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【無料公開】田中良紹:尖閣問題とTPP
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【無料公開】田中良紹:尖閣問題とTPP

2013-06-16 18:11
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今月の7,8日に行われた米中首脳会談の直後「フーテン老人世直し録(10)」に尖閣問題とTPPに関する懸念を書いた。その後に首脳会談を巡るいくつかの情報がもたらされたが懸念は払しょくできない。日本の国益は米中の狭間に埋没していくのではないかと思わせる。

首脳会談直後の報道は、尖閣問題について中国の習近平国家主席が「国家主権と領土は守る」と主張し、米国のオバマ大統領は日中が外交的努力で解決するよう求めたというものである。これに対して菅官房長官は「日本の立場を踏まえて対応してくれた」と感謝の言葉を述べ、安倍総理は「日米は同盟関係にあるのだから米中とは決定的に差がある」と日米同盟の優位性を強調した。

しかし報道を素直に受け止めれば、中国が領有権を主張した尖閣問題について米国は「日中が話し合って解決してくれ、米国を巻き込まないで欲しい」と言ったのである。それを「日本の立場を踏まえた対応」とありがたがるのはどういう意味か。中国の公船による領海侵犯を米国が牽制してくれたと考えるしかないのだが、そうした報道ではない。

その後11日になって米中双方から流された続報は、7日の夕食会で習近平主席が尖閣諸島の領有権を「核心的利益」と表現したという情報である。複数のいる席で中国は米国に「絶対に譲らない」と宣言した。これに対してオバマ大統領は米国を巻き込まないで解決してほしいと言ったのだから中国の思惑通りで、これでは全く「日本の立場を踏まえた対応」ではない。

すると13日にオバマ大統領から安倍総理に電話があり、日米の政府筋は「日本が脅迫される事を米国は絶対に受け入れないとオバマ大統領が習主席に迫った」という情報を流した。つまり中国の公船が領海を侵犯したり、自衛隊の艦船にレーダーの照準をあてたりする挑発行為を大統領が強く非難したというのである。それは両首脳が二人だけで散歩した8日朝の出来事で、オバマ大統領は中国の「棚上げ論」にも乗らなかったとされた。

かたや複数が出席した夕食会、かたや二人だけの散歩での話だが、これで米国は日中双方の顔を立てた。初めに中国向けの情報を流し、次いで日本向けの情報が流された。米国はどちらにも組しない姿勢を改めて示したのである。そして同盟関係にある日本には日米同盟を補強する仕掛けも行われた。10日からカリフォルニア州サンディエゴで日本の自衛隊と米軍が合同で尖閣を想定した「離島上陸訓練」を行い、13日には米国の上院議員3名が議会に中国の挑発行為を非難する決議案を提出した。こうしたパフォーマンスで日本は日米同盟のありがたみを感じさせられる。

それでは米国の牽制によって中国の領海侵犯がなくなったかと言えばそうではない。13,14の両日に中国公船の領海侵犯は繰り返され、昨年の国有化以来、200日に及ぶ侵犯が数えられたと言う。問題は変わっていないのである。

米国は日中で解決しろと言うが、日本の尖閣領有権を認めない。中国は問題の棚上げを日本に認めさせようと強硬姿勢を取り続ける。領土問題は存在しないとする日本に中国との交渉はありえない。この三角関係の中で問題解決の糸口は見えない。

私は米国が尖閣諸島の領有権を日本に認めないところに問題の根源があると思っている。1952年のサンフランシスコ講和条約で沖縄も尖閣諸島も米国の施政権下に置かれた。そして72年の沖縄返還で沖縄は日本の主権下に戻った。しかし尖閣諸島は日本の主権下ではなく施政権下にあるとしか米国は言わない。尖閣近海に海底油田があると言われて台湾と中国が領有権を主張したからである。

そして1993年に就任したモンデール駐日大使は「尖閣諸島の帰属問題に日米安保は適用されない」と発言した。その後の米国は「日米安保は適用される」と変わったが、しかし巻き込まれたくないのが本音である事は今回の首脳会談でも繰り返された。こうして尖閣問題は常に突き刺さったトゲとなり、日本は米国にすがりつくしかなくなるのである。

今回の首脳会談でさらに私の懸念を増幅させたのはTPP問題である。習主席がTPP交渉の情報提供を求めると、オバマ大統領は了承したと言う。日本が提供を求めても参加を決めるまでは断られてきた情報が、参加するかどうかも分からない中国には提供されるのである。日本は今一度TPP交渉の戦略を練り直す必要があるのではないか。

TPPには二つの顔がある。通商交渉という経済的側面と中国包囲網という政治的側面である。TPPには自由貿易交渉を通じて中国に代表される国家資本主義を解体し、米国流資本主義で世界を覆う目的があると私は見てきた。米国から見れば日本も国家資本主義の片割れなのだが、最終目標である中国を取り込む前に日本経済をアメリカン・スタンダードに転換させ、その包囲網で中国に迫る戦略だと考えてきた。

ところが米国は日本が交渉に参加する前から中国に交渉情報を提供する考えを示したのである。これでは中国包囲網と言って日本を引き込みながら、最初から中国に特別待遇を与えるようなものである。この待遇の差はどこから生まれるのか。世界の経済大国でありながら、ひたすら米国にすり寄る国と、それをしない国との差ではないか。

間もなく開かれるG8でもひたすら首脳会談を求める安倍総理に米国はつれない姿勢を示した。日本はいつまですり寄る外交を続けるのか、これを見ていると日本が米中の狭間に埋没する懸念は消えないのである。

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(記入に不足がある場合、正しく受け付けることができない場合がありますので、ご注意下さい)

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■田中良紹『国会探検』 過去記事一覧
http://ch.nicovideo.jp/search/国会探検?type=article


<田中良紹(たなか・よしつぐ)プロフィール>
 1945年宮城県仙台市生まれ。1969年慶應義塾大学経済学部卒業。同 年(株)東京放送(TBS)入社。ドキュメンタリー・デイレクターとして「テレビ・ルポルタージュ」や「報道特集」を制作。また放送記者として裁判所、 警察庁、警視庁、労働省、官邸、自民党、外務省、郵政省などを担当。ロッキード事件、各種公安事件、さらに田中角栄元総理の密着取材などを行う。1990 年にアメリカの議会チャンネルC-SPANの配給権を取得して(株)シー・ネットを設立。
 TBSを退社後、1998年からCS放送で国会審議を中継する「国会TV」を開局するが、2001年に電波を止められ、ブロードバンドでの放送を開始する。2007年7月、ブログを「国会探検」と改名し再スタート。主な著書に「メディア裏支配─語られざる巨大メディアの暗闘史」(2005/講談社)「裏支配─いま明かされる田中角栄の真実」(2005/講談社)など。
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日本は「和」、「情」の社会といわれ、縦社会が徹底し、「擦り寄る者」を重宝し、「単刀直入に発言する者」を遠ざける傾向がありますが、日本の政府の外交スタンスが、本ご投稿の通りであり、日本の特殊性と異なることなく、日本という国の外交レベルの幼さに愕然とせざるを得ない。自主的外交をする主体性がないのに、全面的に日米安保によって米国の管理下に置かれることを是認するのでもなく、さりとて反論するわけでもない。このような、思っていることを正直に言わず、いつ反旗を翻すか分からない国に対しての対応は、自ずから一定の距離感を持たざるを得ないのではないか。民族の多様性から、さまざまな点で米国と中国は理解し会える環境にあり、一人理解不可能な単一民族日本という国の対応に米国と中国が一定の距離感を確認したと見るのが、実態を把握しているといえるような気がしています。マスコミは多方面から情報を得ることなく、政府の流す情報を唯一絶対とすると、どこかでマスコミの生命を失うような気がします。

No.1 139ヶ月前
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