ベイビーステップ(25) (講談社コミックス)

 NHKの朝ドラ『あまちゃん』の百合展開が美味しい海燕です。それとはまったく関係ありませんが、『ベイビーステップ』が盛り上がっていますね。スポーツ的にも、恋愛的にも。

 スポーツ的にはエーちゃんはついに全国大会準決勝までたどり着き、あと二勝で優勝という佳境にありますが、恋愛的にはなんとすでにあっさり勝負がついてしまいました。なっちゃんの勝ち!

 って、おい、どうなっているんだ。エーちゃんと清水さんとなっちゃんで三角関係やるんじゃなかったのかよ! どう考えてもそういう振りだったじゃないか! 楽しみにしていたのにー。わーん。

 そういうぼくは清水さんが大好きなのですが、まあ、なっちゃんも好きだからいいや。以前にも書いたかもしれませんが(最近、何を書いていて何を書いていないのか思い出せなくなりつつある)、『ベイビーステップ』がラブコメ漫画としておもしろいのは、エーちゃんが大会で優勝する前になっちゃんとくっついてしまうことです。

 昔の少年漫画だったら、こういう展開にはならなかったでしょう。そこではヒロインは、いわば勝負に勝ったときの「賞品」であり、戦いの勝敗と恋愛の決着は密接に結びついていたからです。

 これはLDさんが言っていたことだけれど、かつての最もベタな少年漫画では、「相手に告白させた上で振る」とか、そういうのが美学だったと。『あしたのジョー』とかね。

 しかし、『ベイビーステップ』ではトーナメントでの勝敗と恋愛での好き嫌いが乖離してしまっているわけです。作中にエーちゃんよりテニスが強い人間はまだ何人か登場しているにもかかわらず、エーちゃんはなっちゃんとくっついてしまう。

 なんとなく不自然な展開であるような気すらするほどですが、よくよく考えてみるとそんなことはありません。あたりまえですが、「テニスのトーナメントで優勝すれば女の子も同時に手に入るべき」なんて理屈はないのです。

 ここらへん、少年漫画やライトノベルではおかしな理屈が成り立っていて「勝負ごとで勝ったり、ピンチを助けたりしたら女子は惚れる」という展開が常識化しているんだけれど、冷静に考えてみたらそんなわけはない。それはそれ、これはこれ、と考えるのが普通ですよね。

 もちろん、そういうことがありえないとは言わないけれど、いつもそういうルールが成り立つというのはおかしい。「いくらテニスが強くても、人間的にちょっと好みじゃないな」と思う女の子がいるほうが自然です。

 なっちゃんとか清水さんはエーちゃんの優しさにひたむきさに惚れたわけだけれど、必ずしもかれが強いから好きになったわけではないというところが重要。

 いままでの漫画やライトノベルで忘れられがちだったもの、それは「女の子にも選ぶ権利がある」という当然すぎるほど当然な事実だと思います。べつにトーナメントで勝ち上がれば自動的に女の子が好きになってくれるというわけではない。