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ビュロ菊だより 第三十四号 「菊地成孔の一週間」
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ビュロ菊だより 第三十四号 「菊地成孔の一週間」

2013-06-11 10:00


     菊地成孔の一週間ですぞ。今回は人間ドック/リバウンド/慶応で中川ヨウ氏と対談/新しい美学校/電通で菅野くんと対談/にこのげで前田日明さんと座談/13AWミラノ・レディス/内見につぐ内見/某局某番組で日本人トップモデルの方と対談/DyyPRIDE&JUMAと一緒にTHE OUTSIDER&RINGS合同大会を観戦/AKB選抜総選挙も観戦/必見「最後のマイ・ウエイ」フランス映画の復権。なのだが、今回は先ず月曜と火曜のみ。人間ドックの報告として。

     

    6月3日(月曜)

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    2年ぶりに人間ドックに行った。誕生日の11日前である。



     このまま読み進めて頂ければお解り頂けると思うが、誕生日直前までに滑り込むようにして代表取締役になるし、歌舞伎町からも動くし、レーベルも移動するしで、まるで50にして立つ。記念すべき50歳を迎えるべく、人生のリセット(ははは)を。と、誕生日までにいろいろな事を整理しているかのようだ。



     無意識の仕業か神の仕業かバタフライ効果の仕業か知らないが恐ろしい話しだ。自分からは一つも仕込んでいない、前回も、確か前々回当たりにも書いたが、50になる誕生日など、気がついたら過ぎていた位にしておいてほしかったのである。



     取締役就任とレーベル移動と歌舞伎町エクソダスは総てビジネスという一本の線で繋がっており、後々詳しく書くが、半ば強要されたも同然である(地味に悪文)。そしてこの線を繋いだ悪魔は元EWE取締役の高見元Pに決まっているのだが(彼の退社タイミングがこれらの事象を誘爆的に引き起こしたのだ。勿論、何の打ち合わせも無い。彼は自分=菊地の誕生日すら知らない筈である)、流石の高見元・Pでも人間ドックの予約は無理だろう、その通りである。



     自分の部屋から徒歩3分にある「金谷クリニック」は、内視鏡検査、特に直腸のそれが上手いと評判なので、予約がヘタすっと半年待ちと聞かされており、実際、ここのドックに入港したのは09年からだが、毎回毎回4~5ヶ月待ち当たり前だったのだ。



     なので、去年は(なんだかんだでいろいろ忙しく)行けなかったし、今年もモタモタしていて、ようやっと予約を入れたのが先月だったので、「まあ、ドックは秋だな。夜電波のシーズン5が終わる頃か」的な予想だったのが、「最速で6月3日になります」と言われた時には、故・由利徹さんのようにカックンと腰砕け、(ええ~?不景気っすか?それとも内視鏡のグレードがここ2年でぐぐっと上がり<操作が上手い>という事のバリューがインフレでも、、、、)と思った。揃ってしまう訳だ。どんどんどんどん。



     何れにせよ40代最後の入港となり(日帰りを2日やるんで入港じゃないですけどね)、1年空けているし、そういえば最近目眩や物忘れが多く、腹部や背中の鈍痛も多く、慢性的な頭痛もあったりして、あげくの果てに肥満傾向も出ており、ちょっとおっかねえなあと思っていたのだが&毎年まったく同じ事を考えるのだが「何も怖い物が出なかったら、それはまだまだ行けるという事だろうから、好き放題を続けよう」と思いつつ入港した。



     結果として、まずこの日は大腸内視鏡を除く総て(脳のMR、内蔵のエコー、血液検査、癌細胞初期のマーカー、血液検査、胃の内視鏡検査、身長体重肺活量、胸部X線、眼底の血管撮影、視力と聴力)をやったのだが&ここから先、同年輩の男性諸氏にはリアルな情報と言うか、当日記では珍しく「役に立つ/使える話題」だと思うので、配分を無視して書く。



     先ず、自分の検査結果だが、お目出度いというか何と言うか、御陰さまでというか何と言うか、所謂おっかないのは何も出なかった。自分の睡眠の量、生活時間、仕事量、そこから類推されるであろうストレス、食生活(夕食だけだが)、病歴、投薬歴等々、健康状態に影響を与えるファクターは総て書いていると思う(隠れてイリーガルドラッグをやったり新聞配達をやったり、狂った様にセックスをしたりはしていない)。



     今年はセーフでも一寸先は闇だとか、そもそも人間ドックで検出される値と健康自体とは云々、何とでも言える訳だが、何れにせよ、物忘れが激しいのも(夜電波の生放送を後から録音して聞くと、記憶喪失の患者がパーソナリティをやっているように聞こえる。ほとんど言う事を忘れながらやっている)、目眩が多いのも、頭痛が起こるのも(これは後に、眼鏡の度――特に乱視――が合っていない事によるモノだと解った。眼鏡は自分の人生を本当に大きく変えた。「メガネ男子」の呪いであろう)、食後に胃がもたれたりするのもすべて、少なくとも、脳、内蔵、血液の状態、その他、人間ドックに20万円近く出費して解る数値と画像の上に理由は見つからなかった。



     特に「深酒の後の胃もたれ」については、切実さはお父様方だけではないであろう。現代人なら必読ですぞの部分だが、最近、医者にやたらと「逆流性食道炎に注意しましょう」みたいな、鉄腕アトムのパンフレットがあるのをご存知であろう。自分はアレであった。道理で胃散が全く効かないわけである。



     胃散を飲んでも胃痛が散らないと、胃炎を超えて、潰瘍か癌かと思ってしまうのが人情そして素人考えというものだが、そうではないタイプの人もいる。医師との会話形式によって解りやすく解説してみたいと思う。たった今、胸焼けしている方などは必読である。



    「はい菊地さんね(カルテを見て)。最近、胸焼けが多い。飲み過ぎ食べ過ぎの自覚は?」



    「多少ありますが、決して鯨飲馬食というほどでは」



    「はっははは、難しい言葉を知っていますねお若いのに。え?49?」



    「はい、来週で50です。もう癌年齢だと思いまして」



    「はははは、はははは、まあまあ、何れにしても今からね、内視鏡にみんな写る訳ですから。はい、麻酔のゼリーを鼻から入れますよ。喉に落ちて来たらゴックンして下さい」



    「ゴックン」



    「はい、では行きますよ。毎年受けてらっしゃるからお解りですよね。もうこんなに細いのでね(スパゲッティぐらい。少々パスタマニアックに言うと、キタッラぐらいな感じ)、えずく反射ね、あれもありませんし、会話もね、このまま出来ますから」



    「はい。でもあの」



    「何ですか?」



    「癌があったら、それを見ながらこのまま会話が出来るっていう事ですよねそれって」



    「はーい、では入れて行きまーす」



    「見つかったら<あ、あった>とか仰るんですか」



    「はい先ず鼻ね、あなた慢性鼻炎ですね。真っ赤っかだコレ。自覚あるでしょう」



    「はい。花粉症が酷くて」



    「何の治療もしてないですか?」



    「はい、もう無駄だと思って。花粉だけじゃないじゃないですか。黄砂とか放射能とか」



    「はーい、次に喉ですね。ここが声帯。ああ、ちょーーっと声枯れてますかね。これはね、アレルギーではないです。大声を出しますか?」



    「まあ、出すと言えば出すというか、、、」



    「喋り続けるお仕事?煙草は(カルテを横目で見て)吸わない。ね」



    「ああ、そう、そうですね」



    「あんまりね、ずーっと喋らないようにしてください。声帯も休めてね」



    「はあ」



    「はい、じゃあ先行きますよ。喉自体は綺麗ですね。色も綺麗です。はい、ここカシャ(シャッターを押して静止画を撮った音)。これほら、腫れてますね」



    「うー」



    「ほらここカシャ。これ、もう慢性ですね」



    「ううう、、、、慢性」



    「はいカシャ。あなたは<逆流性食道炎>です。ここはね、食道と胃の境目ね。噴門部。というの。ここにゲートがあってね、コレ。ですけど、コレほら」



    「うううう」



    「コレが、正常に働いていれば、胃酸は食道に入ってこないの。胃酸っていうにはねえ、凄く強い酸なんですよ。ゲロなんか吐くと、凄く喉が痛くなるでしょう?」



    「吐いてる時はそれどころじゃないですけどね」



    「ははは。それぐらい強い酸なんですよ。だから数滴でもね、食道に入ったら炎症起こします」



    「でも先生、鼻からチューブが入っている状態で熱弁するのもアレですが、一回そう診断されて、喰ってすぐ横になったらいけないって言われたんで、そもそもそんな事あんまりしてないのにな、と思いながらも、気をつけているんですそれ以降」



    「その場合かんがえられるのは、ストレスでこのゲートが締まらなくなっちゃう体質か、胃が元気すぎるか、つまり胃酸の量が多くて強いか、なんですよ。子供の頃から過食傾向がある人に多いですけどね、あと、ストレスが他の部分に出ないで、ここに来るか。何か心当たりあります?」



    「全部心当たりあります」



    「はっはっは。とにかくあなたの噴門のゲートね、ここの検閲ゼロですね。胃と食道がツーツーです」



    「ツーツー。。。。」



    「背中も痛くなりますでしょう」



    「はい」



    「胃酸の抑制剤飲んでくださいね。消化促進剤は逆効果もしくは無効です」



    「っていうか、横にならない様に気をつけてるんですけど」



    「あなたみたいな人は、立ってても逆流するかも。うふふふふ」



    「(笑)ちょっと、こんな状態で笑わせないでくださいよ(笑)。だったらどうすれば良いんですか?食後はつま先立ちで歩き続ければ良いんですか?(笑)」



    「はっはっはははははははは。あのねえ、食べて寝ないだけじゃダメなんですよ。水飲んですぐ横になっても同じです」



    「えええええええええ!聞いてないですそれ!!」



    「水でも同じ」



    「寝そべって水飲むのが楽しみなのに!!水とかビタミンウォーターとか!!」



    「止めましょうそのお楽しみ(笑)」



    「まさか、、、、まさか指原が」



    「ですよねえ。私もそう思います。まあともかく先に行きましょう。うわあ、これは綺麗だカシャ。ヒダヒダも凄くねえカシャ。あなた、顔も若いけど胃はもっと若いねえ。色も綺麗だし、何の跡もないねえ。20代の胃ですよカシャ。カシャ。カシャ。こりゃあ喰えちゃうねえ。何でも喰っちゃうでしょう。はははははは」



    「ははははは」



    「ですんで、あなたがこれから気をつけるのは胃炎や胃潰瘍じゃなくて、メタボと逆流性食道炎です」



    「わかりました、、、っていうか先生、これって気をつけないと食道ガンのリスクが何年後何パーセント的な世界ですか」



    「いやいやまあ、そこまで言わないけどね。そんな事気にする以前に、逆流性食道炎の段階で相当辛いでしょ」



    「はい。まあ」



    「とにかく、ジュース飲みながら横になったらダメです」



    「そんな肥満学童みたいな事はしませんジュースなんて。水かビタミンウォーターだけですよ」



    「あれジュースでしょう。色着いてるし。まあ、果汁みたいのに比べれば、そりゃあジュースじゃないけど、成分関係なく、水の質量があればですよ、水平にしたら浸水するに決まってるじゃない。それでゲートがビロンビロンになっちゃったかも知れないですよ」



    「ビロンビロンって」



    「いっぱいお水飲んで、すぐ逆立ちする所を想像してみて下さいよ。逆流するでしょう。水平だって同じなんですよ」



    「ええええ、何をすれば鍛わるんですか。ヨガの特訓か何か」



    「とにかく元気すぎるんですよ、あなたの胃は。だから食後はね、つま先、、、プププ、、、失礼。つま先立ちして歩くしかないかもですね。こうやってこうやって、ごちそうさまー、って言ってから、こうやってプププ」



    「やるフリは止めてください操作中でしょう」



    「大丈夫ですよ。はははははは」



    「っていうか先生、僕、角膜潰瘍もたまにやるんですが、あれって免疫が間違えて自分を攻撃する病気ですよね」



    「まあそうですね」



    「胃酸もそういう事ですか?何か、自分を護る為に装備された武器が、自分自身を外敵と看做して攻撃するような病気になりがちな気がするんですけど」



    「怖いねえそれ。うふふふふ」



    「うふふふふじゃないですよ。そんなん最悪じゃないですか」



    「ああ、そういう人もいるんじゃないですかね。心当たりあります?敵は自分の中にあり。みたいなさ」



    「その例えはちょっと違うと思いますが、心当たりはあります。自己像として」



    「いやいや冗談です。免疫が間違って攻撃するのと胃酸の逆流は全然意味が違いますよ(笑)。何れにせよあなたの消化器官は噴門部除けば20代ですよ。身体の中心が青春時代!!」



    「よくあるアンサーで申し訳ないですけど、全然嬉しくない」



    「でも、これからビタミンウォーター飲むのも、、、、ププププ。つま先ププププ立ちで」



    「早く抜いてくれよ」



    「はい、抜きますよー。終了でーすお疲れさまでしたー」



     といった感じだ。特に「胸焼けに胃散が効かない」タイプの方は参考にされたし。



     以下、まるで自慢話でもするかの如く(全くそんな気はない)、肝機能は正常、血圧はやや低め、脳に破裂する予兆の血管は全く無し(今回、25分かかる徹底的なMR撮影をやったんだが「凄い脳だね。左右の脳が離れていて、血管はどこも詰まってない。どういう脳だろうね。いっひっひっひ」と言われた)。癌細胞も見つからず、糖尿も無い。心電図は「奇麗ですねえ。音楽家だからですか。楽譜みたいだほら」と言われた。



     と言う訳で、日常的な不調の殆どが心因性もしくはメガネ性、後は、サックス演奏時に装着するマウスピース(サックスの歌口ではなく、クチビル防護用に特殊樹脂性の入れ歯みたいのを装着しているのを、ライブにいらしている方々ならば見た事があると思う)などによる、つまり、様々な軸の歪み(顎関節症とか、頸椎湾曲とか)による形成外科的なものである事が解った。よしもとばななさんのご主人がやっているロルフィングに通おうかなと思案中(ロルフィングは全身の歪み矯正)。



     後はラジオでも言った通り、右耳の高域が騒音性の難聴(というか、ある帯域が全く聴こえなくなっていた)になっていて、これはまあ名誉の負傷であり、職業病なので致し方ない。耳栓をしてDCPRGをやり、50代は耳を守りましたとさ。では養老院行きだ。音量も音質も芸術の一部である(DJ時にヘッドフォンをしないだけでも大分耳に優しい音楽家生活なのに、それでもやってしまった。丈青のエレピとホーン3人のせいなので奴らに損害賠償を請求する事にするが、労保の線も考える。「そんなバンドには労働基準法は適用出来ない」と言われたらもう闘争しか無い)。



     と、書き終えてみて、これは特殊な生活を送る、特異体質の人の報告であって、他人様には何の参考にもならない事が解った。母親はパーキンソンとアルツハイマー、父親は肺癌、祖父母も総て癌で、三親等に発達障害者が複数いる。全く油断ならないが、何れにせよ現段階では、不健康なのは肉体ではなく心のようだ。もし音楽が鳴り止んだら、もし食欲と性欲が鳴り止んだら、枯れずに発狂すると思う。そのときどれほど幸せであっても。


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     ドックに入ると食事券が貰えますよね。アレで喰った飯は大体旨いじゃないですか(おっかないモンが出なかった時に限り。としますが)。こんな時でもないと絶対に行かない焼き鳥屋さんで昼の唐揚げ定食(鳥スープで割った山芋の摺おろし付き)。麦飯リフィールフリーなので、3杯喰ってしまい、つま先立ちで散歩。

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     ドックの朝は早い。いつもは就寝する時間、自分の知らない世界を歩き回る。そこは、もう無理だよというぐらいの陽光に満ちあふれ、人類のあらゆる過剰さーーー特に幸福と絶望―ーに油を注いでいる。せっかく、好むと好まざるとに関わらず、50になって色々と変わる事になったのだし、これを期に早起きに切り替えようと思う。勿論健康の為ではない。健康はコレこの通り充分であって、ひょっとすると陽光を浴びて健康を害するかも知れないのだ。


     明日は腸洗浄するので食事制限無しという訳で鍋屋で喰いまくり。この日からリバウンドが始まる(笑)。ピンぼけだが、清湯(フォンのこと)を大量のモミジ(鶏の爪の部分。コラーゲンも旨味も豊富)だけでとっている事が解る。

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