「私、今日からあなたの彼女だから!」

目の前にいるのは可憐な美少女。

相対するは普段着のジャージにスイカバーを持った僕。

透き通るような白い肌が夏の日差しの下で眩しい。蝉の鳴き声が僕を囃し立てるように、深緑の中で響いていた。

何なんだ。一体何なんだ、この神様からの特大プレゼントは。

暑さではなく、体が火照るのを感じながら僕はゆっくりと彼女を見た。



こうしてこの夏、僕は運命のヒトに出会ってしまった。



-----------------


ジリジリと照りつけるような夏。

世間は夏休みなんだよなぁ、なんて思いながら僕は真っ白なカレンダーを見てため息をつく。このままでは記念すべき夏休み第一週目を浪費してしまいかねない。勿論それなりに年頃だし、彼女だって欲しいとは思っているのだが。

「どっかに超絶美少女、落ちてないかな……」

思わず口をついて出た独り言に苦笑しながら、重たい腰を上げる。よし、アイスでも買いに出かけようか。自分へのご褒美とやらだ。いや、誤解なきよう付け加えるが僕は他人にも頗る親切である。面倒見の良さで友達のペットを誑し込むのは得意だし、近所のお婆ちゃんにはモテモテだし、この前なんて傷だらけのカブトムシを助けたりした。

履き慣らしたスニーカーに着替え、僕は初夏の日差しを浴びに出かけた。

 キィ、と古い音を立てる家のドアを開くと、夏独特の臭いが鼻をつく。

「あー、夏だなぁ」

澄み渡る青空。もくもくと広がる入道雲。毎年同じ、退屈なだけの夏休みが始まる…その期待は、いい意味で裏切られることとなる。



歩くこと数分。最寄のコンビニについた。

と_____。

一瞬で目を奪われる。

どこの子だろう。この辺じゃ見かけないな。

「……滅茶苦茶可愛いな、オイ」

アイスコーナーには先客がおり、何やら物色しているようだった。すっと鼻筋の通った横顔が綺麗だ。僕は思わず見入ってしまった。

「……あっ」

少女が僕の目線に気づいたのか、申し訳なさそうにこちらを見てくる。

「いや、すみません。大丈夫です」

あまりに澄んだ瞳に気押されてしまい、僕は早口で捲し立てながら扉を開け、適当なアイスを掴んだ。伏し目がちにしていたから、好きな味かも最早わからない。…スイカ味か。何だこれ。珍しい。

「……それ、好きなの?」

「えっ? あ……はい」

上ずった声で返事をした自分を心底全身全霊でディスりながら、僕は言った。何なんだこの美少女は。天使かよ。

「私もスイカ味好きなんだ!」

 けらけら、と明るく笑う彼女。陳腐な言い方だが、花が咲いたような笑顔とはこのことだ。暑さではなく、ぼーっと見入っている僕を横目に、彼女は無邪気に言葉を続ける。

「せっかくだから、一緒に食べない?」



 外で初対面の美少女とアイスを食べる。そんな構図にすっかり舞い上がってしまい、さっきから緊張のあまり無言を貫いている僕に彼女はさらに驚愕の発言をする。

「私、今日からあなたの彼女だから!」

 彼女のこの言葉で、僕の夏が始まる気がした。