主張

集団的自衛権問題

与党慎重論は危険さの表れ

 安倍晋三首相が集団的自衛権の行使容認に向けた解釈改憲を強行しようとしている問題で、自民党内からも異論が上がっています。同党の意思決定手続きの重要機関である総務会のメンバーによる「総務懇談会」(17日)でも、慎重論が相次ぎました。▽憲法を改定せず憲法解釈の変更だけで集団的自衛権の行使を認めるのは立憲主義の否定になる▽自衛隊が地球の裏側まで行くような無限定な行使容認は認められない―といった意見です。解釈改憲の大義のなさと集団的自衛権行使の危険性がいよいよ鮮明になっています。

ナチスの手口学ぶ

 「憲法によって権力を縛る」という立憲主義の否定だとの批判の声は、自民党元幹部や元内閣法制局長官などを含め大きく広がっています。

 元内閣法制局長官の秋山収氏は、麻生太郎副総理が昨年7月、憲法改定のためにナチスの「手口に学んだらどうか」と発言したことに触れて「ナチスは『合法的』に全権委任法を成立させて権力を握り、憲法を事実上葬った歴史がある」と指摘し、今の解釈改憲の動きに警鐘を鳴らしています(「朝日」18日付)。

 自衛隊が地球的規模で戦争に乗り出すことができるという集団的自衛権行使の危険な本質もいっそう浮き彫りになっています。

 集団的自衛権の行使解禁を求める報告書を4月にも提出する安倍首相の私的諮問機関「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(安保法制懇)のメンバーもそのことを認めています。同メンバーの西修駒沢大学名誉教授は参院予算委員会の公聴会(13日)で、日本共産党の井上哲士議員の質問に対して、かつてのベトナム戦争やアフガニスタン戦争(2001年)に自衛隊が参加する可能性について「もし(憲法)解釈を変えるということになったら、やっぱり結果的にはそうならざるを得ない」と答えています。

 西氏だけでなく、集団的自衛権行使容認派の急先鋒(せんぽう)の一人である石破茂自民党幹事長も、アフガン戦争について「論理上は、日本の集団的自衛権の行使が可能になっていたならば、あの戦いに自衛隊が参加した可能性はゼロではない」と認めています(『日本人のための「集団的自衛権」入門』)。

 日本が武力攻撃を受けていないのに海外での戦争が可能になるとの批判の中、安保法制懇の北岡伸一座長代理は、集団的自衛権行使の要件に「放置すれば日本の安全に大きな影響が出る場合」などを加え、「抑制的」に行使するかのように述べています(2月21日、日本記者クラブ会見)。しかし、「日本の安全に大きな影響が出る」という要件はいくらでも恣意(しい)的な解釈が可能です。

中東有事でも発動

 北岡氏は実際、「日本の安全に大きな影響が出る場合」として、「日本に来る石油が途絶する」例を示しました。これでは、産油地・中東の有事でも発動されかねません。北岡氏は「何らかの理由で日米同盟に対する米国の信頼が大きく傷つく」場合も挙げました。国際法違反の米国によるイラク戦争(03年)を日本が支持し自衛隊を派遣した理由として「日米同盟の重要性」を掲げたことを忘れてはなりません。反対世論と運動を広げることが急務です。