俺の妹がこんなに可愛いわけがない (12) (電撃文庫)

 暑い日が続いていますね。ぼくが住んでいる新潟市はふしぎとそれほど暑くなりませんが、県内でも35度を超えているところもあるようです。

 ぼくは涼やかに冷房が効いた部屋にとじこもり、『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』を読み返したりしています。何度読んでもおもしろいし、読みやすい。特に文章がこなれてくる後半は恐ろしいほどのリーダビリティ。絶妙です。

 思うに、読みやすい文章を書くコツとは、普通に書くことです。奇をてらうことなくあたりまえに書かれた文章がいちばん読みやすい。

 ただ、この「普通」が案外むずかしく、ぼくはまだ体得できていません。シンプルで飾りけない文章を書けて初めてその先に進める気がします。ただやっぱり華麗なアクロバットを決めてみたい気持ちもあるんだけれどね。

 まあ、それはべつの話。『俺妹』のことを続けましょう。読み返してみて、あらためて『俺妹』の最大の魅力は人間関係の広さと豊かさにあると感じました。関係が恋愛に閉じていかないのです。

 もちろん、最終的には物語は京介と桐乃にフォーカスしていくのだけれど、それでもほかのキャラクターが排除されることはありません。沙織や黒猫たちは最後まで物語にかかわってきます。

 そもそもこの物語は桐乃の友達さがしの話として始まりました。それが多角関係ラブコメディに変わっていくのは物語後半のことに過ぎず、それまでは延々と彼女の友達関係のエピソードを展開しています。

 これが後半になっても活きている感はある。桐乃と黒猫、あやせは恋愛関係を巡ってのライバルには違いないんだけれど、同時に親友同士でもあって、結末に至るまでその友情が壊れることはない。その点が興味深い。

 「恋愛か、友情か」という二択選択は少女漫画などで腐るほどあったテーマであるわけですが、この場合は恋愛が無条件に至上の価値を持っているわけではなく、友情も少なくとも同等の価値を見出されているように見えます。

 だから黒猫は京介に恋愛感情を抱いてはいるんだけれど、そのことで桐乃を傷つけることはいやで、そのためにあえて京介と別れることを選ぶわけです。

 これそのものはよくある展開ですが、単に「友情を選んで身をひく」というだけの描写にとどまっていないところがおもしろい。黒猫はあくまで京介と関係を築くことを望んでいて、ただその前に桐乃と京介の関係を解決しなければならないと考えているんですね。

 この聡明さ。黒猫△。