主張

大学での有期雇用

正規雇用への転換こそ急務だ

 大学で有期雇用されている教員・研究者、職員を5年で「雇い止め」する動きが広がり、「大学のブラック企業化だ」と問題になっています。こうした中で、自民党は、大学や研究機関での有期雇用期限を5年から10年に延ばす法改定を今国会に提出する構えだと報じられています。問題の解決どころか、有期雇用の乱用をいっそうまねく危険があります。

有期雇用の乱用をまねく

 今年4月全面施行の労働契約法改正で、有期雇用契約を更新して通算5年を超えた労働者は、申し込めば無期契約に転換できるようになりました。ところが大学や研究機関では更新上限を5年に設定する就業規則の変更が広がり、有期雇用の研究者の中で「雇い止め」への懸念が強まっています。自民党案はこれへの対応といわれていますがとんでもないことです。

 自民党案は、無期雇用への転換権を先延ばしするだけです。「雇い止め」を防止する措置もなく、10年働いても正規雇用に就けず、「使い捨て」の危険もあります。無期雇用のポストの10年の有期雇用への代替を可能にし、有期雇用の乱用をもまねきかねません。

 下村博文文部科学相は日本共産党の田村智子参院議員の質問に「教育研究上の必要があり、能力を有する人が一律に契約を終了させられることにならないよう、適切な取り扱いを促してまいりたい」(2月21日)と答弁しています。政府がやるべきことは、「雇用の安定」という法改正の趣旨にのっとった対応を大学や研究機関に徹底することです。

 大学が無期転換を拒む背景には、政府による人件費を含む大学の基盤的経費の削減があります。大学予算を抜本的に増やし、無期雇用を促す政策に転換すべきです。

 根本的な解決のためには、有期雇用の乱用をやめて、抜本的な正規雇用化が必要です。国立大学の任期付き教員はこの5年間で倍増し、1万5千人に達しています。首都大学東京や横浜市立大学など、全員任期制を導入した大学は、いずれも優秀な研究者が流出し、大学の評価を落とし、任期制の見直しを迫られています。

 若手研究者の正規雇用のポストが抑制され、35歳以下の大学教員の割合が19%(1989年)から11・9%(2010年)に低下しています。若手研究者の多くが博士号をとっても安定した就職先がなく、有期雇用で使い捨てられる状況のもとで、優秀な若者が研究職に希望を失い、大学院の博士課程に進学する若者が減っています。日本の学術の将来に関わる大問題です。

学術研究のためにも必要

 大学の現場が本当に求めているのは有期雇用の延長ではなく正規雇用化です。ノーベル賞受賞者の山中伸弥京都大学教授も“iPS細胞研究所の9割は有期雇用。10年たつと40歳。そこで終わりとなれば行く場所がない。正社員化をお願いしたい”と語っています。

 欧州連合(EU)の「欧州研究者憲章」は、研究者は専門家であり、それにふさわしく正規・安定雇用で処遇するべきだと明記しています。フランスは、大学・研究機関で働く約1万人の有期雇用者を正規の公務員に4年かけて転換します。有期雇用の抜本的な正規雇用化こそ、日本の大学や研究機関を充実・発展させる道です。