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三木さんは一人娘、最近、リタイアした父と専業主婦だった母の介護のことがとても気になるそうです。

話を聞くとご両親はまだ健康で、三木さんのすすめではじめた夫婦の散歩も毎日欠かさず、シニアサークルに入った父は仲間づくりが上手くいって、働き通しだったこれまでの生活を取り戻すかのように第二の人生を楽しんでいます。

人生80年が当たり前になった今、健康寿命を延ばすことに熱心な家族でも親の加齢にともなう身体機能の低下は覚悟しておかなければいけません。しかし、スポーツなど苦手な両親に何かよい方法はないかと相談を受けました。

三木さんも一所懸命、両親に会ったことを探してきたそうですが、ダイエットやメタボ対策のような受け入れやすいものが見つからないと話していました。

研究者によれば健康寿命を伸ばすには栄養、運動、社会参加がいいと教えてくれます。ところが、質の良い食事や運動を心掛けることは素人にも理解できても、社会参加というのは漠然としすぎていてよくわからないという話をもらいます。たしかに社会参加という言葉はどこか専門的なので、私は人との交流とか生きがいをもつことと言い換えるようになりました。

そこで必要になることは、自分にあった情報をいかに入手するかということで、さまざまな社会資源の中から選択する能力が問われます。実はそう考えるだけで脳は活性するそうですから、これを三木さんがするのではなく両親にしてもらうことで予防活動が始まったことになると伝えました。

さて、高齢者の多くが健康に不安を感じる70代後半から先に社会との接点や人との交流を保ち続けるには、さまざま工夫が必要になります。杖をついたり、重いものを持てなくなったり、トイレも近く長い距離を歩くことも困難なわけで、そうした人が家に居る時間が増えれば様々な障がいを持つようになります。

高齢社会のまちづくりにはベンチやトイレを備えた休憩スペースが必須で管理が大変というなら、今やコンビニより数が多くなったデイサービスなど高齢者施設をもっと活用できるようにすればよいと思います。

おでかけ情報のとり方にも、今インターネットでさまざまな情報を見つけ出すことが容易になり、多目的トイレや駅を車いすで乗換る際の道順などを専門に教えてくれるサイトがあり、商業施設や公的施設のバリアフリー情報も充実してきました。 また、三越百貨店は買い物に出かけるのが困難な人へのおでかけ支援をはじめ、JTBは旅行者へのユニバーサルサービスに取り組んでいます。あ・える倶楽部のトラベルヘルパーセンターづくりもその取り組みもその一つです。

私はおでかけの効用は、普段すみません、ありがとうと繰り返し、申し訳なさそうに生きているお年寄りが、外に出るとありがとうと言ってもらえる側になり、自分が生きていても良かったのだと実感することにあると思います。申し訳ないと思って生きている人からは、本当の笑顔は生まれません。だから、さあ外に出ようと言いたいのです。


【篠塚恭一(しのづか・きょういち )プロフィール】
1961年、千葉市生れ。91年(株)SPI設立[代表取締役]観光を中心としたホスピタリティ人材の育成・派遣に携わる。95年に超高齢者時代のサービス人材としてトラベルヘルパーの育成をはじめ、介護旅行の「あ・える倶楽部」として全国普及に取り組む。06年、内閣府認証NPO法人日本トラベルヘルパー(外出支援専門員)協会設立[理事長]。行動に不自由のある人への外出支援ノウハウを公開し、都市高齢者と地方の健康資源を結ぶ、超高齢社会のサービス事業創造に奮闘の日々。現在は、温泉・食など地域資源の活用による認知症予防から市民後見人養成支援など福祉人材の多能工化と社会的起業家支援をおこなう。