主張
少子化と人口減
「産む目標」より環境整備急げ
日本の将来人口減少をめぐる厳しい推計が相次ぐなか、安倍晋三政権の経済財政諮問会議などで「出生率の数値目標」を決める議論が出ています。希望する人が子どもを産み、子育てしやすい環境を整えることは政治の大きな責任であることは間違いありませんが、政府が「産む目標」を決めて国民に求めることは、まったく筋が違います。結婚・出産・子育てという個人の生き方や権利への国の介入につながる「数値目標」を設定することはあってはなりません。
子育て世代の痛み加速
日本の少子化と人口減少の大きな流れになかなか歯止めがかかりません。2012年に生まれた子どもの数は約103万7千人で過去最低を更新し、合計特殊出生率(女性が生涯に産む子どもの推定値)は1・41で、人口を維持できる水準とされる2・07にはおよびません。日本が世界でも出産・子育てがきわめて困難な国になっている現状を突きつけています。
この問題を「国力低下」の危機として、「出生率の数値目標」設定を提起したのが、今年3月の経済財政諮問会議でした。財界人らの議員が、「2020~30年にかけて早期に合計特殊出生率2・07への回復」を目標に掲げるべきだと提案し、安倍首相もこれに歩調をあわせ「目標のあり方を含め、少子化対策の具体化」を指示したのです。
首相指示をうけて内閣府の「少子化危機突破」会議で「数値目標」設定の議論が続いていますが、「数値目標」積極導入論がある一方、「人権侵害といわれないことが少子化対策の大前提」などと根強い反対意見も出されています。
政府が「出生率目標」を決めることは、子どものいない男女への「圧力」となり、いつ何人の子どもを産むかを選択する権利の侵害です。昨年、安倍政権は女性に「出産適齢期を教える」として「女性手帳」作成を検討し、国民の批判で断念しましたが、「出生率の数値目標」も時代錯誤の発想です。
日本の少子化が深刻なのは、「目標」がないことが問題なのではありません。結婚・出産・子育てを願っても、それを妨げている日本社会のゆがみがただされていないことこそが大問題なのです。
若者の2人に1人は非正規雇用という低賃金・不安定な状況です。正社員であっても世界でも異常な長時間労働を強いられています。労働者を心身ともボロボロに使い捨てる「ブラック企業」が若者たちの未来と希望を奪っています。
妊娠・出産した女性の多くが職場を離れる現実、認可保育所が足りない劣悪な子育て環境なども目に見えた改善がありません。
それどころか安倍首相の「成長戦略」は、「生涯ハケン」「正社員ゼロ」「無制限残業」などを強いる労働法制大改悪が大きな柱です。「保育制度の市場化」は安心の保育の基盤を揺るがすものです。
男女とも安心の社会を
子育て世代をさんざん痛めつける政治を無反省に加速しながら、子育て世代に「産む目標」だけを求める―。少子化をさらに深刻化させるものにほかなりません。
少子化と人口減に歯止めをかけることは日本社会にとって緊急の課題です。そのために男女とも人間らしく働き、子どもを産み育てる安心の環境づくりに本腰を入れる政治の実現が急がれます。