2012年は無料メッセアプリが大躍進した年。今年はさらにどう展開するのだろうか? 無料アプリ陣営のキーマンたちにインタビューを敢行、その内容を全3回にわたって掲載する。

 最後は昨年末登場し、クリアーな通話音声品質で人気を集め、テレビCMも話題の無料通話アプリ『comm』のキーマン、DeNAのcomm戦略室、山敷守室長に話を聞いた。

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――サービスの開始からこれまでを振り返っていかがでしょうか?

山敷守室長(以下、山敷) 幅広い年齢層からの支持を集め非常に好調です。2012年11月16日からテレビCMも開始し、DeNAのこれまでの記録を塗り替える規模でユーザーの拡大が進んでいます。CMの効果ももちろんですが、Twitterなど口コミで利用が広がっており、App Store無料アプリで総合1位を獲得でき、2012年内に500万ダウンロードを突破しました。従来の無料通話アプリを利用していた方が感じていた、“つながりにくい”、“音質が悪い”といった点を改良したことも評価につながっているのではないかと考えています。

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――用途としては音声通話が多いのでしょうか? 通信キャリアの領域を脅かすのではないかという声も聞かれますが。

山敷 音声通話とスタンプを含めたテキストメッセージ、いずれもよく使われているのが現状です。3G回線における従来の通話の品質は非常に高いものがありますので、commがそれを置き換えるというよりはクロスキャリアで無料通話が可能な選択肢が増えた、という形で共存していくことになるのではないかなと考えています。

――競合アプリとの差別化はどのように図っていきますか?

山敷 まず強く打ち出しているのが実名制です。他のアプリではユーザーが任意に設定できるIDを採用し、検索やマッチングに利用しているものが多いのですが、commでは敢えてIDを採用していません。Facebookと同様に実名を検索キーとしてつながっていく形を取ることで、IDやニックネームでは相手からそれを教えてもらわないとつながらない、という問題が解消されるからです。転職や進学によって人間関係が変わるときにもスムーズにその更新が行なわれるという期待があります。

 また通話品質については、ノイズリダクション等、“ユーザーがはっきり認識できるレベル”での改良を、DeNAの各部署からエース級の人間を引き抜いて内製で続けています。リリース当初7名だったチームも現在70名規模になりました。高音質であることと、3G回線の帯域をうまく使い接続が維持されることはある種トレードオフの関係にあるのですが、様々な機種や利用シーンを想定し、実地調査を行ない、チューニングを重ねています。アプリのバージョンアップごとに“通話をするならcomm”というご評価を頂けるよう努めています。

 さらに、comm自体では収益を考えていないのもポイントです。スタンプのような主要機能ではマネタイズを検討していません。コミュニケーションアプリとしてシンプルであり続けようとしていることも、中長期的には差別化のポイントになってくると思います。

――commの登場当初、「LINEそっくり」という声も聞かれました。

山敷 メッセージングの部分についてそういった声を頂いたのは事実です。ただ、スマートフォンでメッセージをやり取りする際のユーザーインターフェースを最適化した結果が現在のcommであり、スマートフォンのデフォルトのSMSしかり、そのほかのメッセアプリしかり、ベースとなる部分は大きく異なるものではないと思います。

 先行しているサービスは、チャットでのコミュニケーションに熱心な若年層、若い女性向けのデザインを備えている例が多いと思うのですが、commの場合は、ユーザーテストも重ね30代男性でも違和感なく使えるデザインを目指しました。

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――各社とも、自社、パートナーサービスとの連携を図ることに力を入れています。DeNAとしてはいかがでしょうか?

山敷 弊社の主力サービスであるMobage(モバゲー)はもちろんですが、それ以外にも、DeNAショッピングをはじめとしたECサービスや、旅行情報のDeNAトラベルを含めた数多くあるDeNAのサービスだったり、さらには今後の新規事業――これはcommを前提としたものになると私としてはうれしいと考えているのですが(笑)――とも連携したいと考えています。単なる連携ではなく、ユーザーが求める価値というところは絶対に外さない形での連携によるマネタイズが重要です。

――モバゲーでのソーシャルグラフがバーチャルグラフである、という指摘がよくされますが、実名を前提としたcommのそれはリアルグラフそのものです。一見、相容れない水と油のような関係にも見えますが、連携が図れるのでしょうか?

山敷 これは個人の見解、可能性の話になってしまうのですが、例えば先日のmixiとMobage(モバゲー)の提携の発表のように、デベロッパーから見れば、ソーシャルグラフとリアルグラフ、そしてインタレストグラフすべてに対して、アプリを一度に提供できるという形式もありえます。このようにゲームプラットフォームという資産を共通で利用できるという良さがあるのではないかと思います。commというインフラが整備された上で、それぞれのグラフに適したアプリ、サービスを提供していくことが、commを通じたマネタイズを考える上でも重要になってくるのではないかと考えています。

――セキュリティーや出会い系の問題についてはどのように対応を進めていますか?

山敷 見知らぬ方との出会いを目的とした利用は規約で禁じています。コミュニケーションサービスでは伝統的にこういった問題を避けて通れないのですが、commの場合、実名制を採用したことが有効に機能すると考えています。Facebookの場合でも出会い目的に利用されているとは認識されていないはずです。実名制を取ることで、機能としては出会い目的に利用できうるものを備えていても、IDやソーシャルグラフの在り方がそういう利用を抑制していると理解しています。

 またcommでは本人確認を取るようにしています。出会い系やスパム業者が参加することをそこで防ぎ、電話番号の認証を経ることで複アカを取ることも抑制しています。

 友だちリストに追加していない相手からのメッセージについても、デフォルトではトークリストに表示させず、“友だちかも”に一旦ストックするようにしています。ユーザーが信頼できる相手と確認した上ではじめてメッセージが表示されるように、お客様の声を受けて改良しました。この設定は着信も含め、“全て直接受け取る”、“友だち以外からは全く受け取らない”といった具合に変更は可能です。加えて外部業者による掲示板アプリなどは、そもそもID制でないためcommに関してはうまく機能していませんが、適宜適切な対応を進めております。

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――LINEが現在auと行なっている年齢認証(18歳未満はID検索機能が使えない)のような仕組みは取り入れる予定は?

山敷 自己申告になりますがcommの利用にあたっては、すべてのユーザーが年齢を登録する必要があります。そこで18歳未満と登録したユーザーに対しては、詳細は申し上げられないのですが、出会い系目的の利用からの保護を行なっています。

――モバゲーのミニメールは内容の確認を行なっていますが、commについては?

山敷 送信毎にユーザーの同意を取るミニメールと異なり、通信の秘密に該当するものですから、commのメッセージや通話の監視や保存は行なっていません。

 一方でメッセージ以外のオープンな情報として登録されているものは弊社としても確認をさせていただくことがあります。またカスタマーサポートに問い合わせが多く寄せられるユーザーについては、個別に対応させて頂くこともあります。

 リリース後プライバシーに関するご意見を多数頂きましたので、それにお答えする形でアプリの改良を続けているところです。

――最後に2013年、commのここに注目して欲しいというポイントがあれば。

山敷 現在204の国と地域で展開しており、英語と日本語に対応していますが、順次対応言語も拡充していきます。メッセージ、通話、スタンプといった機能の価値を高めるよう、チューニングを行ない、サービスの充実を図っていきます。シンプルなコミュニケーションサービスとして、“無料で高品質”というコアバリューを高めていきますので、ご期待ください。

(※本インタビューは2012年12月に実施し、週刊アスキー2013年1/29増刊号(12月17日発売)に掲載されたものを再編集したものです。サービス内容、名称の変更など最新情報を加筆修正して掲載しております)

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