突然の訪問者が緑地公園からやって来る

ムクドリさん

我が家の煙突にムクドリが飛び込んできた、もう1週間前の土曜日のこと。
どういうわけか、この煙突、外からは入れるが中からは出て行けない構造になっている、
と問い合わせた煙突作家は言っていて、どうにもならない。
と言いつつ、煙突の最下部には暖炉型の大きなストーブがあるのだが、
そこにはこのムクドリさんは降りてくる気配が無い。
もっとも、その時は気がつかなかったけど、
ストーブの上部の空間は閉鎖していたので降りて来ようがなかったのだけど。
なので、彼としては、多分彼、煙突の出口に突進するしかなかったのだけど、
突進してはゴツンという音とともに落下し、煙突の途中にある踊り場的曲がり角にたたきつけられる。
そのうち疲れたのか、その煙突の曲がり角で動かなくなったようだった。

そんな騒動に気を取られていたら、ワイフが、あなた見て、向かいのアパートの屋根の上、
アンテナにもう一羽ムクドリがいる。
しかもかなりな鳴き声でさえずっている、ピュイーン、ピュンピュン、ピュイーン、ピュイーン。
あんたどこに行ったのよ、音はするけどあなたの姿見えなくてあたし不安、
早く出てきてあたしの眼の前に来て頂戴、ってやや怒り気味に言っているみたいに聞こえる。

そうだ恋人同士だったんだ。
今や春ど真ん中、若い二人は落ち着いて愛し合える場所探しの真っ最中だったんだ、
そこで、彼は煙突の上部をここは隠れ家に最適、
ベッドを作ればだれにも覗かれずにいつでもいくらでも愛し合えると勇んで暗い煙突に突入したんだ。
その結果が、事こころざしと異なり、出口なし状態に落ち込んでしまった。

多分困り果て疲れ果てたムクドリさん、人間救急隊が出動するしかない、
と、たまたま我が家に工事に来ていた大工さんの協力を仰ぎ、
部屋の天井に近い煙突途中の掃除用の穴から救いの箒を差し込んだ。
上手くそこに乗っかって出てきてくれたらよいのに、
でもそんなに野生のムクドリが人間の考えを理解してそこにつかまって出てくるのか、
そんなことありえないと思いつつ、その方法しか思いつかなかったので、やってみたら、出てきた。
よっぽど疲れていたのか、
向かいのアンテナの上で、怒りと不安で泣き叫んでいる彼女の声に恐怖を覚えたか、
いや、自らの恐怖を忘れたか、
そーっと箒を煙突から出し、そこにムクドリさんの姿を確認した時は、うれしかった。

すぐそばの窓から箒を庭に差し出したら、飛び立った。
まっすぐ向かいのアパートの上のアンテナに居る彼女に向かって一目散、ビューっと飛んでいった。
二人並んで一瞬チュンチュンとくちばしを交差させ、あっという間にどこかに飛び去った。

良かったわね、とワイフ。
愛し合う二人は強いね……、お茶飲むか、と脱力していたら、なんと二羽は帰ってきた。
再びアンテナに止まりこちらに向かってピュンピュン、ピュンピュン、ピュンピュンと何やらさえずった。
明らかに僕たちに向かって語りかけている、
しばし言葉を失い眺めていた、でもほんの一瞬だったのかもしれない、
二人はまた飛び立っていった。
どこか他のもっといい場所に巣を作るのだろう、
今度はちゃんと探します、ありがとう、って言ってくれたみたいだ。

義理がたいムクドリにちょっとココロ温まった。