弱いなら弱いままで。
いま、その偉業に挑んでいる作品として、たとえば新川直司『四月は君の嘘』がある。
主人公は天才ピアニストの少年。長いあいだピアノにふれない生活を送っていたかれは、あるひとりの少女との出逢いをきっかけに、ふたたび音楽の世界に足を踏みいれる。
それは世界がカラフルに息づく体験。ひとつの想い、ひとつの恋が、世界すべてをあざやかに染め上げていく。その描写のなんという清新さだろう。
新川が描きだす物語世界は、その隅々にいたる一々が瑞々しく、生気に充ちている。そしてまたこの漫画のコマの構成は 実にリズミカルとしかいいようがない。
ひとつひとつの絵が、コマが、セリフが、それこそ音楽のように連なって流れてゆく快感。この圧巻のリズム感は、もちろん後天的な努力もあるには違いないが、やはり作家の天性としか思われない。
『四月は君の嘘』。印象的なタイトルの物語だ。そしてその内容はタイトル以上にインパクトがある。女子サッカー漫画『さよならフットボール』に続くオリジナル長編第二作にして、新川は自分の世界を生み出すことに成功している。
なんて独創。なんて斬新。あたかもサイレントミュージック、新川が紡ぎだす無音の音は、たしかに読む者の耳にとどき、心をふるわせる。紙は音を奏でないにもかかわらず、ここには紛れもなくミューズの祝福があるのだ。
しかし、読むほどに唸らされるこれほどのスキルとオリジナリティにもかかわらず、『四月は君の嘘』にはどこか物足りないところがある。
どこがどう悪いというわけではない。むしろこれほど優れた漫画は少ないと思われるのに、何かもうひとつ、欠けているものがあると感じさせられるのだ。
いったいそれは何だろう? ぼくの単なるないものねだり、作品があまりに綺麗すぎるがための錯覚だろうか? そうかもしれないが、そうではないかもしれない。
ぼくはこの作品を読んでいるとどうしても羽海野チカ『3月のライオン』と比べてしまう。そしてやはり『3月のライオン』は凄いなあ、と思うのだ。
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