ソードアート・オンライン (12) アリシゼーション・ライジング (電撃文庫)

 先日、『ソードアート・オンライン』の第12巻が発売されました。ぼくはウェブ版でひと足早く「アリシゼーション」編の結末まで読んでいるのだけれど、この小説はここらへんの話からいよいよ無類に面白くなってきます。未読の方は第2巻から第8巻までは飛ばしても問題ないので(おい)、ぜひ読んでください。

 『ソードアート・オンライン』、特に第四部「アリシゼーション」は日本のテン年代のエンターテインメントを代表する大傑作です。これはライトノベルがどうこうという次元ではなく、日本のエンタメ小説全体を見わたしても傑出した出来の作品だと思う。

 まあ、『十二国記』と違って大人の批評家たちはこの作品を高く評価したりしないでしょうが、でも、これほどめちゃくちゃ面白い小説はまずめったにあるものではありません。それだけは断言できる。

 『ソードアート・オンライン』は「主人公たちがヴァーチャル・リアリィRPGの世界に閉じ込められ、生還を求めて冒険する」という、それじたいは平凡なアイディアから始まります。圧巻はアイディアではなく、作者のストーリーテリングにあるといっていいでしょう。

 いまのライトノベルを見回してもちょっとこれだけ「語り」のうまい作家はほかに思いつきません。『ソードアート・オンライン』がほかのライトノベルを圧倒するセールスを誇っていることはあまりにも当然のことで、これほど魅力的に語られる小説はほかにないのです。

 もちろん、その中身はいってしまえばチャンバラ小説で、何か特別に新しいところがあるわけではないかもしれない。しかし、その安定し洗練された「語り」は素材の新味のなさを補って余りあります。

 美少年、美少女の主人公とヒロインを初めとする魅力的なキャラクターたち、いかにももっともらしく設定された舞台背景、そしてときにサスペンスを盛り上げ、ときにユーモアを満たして語り続けられる物語のおもしろさ、それらの要素が高い次元で合わさっているだけで十分に傑作に値するでしょう。

 惜しむらくは第一章「ソードアート・オンライン」完結後に続くエピソードがマンネリ化しかけているところだけれど、それはもう、仕方ないこと。いくら優れた作家でもそうそう新しいアイディアなど思いつくものでもない。ぼくはそう思っていました。「アリシゼーション」が始まるまでは。

 「アリシゼーション」はそのチャンバラ小説とセンス・オブ・ワンダーあふれるサイエンス・フィクション的アイディアを融合させた歴史的大傑作です。ぼくはライトノベル始まって以来の最高傑作だと断言します。