俺の妹がこんなに可愛いわけがない (12) (電撃文庫)

 伏見つかさ『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』の最終巻を読み上げました。以下、ネタバレはしないつもりですが、結末を匂わせる文章があるかもしれないので、一切、最終巻の情報を仕入れたくないというひとはここから先は読まないでください。よろしくおねがいします。

 OK? さて、『俺妹』待望の最終巻なのですが、個人的には「まあ、満足かな」という出来でした。

 「満足」の前に「まあ」が付くあたりがキモで、完全に絶賛するつもりにはなれないけれど、楽しかったし、面白かったし、痛快だったし、笑えたし、とりあえずは文句なしというところ。

 ぼくがいうのも生意気ですが、伏見さん、ほんとに小説が上手くなりましたね。第一巻の頃とはべつの作品のよう。掛け合いのテンポといい、細かいくすぐりといい、実に絶妙。小説読んでいてここまで笑ったのはひさしぶりかも。

 単なる文字の羅列でここまで笑わせられるんだからただごとじゃない。それに加えてヒロインたちの可愛いこと! 黒猫といい、あやせといい、桐乃といい、単なるありきたりの萌えキャラの域を超えて、ひとりの人間としての存在を感じさせるものがあります。

 伏見さんは書いています。

 声も表情も動きも、目をつむれば想像できてしまうし、あいつってこんなやつだったよなと、多くの人が知っていて、ときには共通の話題にもなる。
 こうなってしまうと、もう本当に生きているのと変わらないな、なんて思います。

 まさに、まさに。初めは書き割りに近かったキャラクターたちを活かし切り、「それぞれに長所も欠点もある、生きて動いている生身の人間」を感じさせた技量は生半のものではありません。

 いまでは膨大な数にのぼるライトノベルのなかでもほぼ頂点に立つベストセラーだけあって、その面白さはまさに格別。売れている作品には売れるだけの理由があるというべきでしょう。

 さて、そのことを踏まえた上で、本作の結末はどうだったのか? 今回、ぼくが観測した範囲では「これしかない結末」という意見をいくつか目にしました。

 まさしくその通りで、終わってみるとこれしか考えられないエンディングとなっています。それはポジティヴな意味でもネガティヴな意味でもそうです。

 『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』は、おそらく現在のライトノベルの限界にまで踏み込んでいる。これ以上踏み込んだなら、まともな評価は得られないはず。

 その意味で、作者が打った手は最善手といえる。物語としてのテーマ的な一貫性を維持した上で、可能なかぎり読者の反発をそらすギリギリの一手。いやあ、よく考えたものだと思います。