はじめての不倫学 「社会問題」として考える (光文社新書)

 最近、乙武洋匡さんの不倫事件が発覚し、話題になっています。

 清廉潔白とはいかないまでも、温厚な常識人と見られていた人物のことだけに、事件性は大きいものがありますね。

 信じていたのに失望した、という人も多いでしょう。

 いったい人はなぜ不倫するのでしょうか? 不倫のどこにそれほどの魅力が?

 さて、坂爪真吾さんの本をもっと読んでみたいということで、『はじめての不倫学』を読み上げました。まさに不倫とその予防について解説した新書です。

 この頃、新書ばかり読んでいますね。お手軽な新書ばかり読みつづけるのではなくもう少し読みごたえのある本を読んでみようかな、という気もするのですが、なかなか読みたい本も見あたらないのが現状です。ハードカバーは金額的にも高いしね。

 もっとも、『はじめての不倫学』は「「社会問題」として考える」というサブタイトルからわかる通り、必ずしも「お手軽」とはいえない一冊です。

 不倫という「現象」を、いち個人の倫理観の欠如や意志の弱さと決めつけるのではなく、「わたしたちの社会の問題」として考えていこうと提唱している本だといっていいと思います。

 不倫のどこが社会問題なのか、どこまでいっても個人の不貞の問題に過ぎないではないか、と考える方もいらっしゃるでしょう。

 しかし、著者によると、現実に不倫は貧困や家庭崩壊といった諸問題と結びついているのであって、もはや個人の問題と割り切ることはできません。

 そして著者は、不倫はたとえばインフルエンザのようにだれでも陥ることがありえる問題なのであって、個人の咎を追求することには意味がないという立場を採ります。

 これは極論であるかもしれませんが、同時に正論でもあるでしょう。

 もっとも、一般の既婚者は自分は(自分とパートナーは)不倫などとは無縁だ、と信じているかもしれません。

 ですが、だれだって事故のよう突然にに恋に落ちることはありえるわけです。

 じっさいに不倫してしまった人物も、自分が不倫するなど思ってもいなかったと証言しています。

 それでは、不倫を社会問題として捉えるとはどういうことなのか。

 それは不倫問題を社会全体で考えて防止していくということです。

 なぜ防止する必要があるのか、著者はその理由を五つ挙げています。

 第一の理由は、単純な話ですが高確率で周囲にバレるから。

 特に男性の不倫はきわめてバレやすいといいます。そして、バレてしまったら、家庭の平穏は崩壊します。

 それまでどれほど信頼と愛情でつながっていたパートナーだとしても、一瞬でその関係は崩れ去り、あとに残るものは不信と敵意だけなのです。

 仮に離婚しないで済んだとしても、一生、パートナーから愚痴や嫌味を聞かされつづけることになる可能性があります。

 第二の理由は、不倫後、仮に現在のパートナーと別れて不倫相手と結婚しても大半はうまくいかないから。

 うまくいくのは25%で、75%は結局別れるというデータもあるそうです。

 第三の理由は、不倫ウィルスは当事者だけではなく、その子供にも「感染」し、子供が成人後、親と同じように不倫をしてしまうリスクがあるから。

 第四の理由は、じっさいに不倫まで踏み込まなくても、「不倫未遂」、つまり配偶者以外に恋をしてしまい、日常生活に支障が出るパターンがありえるから。

 そして第五の理由は、不倫に中毒性があるからです。

「アルコールやタバコ、DVやストーキングと同じ」で、不倫は常習化しやすい。

 セックスの快楽は「落差」に比例するため、不倫相手との初めてのセックスは、その背徳感と高揚感によって、通常の性行為よりも圧倒的に強度が増すそうです。

 ゆえに、不倫のセックスを一度体験してしまった人は、多くの場合、それ以前には戻れない。

 そして、どうしようもなく不倫の関係に耽溺していくのです。

 その果てに待っているものが破たんでしかないとわかってはいても。

 著者は不倫がインフルエンザのようなもので、だれでも罹患する危険があるとし、そのためそれを事前に防止する「不倫ワクチン」が開発される必要があると語ります。

 いったい不倫という行為を防ぐためにはどのようなワクチンが有効なのか?