政府は9日、野党側の求めに応じて、集団的自衛権行使を容認した「武力行使の新3要件」と、「集団的自衛権の行使は憲法違反」としてきた従来の政府見解との「論理的整合性」に関する文書を国会に提出しました。
文書は1972年の政府見解を引用。同見解は、「国の存立を全う」するための自衛の措置を認めているものの、集団的自衛権の行使は「憲法上、許されない」と結論づけています。9日の政府見解は、「安全保障環境の変化」を理由に、この「結論」だけを変更して集団的自衛権の行使を容認した昨年7月の「閣議決定」の内容を丸写ししました。
しかし、4日の衆院憲法審査会で、自民推薦の長谷部恭男氏が、まさに結論だけを変えた点について「従来の政府の論理で説明できない」と指摘しているにもかかわらず、これについての具体的な見解は何ら見られませんでした。
また、安倍晋三首相は8日のドイツ・エルマウでの記者会見で、1959年12月の最高裁判決(砂川判決)が、やはり「国の存立を全うするために必要な自衛の措置」を取ることを認めていることをあげ、新3要件に「憲法の基本的な論理は貫かれている」と弁明しました。
しかし、最高裁・砂川判決の趣旨は、「安保条約にもとづく米軍駐留は違憲」とした59年3月の東京地裁判決(伊達判決)を覆し米軍駐留を「合憲」としたことにあります。また、最高裁判決では個別的自衛権について認めていますが、集団的自衛権の行使については何ら言及していないことは、当時の林修三法制局長官をはじめ、法曹界の一致した見解です。
憲法学者から「違憲」の宣告がされたため、「最高裁判決」の権威に頼るしかなくなった形ですが、それも成り立たないことは明瞭です。
砂川判決 米軍の駐留は違憲であるとした東京地裁判決(伊達判決)を不服として、日米両政府が最高裁へ跳躍上告し、破棄した判決(59年12月)。57年7月に米軍立川基地(旧砂川町、現・立川市)の拡張に抗議するデモ隊の一部が基地内に立ち入ったとして、日米安保条約に基づく刑事特別法違反容疑で起訴された「砂川事件」について争われました。