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小飼弾の論弾 #45「対談・UI研究者 増井俊之さん @masui 「Scrapbox」が見せる、本当の電子書籍の姿」(その2)
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小飼弾の論弾 #45「対談・UI研究者 増井俊之さん @masui 「Scrapbox」が見せる、本当の電子書籍の姿」(その2)

2017-07-07 07:00

    「小飼弾の論弾」で進行を務める、編集者の山路達也です。
    今回は、5月9日(月)に配信した、ユーザーインターフェイス研究の第一人者、増井俊之さんとの対談テキスト(全3回)をお届けします。

    次回のニコ生配信は、7月24日(月)20:00の「小飼弾のニコ論壇時評」。旬のニュースをズバズバ斬っていきます(21:00頃からは、通常の「小飼弾の論弾」になります)。

    お楽しみに!

    2017/05/09配信のハイライト(その2)

    • みんな絵や図を簡単に描きたい
    • ページ上でプログラムも動かせる「Scrapbox」が見せる、本当の電子書籍の姿

    みんな絵や図を簡単に描きたい

    増井:触覚フィードバックがあっても違わないでしょ。タッチバーを使ったことがないので、よくわからないですけれども、そんなことよりやりたいのは絵を描くことですよ。きっと描ければ描いていますよ。

    小飼:なんで絵を描かないのかというのは、UIを考える上で根源的な問いのような気がします。我々は文字を使う前に絵を描きます。ところが僕も含めて大人は、絵を、少なくともコミュニケーションの第一の手段としては使わなくなる。絵の何が難しいかというと、どの時点で描き上がったのかわからないということではないですか?

    増井:私が言っている絵というのは、すごい絵じゃなくて、ちょっとしたダイアグラムとかですよ。例えば、「このモジュールとこのモジュールが関係しているよ」とか、「このステータスからこのステータスに変わるよ」とか、そういったことは絵で描かないとわかんなくなるでしょ? そういう絵がコメントのところに描いておけるといいなと思いません?

    小飼:仕事で使うのだとしたら、Visioとか欲しくなりますよね。そういえば、なぜかマイクロソフトはMacにVisioを移植してないよね。一番移植してほしいのに。

    山路:結局、気持ちよく使おうと思ったら、直にペンみたいなもので図を描くみたいなインターフェイスが欲しくなるということですか。

    増井:例えば、「ここでちょっと赤い丸を描きたい」という時に、「赤」を「#ff0000」とかそんな風に指定しなければいけないのはおかしいじゃないですか。そんなことをするのではなく、赤い丸を普通に描いて塗ればいい。それができないのは、できるソフトがないだけです。

    山路:Surface Bookみたいなマシンで、もうちょっとOSが練りこまれていたとしたら、増井さんも満足したんですかね?

    増井:もし絵がちゃんと描ければ今のMacよりはいいだろうと思いましたね。絵を描くとか、ちょっとしたノートを書くというのは誰でもしたいはずですよ。それが今はできないから、みんなしたくないと思いこまされて騙されているのがおかしい。

    小飼:頑張ってあさっての方向に成長しちゃう人もいますね。Excelで絵を描く人とか。

    山路:不自由さの中に生まれてくるクリエイティビティみたいな感じはありますね。

    増井:あれこそ、まさに人が絵を描きたいことの証明でしょ。

    小飼:僕だけなのかみんなそうなのかわかんないですけど、大人になるとカジュアルに絵を描きにくくなるのは、きれいに描かなければいけないという強迫観念や偏見があるからかも。

    増井:昔のワープロというのは綺麗に字を書くための清書機でした。でも、今はワープロみたいなものを発想のツールとして使っているでしょ。そっちの方が正しいんですけれども。絵にしても、簡単に描いたり発想したりするためのいいツールがないのが問題ですよ。

    小飼:いいツールの問題なのでしょうか? 僕は紙とかに絵を描く時というのも、なんとなく辛いと感じますね。

    増井:でも、丸をふたつ描いて、矢印を描くくらいだったらできるじゃないですか? それとか、ちょっと波形が欲しいとか、こんな回路とか、やっぱり描いた方が早いわけですよ。それを今のいろいろなツールを使ったら、ちょっとした論理回路を描くだけで大騒ぎじゃないですか?

    小飼:確かに。

    「みんなが絵を描きたいって思っているという課題は新鮮」(コメント)

    増井:絵を描くというと、みんなはPixivみたいなことを思うのかもしれないけど。

    山路:絵師にならなきゃいけないみたいな。

    増井:そうではなくて、単なるダイアグラムをさくっと描ければいいと言っているんですよ。
     例えば、ここに四角を10個描きたい。それがなんとなく揃っていればいいとか、なんとなく大きくなりながら四角が並んでいるようなピラミッドを描きたいという時に描けない。それを手で書くのも大変だし、プログラミングでも書けない。そんなのが、さっと書けたら嬉しい。

    山路:そう思いますね。

    小飼:それに近い努力というのは、最近Googleが始めた、適当な絵を手描きすると清書してくれるサービスかもしれません。一番面白かった例というのは、けものフレンズの中の人が本物のサーバルちゃんを描いたら、普通のつまんないライオンが出てきたというもの(笑)。元のデータが少ないからそうなっただけであって、方向性は正しいと思うんですよね。

    増井:そういう方向性は確かにあります。丸をふたつ描いただけで自転車が描けますとか、そういったものがいっぱいあるけど、それだと、今あるものしか描けないじゃないですか?。みっつ輪のある自転車を描きたい時は描けませんよね。ちょっとしたダイアグラムというかアイデアを描くというのができないのが、すごく嫌ですね。

    山路:iPad用のアプリで、手描きで丸とか四角を描くと綺麗にしてくれたり、矢印っぽい線を描くと正確な矢印になるとか、そういうアシストしてくれるものがあります。

    増井:そういうのはもちろんありますが、ベストというのはまだ出ていないんじゃないですか? それを使っている人があまりいないのは、欲しいと思う人もいないからじゃないですか。

    小飼:もうひとひねり欲しいですよね。

    山路:Omni Graffleという作図ソフトがありますけど、あれがもっと簡単なら、積極的に使いたいと思います。

    増井:私もOmni Graffleを使っています。便利なところもあるけど、やっぱり清書感がありますよね。汚い絵をパパッとやって、それをみたらなんとなくわかるという、よくあるナプキンにスケッチをするとかそういう使い方じゃないんですよ、Omni Graffleは。

    「アイデアを現実に変換するって、今大変だもんね。」(コメント)

    小飼:どこまで型にはめられるかですよね。子供のころはお絵描きしていたのに、大人になると文章を書く方が楽になっちゃうのかと言ったら、文章の方がずっと型にはめられるから。

    増井:メモ帳に絵を描かないですか?

    小飼:メモ帳に絵を描く時は、きれいに描かなきゃと身構えちゃいます。

    増井:絵といっても綺麗な絵じゃなくて、自分がわかればいいダイアグラムとか描かないですか?

    山路:私はnu boardというちっちゃいホワイトボードに図を描くことはけっこうあります。

    小飼:僕は、Graphvizにわかるように、描きます。

    「絵じゃなくて、図と言え」(コメント)

    増井:すみません。図ですね。

    山路:紙と鉛筆で図を描いて、写真に撮った方が速いみたいなところがあったりしますもんね。

    小飼:例えば今、僕の方の画面、映せますか? はい。例えばこんな図があります。こんな図は僕が描いているのではなくて、例えばこのPONumberというのは、POComplexにつながっています。POComprimnumberにつながっていますというのを、延々と文字で書くわけですよね。

    山路:文字で関係性を記述して、絵を生成するみたいな。

    小飼:そういうことです。

    山路:増井さんの方向性とは、まるで逆方向に(笑)。

    小飼:こういう文字で関係を書いておくと、勝手に綺麗な絵にしてくれるという。

    増井:本当に使っている人、初めて見ました。

    小飼:これは、超絶便利です。僕は絵が描けないので、自分で描くよりも文字で指示してコンピュータに絵を描かせた方が楽だという。

    増井:こういうダイアグラムは、いいかもしれませんけど、車輪がみっつある自転車をどうやって描くんですか?

    小飼:そういうレベルになると、やっぱりお絵かきはしたくなります。

    増井:この前、どんな形が入力デバイスとして良いかなと考えていたんですけども、まあパソコンで描けないから、しょうがないからBoogie Boardを買ってきて、使ったりしました。昔のBoogie Boardは描いた図をPDFとして出力できるんですよ。今のモデルはできないけど。
     PDFで貼ったのをこっちでコピーしてきて、それをGyazoというサービスにアップするという、すごく面倒くさいことをして貼っていましたね。アホみたいじゃないですか、パソコンの画面に描ければ一発なのに。そういうこともあって、Surface Book がいいかなと思ったんですよ。

    山路:こんなことが、21世紀になって解決できていないというのが、意外なというか、みんなが洗脳されていて気づかないというか。

    ページ上でプログラムも動かせる「Scrapbox」が見せる、本当の電子書籍の姿

    増井:洗脳されていますね。疑問を感じないのはね、そんなもんだと勝手に思っちゃっているんでしょう。
     話が変わりますけど、電子書籍ってあるじゃないですか?あれって基本ページをめくるようになっていますよね。
     ページというものがあって、めくり方はいろいろあるけれども、何らかの方法でめくりながら読むということが決まっているじゃないですか。ところが考えてみると、別に私はページをめくりたいわけじゃないんですよ。

    山路:(笑)。

    増井:中味を楽しむか、学習をするか、そういうことをしたいのであって、決して紙みたいなものを、四角いもののページをめくりたいわけではないじゃないですか。

    山路:パソコン上では、画面をスクロールできるわけですからね。

    増井:それで全然構わないじゃないですか。

    小飼:そういう漫画は出てきてはいますね。めくるのではなくって、スクロールしているものが前提にしている。

    増井:技術書でも、ページでめくる必要性ってゼロじゃないですか。ハイパーリンクとかがあればいいんでけど、大抵の技術書のPDFというのは、リンクが普通のウェブよりも使いにくいですよね。
     それに、書き込みができない。そこにちょっと色を塗るとか、できなくはないけれども、あくまでも紙の上に塗るという雰囲気のものが多いでしょ。
     本当は、書き足したり、絵を描いたりとか何でも自由にできれば、いいはずじゃないですか。そんなことができなくても、誰も文句を言わずに、ずっとページをめくり続けている。やりたいことは、内容を勉強することであって、ページをめくりたいわけじゃないのに、電子書籍といった瞬間に思考停止してみんな紙をめくりたがる。

    山路:出版業界の人間として、エクスキューズするなら……(笑)。

    増井:エクスキューズできます?

    山路:今、紙で販売されている本を、低コストでデジタル化するのが難しいということはあると思います。

    増井:だったら、もっと低コストに、電子書籍しかつくらなければいいんじゃないですか?

    山路:やっぱり紙というモノがあった方が買ってもらいやすいというのがあって。

    増井:そこで、すでに思考停止していません? 売れればいいですよね?

    山路:もちろんです。ただ、電子書籍の普及はどうしても頭打ちになる傾向があって、いまだに電子と紙があったら、紙の方が売れるみたいな状況があります。

    増井:電子の方が使いやすかったら、そっちの方を買うでしょ? 絶対、技術書なんかの方は電子の方がいいし、辞書なんかもそうでしょう。

    山路:はい。

    増井:辞書は、紙の方が使いやすいという人はいないでしょう? ということは、電子的な辞書の方が、紙の辞書よりも使いやすいから、そっちを買うわけじゃないですか? 辞書なんかよりも、もっと使いやすい電子なんとかはいっぱいあるはずなんですよ。

    小飼:ジャンプコミックのやり方というのは、少し参考になりますよね。いっぱい昔の名作のカラー版を出しているじゃないですか? なんで、それが改めて売れるかといったら、カラ―というのは、紙に刷るコストというのが、すごく高いわけですよね。だから、もし、それを印刷して売ろうとしたら、同じ値段でできないわけですよ。なので、電子で配れば普通に再現されるわけですよね。

    山路:付加価値をつけて、売ると。

    小飼:コンピュータから慣れた人からいったら、それのどこが付加価値なんじゃいと思うかもしれないですけど、実は、それも立派な付加価値で、立派に売れているみたいです。

    山路:私自身は、電子書籍がある本については電子書籍の方を買っていますけどね。

    増井:普通の書籍には、目次とか索引とかがあるじゃないですか。紙の本だと目次や索引がないと使いづらいからです。電子書籍なら索引なんか絶対にいらないじゃないですか。でも、今は電子書籍なのに索引がついていたりしません?

    山路:電子版を制作するために余分のコストを掛けられないという、かなり後ろ向きな事情だと思います。

    増井:出版社の都合は存じ上げませんが、これからの著者が技術書を書くんだったら、そういうPDF的な考え方をしていたらいかんと思いますけどね。読みやすいような形式で書くべきであって、それだったら、たぶんScrapbox的というか、Wiki的というか、そっちの方がいいはずですよ。画面、出せますかね?

    増井:これはScrapboxで書いているページの集まりで、プログラミング練習問題になっています。プログラミングは、なかなか勉強するのが難しいというか、面白くないことが多いので。

    小飼:いや、面白くないってことは!

    増井:あくまで普通の人にとってはですよ(笑)。全然プログラミングには興味なくて、「何の役に立つの?」という人にも、面白く勉強できないかなと書き始めたんですが、本にするよりもScrapboxのままでいいんじゃないかと思い始めたんです。
     例えば、ランダムウォークというプログラムがあります。

    増井:これはp5.js1で書いてあるんですが、短いでしょ? バカみたいなプログラムですけども、ここからすぐに動かせるというのがミソでして。
     こちらは、正規分布を体験するプログラムです。

    増井:これが何やっているかというと、乱数を10回計算して、それを足したものを変数valに入れて、そのヒストグラム2をとっています。

    増井:つまり乱数を10回足しているだけなんですけど、そうすると、なんとなく正規分布ぽくなる。これを中心極限定理と言います。この定理を知っている人には当たり前なんですが、知らない人に「乱数を10回足したら何になりますか?」と言ったら「乱数」と答えてしまうんですよ。でも実は、乱数10回足すとだいたい正規分布になります。

    山路:そのことを、身をもって体験できるわけですね。

    増井:そうそう、こういうちょっとしたプログラムを体験できる。ページを書いて、そこにプログラムを書くと、それがそのまま実験できます。さまざまなものをちょいと書いて、実験することができる。紙の本では、プログラムを動かせない。やっぱり動くのが面白いわけですよ。
     Scrapboxは、こういうページを無限に書くことができます。これをそのまま電子書籍ですよと言って、売ることができれば、かなり面白いんではないかと。
     人が書いたプログラムを写してきて、ちょっとパラメーターを変えてみたらどうかとか、応用できるじゃないですか。
     こういうのが、あるべき電子書籍の姿かもしれないと思っちゃうわけですよ。
     こちらは、幸田露伴の『観画談』という小説です。捨ててしまうことを「抛擲」というそうで、私もこの小説を読んで初めて知ったんですが、単語をクリックするだけで新しいページが作られて、そこに意味を書き込んでいける。要はどんなコンテンツも、フレキシブルな電子書籍として使えるのではないかと思ったんです。

    山路:本来、ティム・バーナーズ=リーが目指していたWebって、こういうものかもしれないですよね。

    増井:それはあると思いますね。

     
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