主張
公的年金の運用損
国民の老後を不安にさらすな
公的年金の年金積立金の今年7~9月期の運用損益が、7兆8899億円の赤字となりました。四半期としては、2001年に厚生労働省が運用するようになってから過去最大の損失です。昨年10月から株式での運用を拡大したことによって、国内外の株価下落の影響をストレートに受けた形です。年金積立金は、老後の安心を支える「国民共通の財産」です。その貴重な資金を、変動の著しい株価に傾斜して運用することが、いかに危険かを浮き彫りにしています。国民の将来を不安にさらすことは、やめるべきです。
安倍政権の株価対策で
公的年金の積立金は、国民が月々こつこつと支払う国民年金や厚生年金の保険料のうち、まだ年金給付に使われていない部分によって成り立っています。積立金の規模は9月末で約135兆円です。厚労省が管轄する年金積立金管理運営独立法人(GPIF)が資金を管理・運用しています。債券や株式の運用によって得た収入は年金給付に使われますが、GPIFの最大の使命はあくまで「年金制度の運営の安定に貢献」です。
ところが安倍晋三政権は昨年10月、積立金の運用方針を大きく転換しました。資産運用割合を、これまで日本株12%、外国株12%であったものをそれぞれ25%に拡大した一方、比較的リスクが少ないとされる国内債券の割合を60%から35%に縮小しました。その結果、年金積立金から株式市場に数十兆円の新たな資金が投入されました。株価つり上げを狙った安倍政権主導の露骨な「株価対策」です。
リスクの高い株式での運用拡大の危うさをはっきり示したのが、GPIFが先月30日に公表した今年7~9月期の過去最大の運用損です。国内株は4兆3154億円もの赤字となりました。外国株の赤字も3兆6552億円です。今年8月以降の国内外の株価の大幅下落に直撃されたことは明らかです。政府やGPIFは、10月以降の株価が上がっていることなどを理由に「長期的な視点で見てほしい」と説明します。しかし、今四半期の赤字額は、今回の株価下落よりはるかに危機的だった08年のリーマン・ショック時よりも大幅です。変動が激しい株運用を広げれば広げるほど、積立金を不安定化させ国民の財産を危機にさらすことにつながるのは明白です。
安倍政権は、GPIFによる株式運用の拡大を「成長戦略」の大きな柱に位置付けています。GPIFは今年10月、「ジャンク債」といわれる、海外で格付けの低い債券を購入することまで決めました。国民の払った保険料を「元手」に「ハイリスク・ハイリターン」の道に突き進むことは、国民の年金を安全確実に管理・運営する姿勢と、あまりにかけ離れています。
「投機」の加速を許さず
“年金財政が大変”といって、国民に高い年金保険料負担と年金額カットを強いておきながら、株運用の拡大などで年金財政を危うくするやり方は、異常です。
年金財政を安定させ、安心の給付を保障する重要なカギは、積立金の安全運営とともに、労働者の雇用安定と賃上げ、中小企業や農家などの経営安定などです。国民の懐を温めることには背を向けたうえ、国民の老後の安心のための資金で「投機」を加速させる安倍政治からの転換が急がれます。