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ビュロ菊だより 第三十四号「料理店の寝椅子──彼女たちとの普通の会話」1-1 アニメ監督の山本沙代さんと
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ビュロ菊だより 第三十四号「料理店の寝椅子──彼女たちとの普通の会話」1-1 アニメ監督の山本沙代さんと

2013-06-10 21:00
  • 5

「料理店の寝椅子──彼女たちとの普通の会話」1-1 アニメ監督の山本沙代さんと 

 

 「ビュロ菊だより」、新コンテンツとして対談を加えることにしました。 

 タイトルは「料理店の寝椅子──彼女たちとの普通の会話」です。 

 1)料理店で

 2)各界で働く女性と

 3)なるべく長時間話し(飲酒も含める)

 4)動画ではなく、敢えてテキストで行く 

 という4点を本連載のルールとしていますが、実際には編集部のユイくんと三人なので、ほぼ鼎談です。「録音機とキャッシュカードだけ持って、対談相手と実際二人だけでやる」という案も出たのですが、絶対「デート」とか「ハメ撮り」みたいに誤解されるに決まっている。という理由から止めました。 

 ビギナーの方ならばともかく、ワタシのご贔屓筋の皆様ならおわかりのとおり、ワタシがしたいことは、デートやハメ撮り等とはまるっきり逆です。20世紀の働く女性と21世紀の働く女性とでは、単純に「女性」というところだけ取り出しても、かなり違う。 

 つまりこれはフェミニズムに関する連載です。ワタシにしかできない形での。
 

菊地成孔 2013610

 

─────────────────────────────────


 ということで、今回から新連載「料理店の寝椅子」が始まります。菊地成孔が女性の表現者とともにおいしい食事をしながら、「普通の会話」を繰り広げる本企画。第1回目のゲストは『LUPIN the Third 峰不二子という女』でおなじみ、アニメ監督・山本沙代さんと、新宿三丁目のイタリア料理「トラットリア・ブリッコラ」にて待ち合わせ。のはずが、菊地+編集は10分ほど遅れて到着してしまい、女性を待たせるというさっそくの失態……。気を取り直して、食前酒のオーダーから、対談はスタートいたします。
(編集=吉住唯)


───────────────────────────────── 

┌───────────────────────────────┐

├○

├○ 対談メモ

├○

├○ 於)新宿三丁目「トラットリア・ブリッコラ」(イタリア料理)

├○ 開始時刻) 20130423日午後08

├○ 終了時刻) 20130424日午前02

├○

└───────────────────────────────┘

■チンザノ・ロッソ、ロックでリモーネ入れて

 

菊地 今日はよろしくお願いいたします。山本さん、最初に食前酒でも召し上がりますか? それともすぐにワインいきますか? 

給仕 ちなみに本日のワイン、グラスでのご提供となりますと── 

山本 チンザノを。 

菊地 じゃあワタシも、チンザノ・ロッソ、ロックでリモーネ入れて三つください。 

給仕 わかりました。 

菊地 この店はなんでも美味しいんですけど、好き嫌いとかありますか。肉のほうがいいとか魚のほうがいいとか。 

山本 なんでも好きですけど……今日は肉が食べたいです。 

菊地 肉は特にバッチリです。コトレッタ……いわゆるカツレツですね、後はソーセージ、炭火焼、脛の煮込みもあります。 

山本 ええと、炭火焼にします。 

菊地 (給仕に向かって)じゃあ、セコンディは炭火焼のミストで……(山本に向き直り)……女性にこういうことを言うのは一番失礼なのですが、ちょっとお痩せになりました? なんか、すっきりされたような……髪型でしょうか。 

山本 うーん……体重を計ってないのでわからないです(笑)。あ、最近忙しくてお酒を飲む機会がぜんぜんなかったので、それですっきりして見えるのかも。 

菊地 毎日飲まれるんですか。 

山本 絵コンテは家で描くんですけど、会社に入っているときは、帰り道で飲んじゃうんです。 

菊地 それは、立ち飲み屋みたいなことですか。 

山本 いや、コンビニでお酒を買って、飲みながら家に帰っちゃう。何もない住宅街なので、一人だと怖いんですよ。自分の時間があまりにもないので。帰ったらすぐに寝たいですし。少しの間を惜しんでお酒を飲むんです(笑)。 

菊地 なるほど(笑)。あ、来ましたね。とりあえず乾杯を。よろしくお願いします。 

山本 よろしくお願いします。(グラスを当てる) 

 

■熟成但馬牛の炭火焼きと、それを使った自家製サルスィッチャで 

給仕 お食事はどうされますか? 

菊地 そうですね、前菜はいつものミストで。パスタは今日、何が? 

給仕 では、前菜は6種類くらいのをちょっとツマむ的な感じで。パスタはですね、こちらで(メニューを見せながら)、一番上がリングイネ、鮟鱇のラグーソースでサフランを効かせています。で、その次が、オリーブオイルで仕上げた鰊の燻製とホワイトアスパラガスと空豆のスパゲッティ── 

山本 あ、それがいいです。 

菊地 ビアンコですね。じゃあ、アンティパストはミストが3(担当編集・吉住の分も含め)で、にしんのパスタが1.5、で、もう一皿いこうかな……いいや。そのままグリッリア(炭火焼)を盛り合わせにしてください。エイジング(熟成)の、そうだね、牛と、あとなにか。 

給仕 では、サルスィッチャ(ソーセージ)あたりをつけましょうか。 

菊地 ああ、良いですね。 

給仕 ではメインは中勢以さん(田園調布にある精肉店。熟成肉を推奨している)の熟成但馬牛の炭火焼きと、それを使った自家製サルスィッチャで。かしこまりました。 

菊地 お願いします。ここのサルスィッチャ美味しいですよ。歯応えがあってネットリして。ちょっと口の中に腸の膜が貼り付く感じの……。あのう、人と会うときって、事前に下調べするものじゃないですか。でも、以前お目にかかっていることもあって、実は今日は何も下調べしてないんです。なので、そもそもの質問になりますが、山本監督は、会社勤めなんですか? 

山本 完全にフリーです。今は3社で仕事をしていて。作品ごとに移動して仕事をするんです。演出の仕事と監督の仕事をしているので、いちおう「アニメ演出」という肩書きになるのかな。 

菊地 アニメ業界についてホントにまったく何も知らなくて恐縮なんですが、「アニメの演出」というのは、そもそも何をされるんですか? 絵に芝居をつけるの? 声優さんにダメ出しをするんですか? 

山本 コンテってご覧になったことありますか。 

菊地 それこそ「不二子」(『LUPIN the Third 峰不二子という女』。以下『峰不二子』)でいただきましたよね。電話帳みたいな奴(笑)。 

山本 コンテを描いたら監督に提出して、監督がチェックしたものをアニメーターに発注して、上がってきたものをさらにチェックする、という感じです。テレビシリーズだと、1話全部を自分で演出するんですけど……うーん、なんか説明になってない気がする(笑)。 

菊地 あの、舞台演出の場合だと、俳優さんに対して「ここはこうしろ」みたいな指示をするイメージがありますよね。それとは違うんですか?

山本 同じです。例えば、登場人物が笑っているシーンの場合、照れ笑いなのか、喜んでいるのか、ギャグ調なのか、コンテの情報だけではまとまりきらないそういったことをアニメーターに伝えるんです。で、描いてきてもらったレイアウトや原画に演出指示を入れたり修正をしたり。その指示を元に、さらに作画監督に絵を修正してもらいます。なので、舞台演出の方が口頭で伝えることを、アニメの場合は紙や人を通して演出する、みたいな感じというか。 

菊地 その場合、監督さんは何をしているんですか。 

山本 監督は、作品のコンセプトを決め、それを演出以下各スタッフに伝達します。作業的にはスタッフィングやシナリオ・絵コンテをチェックして、アフレコ、ダビング、ビデオ編集……納品までの全体をチェックする仕事なんですよ。 

菊地 うううう。ホントすいません。……ユイくん、わかった?(笑) 

編集 ええーと、監督と演出の違いが、やっぱりいまいち……。 

菊地 たしかに。われわれが映画やテレビのイメージしか持っていないからだろうか。 

山本 どう言ったらいいんだろう。テレビドラマの場合でも、シリーズディレクターみたいな役割と、各話の演出とは別だと思うんですけど、アニメの演出もドラマの各話の演出と同じような役割です。監督は、とにかく全工程に付き合わなくてはならないから、作業期間も長い。 

菊地 単純に、地位というか取り分も上なわけですよね。 

山本 もちろん作品は監督のものですから、演出の場合は、監督の意図を汲み取って演出してイメージに近づけていくのが仕事です。で、会社に勤めている監督だと、次の作品までは会社が仕事を用意してくれていたりもするんですけど、私のようなフリーの場合、次の企画が決まるまでは数珠つなぎ的に演出の仕事をして稼ぎを得る、みたいな感じになる。 

菊地 あー、なるほど。実のところまだほとんどわからないんですが(笑)、いずれにしても分業体制が進んだ、巨大な産業という印象ですね。ちなみに、差し支えなければでいいんですけど、山本さんの年収ってどのくらいなんですか。 

山本 勤め始めたときのお給料があまりにも安かったのをインタビューでネタにしたことがあるんですけど、一緒にいた制作会社の人に「勘弁してくれ」と言われちゃって(笑)。詳しくは言えませんが、すごく波があるんですよ。会社やプロデューサーによっても幅があるし、マンガ原作があるものとオリジナル作品とでは、作業量に差があるのでギャランティにも差があります。オリジナルで一から世界観を作らないといけない場合は、大変さがぜんぜん違う。何年も続いているようなマンガ原作ものだとフィルムのストックがありますし(アニメ用語でBANK=バンクと言います)、美術も他の話数と兼用できますし、色も新しく作らなくてもいいようなものだと、仕事量が少ないわけです。 

菊地 ゼロから立ち上げるほうが大変だ、と。なるほど。それはわかりますね。 

 

■お待たせいたしました。本日の前菜6種盛りです

 

給仕 失礼します。小さなシューのあいだに、ペコリーノというチーズのセミフレッドアイスを挟んでみました。手でつまんでお召し上がりください。 

菊地 このアミューズ旨いですよ。小さなハンバーグに見立てた、アイスクリームなんだけど、塩味のチーズの菓子。という(三人で摘む)。もうワイン行きましょうか。前菜が全体に白(ワイン)っぽいんですが、白でよろしいですか? 

山本 はい。 

菊地 お好みあります? 濃いめとかすっきりとか、フルーティーとか。端的に、ロンバルディアの作り手で、一番好きなのがいるとか(笑)。 

山本 うーん。じゃあ、前菜に合わせて……。 

菊地 じゃあそうだな、(給仕に向かって)ミネラル感があって長く飲める感じで。こちら、たくさん召し上がりそうなので(笑)。ちなみに、山本さんは料理されますか。 

山本 暇なときは。 

菊地 山本さんのようにお忙しそうな方でも、暇なときは暇になっちゃうんですね。 

山本 暇なときは、危機を感じます(笑)。 

菊地 で、忙しいときは大変なわけでしょ。何日も寝ない、みたいな。 

山本 そうですね。『峰不二子』のときは日曜日から水、木曜日くらいまでが一続きで1日になっているような感じでした。 

菊地 過労死とかノイローゼとか、虫プロの頃からの伝統なんでしょうか(笑)。アニメ業界が今でも過酷なのは、なんでですかね。だって今、日本の中で最もお金がよくて、輸出もしっかりしている文化産業でしょ? 

山本 いやもう、ホントにお金ないんです、特に新人時代はド貧乏です。特に、DVDソフトが売れなくなってしまって……まあ、売れたからって私たち現場スタッフにはなかなか還元されないんですけど。アニメ自体のギャラは、もう何年も昔の相場のままだし。申告制だったりするんです。「これではやっていけません」と言って、ちょっとギャラを上げてもらう(笑)。 

菊地 ええー! ある日、山本さんがトコトコとやってきて「給料上げてくれ」って言うわけ? 

山本 そうです(笑)。 

菊地 業界全体のパースペクティヴがぜんぜんないので、何のたとえも出せないんですけど、山本さんって中堅なんですか、若手なんですか、それとも既に大御所に片足がかかってる感じなんですか。 

山本 えーと、このあいだ文化庁メディア芸術祭のアニメーション部門で新人賞をいただいて、みんなに「えっ、あなたが新人? 図々しい!」と言われたくらいです(笑)。賞をくださった方によると、映画の世界では3作目までは新人作と言われるとかで、私は2本目の監督作だから新人ということになるらしくて。年齢やキャリアを考えると、おそらく中堅なんですけど。 

給仕 お待たせいたしました。本日の前菜6種盛りです。左上から新じゃがの冷製ズッパ(猪口1杯分ぐらいのヴィシソワーズ)、上に載っているのも新じゃがの素揚げのスティックです。その下が鶏もも肉のピンチョス黒胡麻ソース、さらに下が〆鯖とメロンのピクルス。その上が豚の自家製テリーヌですね。アボカド風味のライスサラダ。さらにその下、モッツァレラチーズとアンチョビとセージを載せた自家製のトーストです。どの前菜に合わせようかと考えるのは難題だったので(笑)、あるていど全体的に楽しめるワインをご用意いたしました。 

菊地 これトスカーナですね。葡萄はなんですか。 

ウェイター コルテーゼです。魚料理もあるので、あまり強くはない、ミネラル感のある白ワインをお持ちしました。 

菊地 (テイスティングして)良いね。はい、これいただきます。 

給仕 ありがとうございます。ではお楽しみください。 

山本 (一口飲んで)あ、美味しい。すごく華やかですね。 

菊地 よかったー。1本目が良いと、後の転がりが全然違いますからね(笑)。今日、どんな話しになるかまったく予想がつかないので。とはいえ山本さん、ド貧乏とかおっしゃいながらグラスの持ち方が大変なグッドシェイプですけど、飲み食いはお好きですか。 

山本 はい、大好きです。 

菊地 日曜から木曜までが1日になってるような過酷な季節労働の一山を越えたときにも、お酒を飲んで過ごすと。 

山本 そうですね、あと旅行も好きです。 

菊地 おお。一人旅派ですか? 

山本 お休みがちょうど合う人と一緒に行く感じです。例えば、私が3週間の旅行に行きたかったとして、3週間も一緒に休んでくれる人はさすがにいないので、1週間はこの人と遊んで、次の1週間はあの人と、みたいな。 

菊地 へえ、3週間も旅行に行くような人なんですね。旅先はどこがお好きですか。 

山本 今まで行った中では……ブラジルとフランスはすごく好き。 

菊地 出た意外性(笑)。ブラジルといってもいささか広いですが。サンパウロとか、リオとか? 

山本 リオは好きです。あとは北のほう。 

菊地 バイーアとかマットグロッソとかですか? それとももっとモロに北な、パラーとかアマゾナスとか? 

山本 バイーアは好きです。それこそ、昼からお酒を飲んでブラブラ遊んで、昼寝して夜はまた飲む、みたいな過ごし方をするんです。 

菊地 へー。何かすごいな。無礼ギリギリですが、お洒落な方だなあとは思っていたんですが。フランスはどこが。パリですか? 

山本 パリはもちろん好きです。そんなにたくさんの街に行ったことはないんですけど、前回は思い立って、エクス・アン・プロヴァンスからイタリアとの国境のマントンという街まで電車で行ったりもしました。 

菊地 ワタシの年齢くらいだと、アニメの会社が現在どうなってるのかとか、全然わからないんですけど、昔ながらの「アニメ関係の人」みたいなプロトタイプでは捉えきれないですね山本さんは。



 

(次週につづく)


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