえで不可欠の体制でもあります。

 自由民主党が2012年7月に公表した「国家安全保障基本法案(概要)」は、集団的自衛権の行使を容認することを前提に、日本版NSCと秘密保護法の制定を盛り込んでいます。まさに両法案は、日本をアメリカといっしょに「海外で戦争する国」につくりかえる策動の第一歩に位置づけられているのです。国民の目と耳、口をふさいで、国家の情報を統制し、日米同盟の危険性を追及し批判する者を封じこめようというものにほかなりません。

(2)日米軍事同盟の「密約」や実態を明らかにすることも処罰されてしまいます

 すでに日米安保条約のもとで米軍機密や米国の提供する兵器に関する秘密の漏えいを重罰に処する特別法があり、また自衛隊法には防衛秘密を保護する厳罰規定があります。そのうえに包括的な秘密保護法が制定されれば、日米同盟の実態はますます国民に隠されてしまいます。

 歴代政府がその存在を否定しつづけた「核兵器もちこみ密約」や「沖縄返還密約」の一部が2010年にようやく明らかにされました。しかし、米軍に事実上「行動の自由」を容認している日米地位協定にかかる密約、裁判権や指揮権をめぐる密約はいまだに隠されたままであり、日米合同委員会合意の実質的内容も国民に秘密にされています。このもとで住民生活の安全に重大な影響をもつオスプレイの配備計画も訓練飛行ルートも住民は知ることができません。

 秘密保護法がつくられれば、60年にわたり耐え難い基地被害や人権侵害を日本国民におしつけている元凶である日米安保「密約」の公表を求めることや、基地の実態、予算の使い道を追及し公開をせまることも処罰されかねません。

 政府は「情報漏えいに対する脅威が高まっている」といいますが、日米同盟に関しては国民が知りたいことはことごとく秘密にされ、アメリカ側の情報公開で秘密解除されても、日本政府は認めないという態度をとって、主権者である国民と国会のチェックを妨げてきたのが実態なのです。

〔3〕民主主義の破壊に反対する一点で力あわせ、阻止しよう

 いま、憲法にもとづく国民の権利をことごとく侵害する重大な法案に対し、日本弁護士連合会、日本新聞協会、日本ペンクラブをはじめ国民の各界各層から反対の声がまきおこっています。かつて国民は、1980年代に中曽根内閣のもとで自民党が提出した「国家機密法案」を国民的批判のひろがりで廃案に追い込んだ経験をもっています。

 日本共産党は、国民の自由と民主主義が破壊されることに反対するすべての団体、個人が、「秘密保護法案」阻止のためにたちあがることをよびかけるものです。わが党は、立場の違いをこえて、民主主義破壊の悪法に反対する一点で力をあわせ、たたかいぬく決意です。