主張

「マイナンバー」制

国民置き去りの推進は乱暴だ

 安倍晋三政権が「マイナンバー(社会保障・税番号)」制度を今年10月から本格実施するための準備をすすめています。マイナンバー制度は、赤ちゃんからお年寄りまで住民登録をしている全員に生涯変わらない番号を割り振り、社会保障や税の情報を国が一括管理するものです。政府は「行政手続きが便利になる」などといいますが、多くの国民は制度を知らないうえ、膨大な個人情報を国が一手に握ることへの懸念、情報漏れの不安も広がっています。国民のプライバシーを危うくする仕組みづくりを強引に推進することは乱暴です。

知らない人は多数のまま

 マイナンバー制度は2013年5月、消費税増税・社会保障「一体改悪」の一環として自民、公明、民主、維新などが賛成多数で成立させた法律にもとづくものです。一人ひとりの社会保障の利用状況と保険料・税の納付状況を国が一体で把握する仕組みを整え、社会保障費の抑制・削減を「効率的」にすすめることが狙いです。

 計画では、今年10月から住民票をもつ全員にマイナンバー(12桁の数字)を知らせる「通知カード」を、市区町村を通じて郵送します。来年1月からは年金確認などの手続きでマイナンバーを使用することを要求し、希望者には顔写真やICチップが入った「個人番号カード」を交付するとしています。

 政府は、自治体や企業に準備を急がせていますが、ほとんどの国民は計画を詳しく知りません。内閣府の2月公表の世論調査ではマイナンバー制度の「内容まで知っていた」人は回答者の28・3%にすぎません。実施まであと半年余なのに認知度が広がらないのは、制度が国民の切実な要求ではないことを浮き彫りにしています。

 国民はむしろ不安を抱いています。内閣府調査では、プライバシー侵害の恐れが32・6%、個人情報不正利用被害の心配が32・3%、国による監視の恐れが18・2%と、いずれも「特に不安がない」の11・5%を上回りました。政府がいくら「情報保護のさまざまな措置をとっている」と説明しても懸念と不安は消せません。マイナンバーそのものがプライバシーを危険にさらす仕組みだからです。

 これまでは年金、医療、介護、雇用の情報や納税・給与の情報はそれぞれの制度ごとに管理されていましたが、今度はマイナンバーで一つに結ばれます。政府は医療の診察情報などへの使用拡大も狙っており、マイナンバーが大量の個人情報の「かたまり」になるのは明白です。マイナンバーが流出し、さまざまな個人情報が「芋づる式」に引き出される―。こんな危険が現実となります。すでに「社会保障番号」を導入しているアメリカでは個人情報の大量流出・不正使用が大問題になっています。国民の権利を危険に陥れる制度は、実施を強行するのでなく中止を決断し、廃止へ踏み出すべきです。

このままでは大混乱

 安倍政権は今国会にマイナンバー利用拡大へ改定法案を提出する予定ですが、実施されてもいない段階で、利用対象を広げるやり方は異常な前のめり姿勢です。

 国の説明不足や作業遅れのため自治体の準備がすすまないなど新たな問題も浮上しています。危険で不安な仕組みを強引にすすめることは大混乱を引き起こし、将来に重大な禍根を残すだけです。