主張

「介護離職ゼロ」

願いを妨げてきたのは誰だ

 安倍晋三首相が突如持ち出した経済政策「新3本の矢」の目玉として「介護離職ゼロ」を掲げたことに不信と戸惑いの声が上がっています。確かに、親の介護のため仕事を辞めざるをえないなどの介護離職は解決が急がれる深刻な問題です。しかし安倍政権が実際にやってきたのは、負担増や給付減で公的介護の利用を妨げ家族にばかり介護の苦労を強いる制度改悪の連続ではなかったのか。介護離職を増大させる政策を実行しておきながら、その反省もないまま「介護離職ゼロ」をにわかに言い出しても、説得力を持ちません。

家族に負担と犠牲の連続

 安倍首相の「新3本の矢」は戦争法強行でわきあがる国民の怒りをごまかすため持ち出したもので、その内容は、国民に犠牲をおしつけた経済政策「アベノミクス」の焼き直しです。首相は「希望を生み出す強い経済」「夢をつむぐ子育て支援」「安心につながる社会保障」の“新しい矢”の目新しさを売り込みましたが、記者会見で具体的な中身を問われると「腰をすえて取り組む」としかいえません。

 3本目の矢「安心につながる社会保障」の最大の売り物が「介護離職ゼロ」です。首相があげたのは、「仕事と介護が両立できる社会づくり」のために介護施設の整備、介護人材の育成、在宅介護の負担軽減ですが、どう具体化させるかの道筋はみえません。

 年間約10万人もの人が、親などの介護を担うために仕事を去らざるをえない事態を打開するのは、日本政治の重大課題の一つであることは間違いありません。そのためには、家族が介護を抱え込まなければならない介護保険の制度的欠陥をあらためるとともに、介護と両立することが不可能な長時間過密労働を大本から是正することが不可欠です。しかし安倍首相にはその根本問題にメスを入れる姿勢はまったく感じられません。

 そもそも安倍首相に「介護充実」などと胸を張って語る資格があるのでしょうか。2012年末の政権復帰以降、安倍政権が実行してきたのは、「自助努力」の名で高齢者や家族に負担増と給付減を強いる介護保険制度の大改悪でした。

 とりわけ今年4月からは、要支援1と同2の人の訪問介護・通所介護の「保険給付外し」、特別養護老人ホームの入所条件を「要介護3以上」に制限する厳格化を強行するなど、家族に介護の重荷を強いる改悪を実施しています。8月からは一定所得以上の人の介護保険利用料に初めて2割負担を導入するなど負担増を強いています。

 介護の質を支える介護報酬を過去最大規模で引き下げた今年度改定の結果、経営が成り立たずに閉鎖・休止に追い込まれる事業所が急増しています。担い手の介護職員の処遇改善もできず、人手不足にも深刻な拍車をかけています。

改悪の中止・撤回こそ

 安倍政権は歴代自民党政権すら手をつけられなかった介護保険改悪を次々と行ったことにまったく反省がありません。それどころか来年度予算でも公的介護抑制を狙い社会保障費の削減も続行する構えです。長時間労働をひどくするなどの労働法制改悪は介護離職を加速させる最悪の逆行です。

 「介護離職ゼロ」というのなら、介護保険改悪や労働法制改悪を即刻中止・撤回し、社会保障の拡充への道にこそ転じるべきです。