弱いなら弱いままで。
中村淳彦『職業としてのAV女優』は今年読んだなかでも五指に入る本だった。本書『デフレ化するセックス』は、その『職業としてのAV女優』の続編ともいうべき一冊。薄く読みやすいが、内容は重い。
テーマは前作に続いて「セックスという仕事」。ただ、AV女優にフォーカスした前作とは違って、この本は「カラダを売る女性」全般を扱っている。中村によると、数年前からセックス市場は「カラダを売ることに特別な理由がない、一般の女性」ばかりになっているという。
この場合の「特別な理由」とは、過剰な出費であったり、多額の借金であったり、悪い男にひっかかったことであったりする。とにかく本来、セックスワーカーとは「一般の女性」が生きている世界とはべつの世界に住んでいる異端の女性たちであった。その是非はともかく、そういうものであったのだ。
ところが、6、7年前からその状況に変化が見られ、4年前にはほぼ現在のような「一般の女性ばかり」の状況に変わっていた。あなたの知り合いにもいるかもしれない「普通の女の子」がカラダを売っているのである。もはや売春は「禁断の職業」ではなくなった。
信じられないだろうか。しかし、その背景にあるものはあきらかである。いまや深刻さを増す一方の「女性の貧困」だ。どこにでもいるような普通の女の子がカラダを売るその理由には「それ以外の手段ではどうしようもない貧しさ」が存在している。
どこかの途上国の話ではないし、「心の貧しさ」といった抽象的な話でもない。単純にお金がないからカラダを売らざるをえない女性たちが増加しているということなのだ。それも先に述べたような特別な理由があってお金が足りなくなっているのではない。ただふつうに生活していて、ふつうに生きていくことに困り、そして売春することにしているのである。
現代日本ではひとり暮らしする独身女性の3人に1人は年間の可処分所得が112万円以下という貧困状態にある。これではカラダでも売らなくては生きていけない女性がたくさん存在していて当然だ。
それは優秀な能力を持っているはずの一流大学の学生でも変わらない。慶応大学出身のある女性は学生時代から学費を稼ぐためソープランドに努め、一流企業に務めるまでになった現在もカラダを売りつづけている。
彼女は人格的にどこか「壊れている」のだろうか。そうではない。どうせ一日を無駄に過ごすくらいならカラダを売って金に変えたほうがいいと、どこまでも合理的に考えているだけである。ぼくの目から見ても、その感覚にはどこか荒涼たるものがある。
しかし、彼女のような女性は、いまや「普通」である。どこにでもいる普通系女子がカラダを売る時代。その背景をもう少し詳しく見て行こう。
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