弱いなら弱いままで。
Once upon a time,long long ago――お伽噺の始まりはいつも同じ、いつともどことも知れない「昔むかし」を舞台に、流浪の王子や塔のうえの姫君の物語を語るのだ。
石田衣良初のSF小説『ブルータワー』もそんな御伽噺の系譜につらなる一作かもしれない。不治の脳腫瘍にかかり、一ヵ月後に死を控えたひとりの男の精神が、なぜか200年後の世界へ飛んでしまうところから物語は始まる。
「黄魔」とよばれる人工進化したインフルエンザ・ウィルスによって一度滅亡したその未来社会では、高度2000メートルに及ぶ七つの塔がそびえ立っている。そしてその塔の上層階の住人と下層階の住人、さらにはウィルスが荒れ狂う地上とでは、巨大な経済的技術的格差が存在していた。
主人公は七つの塔のひとつ、青の塔の支配者「三十人委員会」のひとりセノ・シューとしてこの世界の上下問題を解決しようと尽力するのだが――。
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