オイレンシュピーゲル壱 Black&Red&White (1)(角川スニーカー文庫 200-1)

 先日、人気シリーズ『攻殻機動隊』の新作アニメシリーズの開幕が発表された。押井守監督や神山健治監督が話題をさらった作品の続編ではない。過去の作品はリセットし、一から生み出される新たな作品になるようだ。その名も『攻殻機動隊 ARISE』。

 人気作家の冲方丁が脚本を、人気アーティストのコーネリアスが音楽を務めるということで、今回も話題になりそうだ。おそらく『攻殻』というおいしいコンテンツを眠らせておくのは惜しいが神山監督は忙しい、あるいはいま『攻殻』を手がけるつもりがないということで、完全新シリーズの開幕となったのだと推察する。

 まだほとんど情報は出されていないが、唯一公開された主人公「草薙素子」のヴィジュアルを見るに、キャラクターデザインから刷新されているようで、期待は高まる。声優は変わるのかな。とても楽しみだ。

 それにしても『攻殻』は今回で三度目のアニメ化であり、原作と合わせて四つ目の「世界線」を持つことになる。80年代末期に発表されてから20年以上時代に合わせて再生されつづけるこの作品の魅力、そして普遍性はどこにあるのだろう。

 ひとつにはもちろん原作者の異常なまでの先見性があるだろう。いまから四半世紀近く前にネットとサイボーグの物語をここまで細密に描き出すことができた士郎正宗の才能は驚嘆に値する。「ネットは広大だわ」という草薙素子のセリフは、いま読むと示唆的というより予言的ですらある。

 とはいえ、さすがに80年代に2010年代を超えるヴィジョンを提示できるはずもなく、『攻殻』も細部の描写はやはり古くなっている。それでもいまなお『攻殻』が続いているのは、新作が作られるたびに内容が一新されているからだ。

 士郎正宗が生み出した『攻殻』に、押井守は哲理と衒学を付け加え、神山健治はそれをきわめて高度なエンターテインメントとして処理した。そういうリファインの歴史があって初めて『攻殻』は世界をリードするコンテンツたりえているのだ。

 このままの調子だと、ひょっとしたら『攻殻』は作品世界の舞台である2029年まで続いてしまうかもしれない。いくらなんでも2029光学迷彩は実現しないとは思うけれど……。

 サイバーパンクの祖であるウィリアム・ギブスンの一部の近未来小説は、現実に追いつかれてすでに「近過去」を描いた小説になっているが、『攻殻』もいつかそうなる時が来るのだろうか。