「小飼弾の論弾」で進行を務める、編集者の山路達也です。
2018年6月19日(火)配信の「小飼弾の論弾」の後半をお届けします。
次回のニコ生配信は、2018年10月23日(火)20:00からの「小飼弾の論弾」です。
お楽しみに!
2018/06/19配信のハイライト(その2)
- 科学研究衰退という日本の縮図
- ケイ素生物絶滅のお知らせとSF
- 小児性愛とセックスロボット
- アインシュタインと東洋人差別
- 何かを疎かにしてない自覚がない愛は軽い
科学研究衰退という日本の縮図
山路:じゃあ、さっき言った科学技術の話ですね。日本の科学研究というのが随分衰退しているっていうことが散々言われているんですけれども、それがこの白書で正式に書かれ、それを閣議決定されたというニュースが出てます。読むと、「科学技術について日本の基盤的な力が急激に弱まっているとする2018年版の科学技術白書を閣議決定した」
小飼:閣議決定したと、はい。
山路:これ散々前から言われていたことで、最近だと『Nature』でしたっけ、『Nature』でわざわざ日本の科学技術大丈夫かよみたいな特集まで組まれてた。これ今更閣議決定で、この白書を出すっていうのも……
小飼:それで国としてこういった施策というのは失敗でしたみたいな振り返りはあるの? 確かひたすら現場の人を責めてなかったっけな?
山路:「白書は大学に対し、会議を減らして教員らが研究に割ける時間を確保することなどを提言。政府に十分な投資や若手研究者が腰を据えて研究に取り組める環境の整備などを求める」くらいですかね、ここで記事に書かれてるのは。
小飼:いやあの、こういうのも何だけども、圧倒的な失敗というのは法的研究機関の大学とかも含めた独立行政法人化でしょう。もう目に見えるじゃん。目に見えるじゃん。
山路:あれはなんで、あれを決めてしまったんでしょうね? というところはあるんですけど。その行政法人化、独立行政法人化。
小飼:実はアメリカには国立大学というのはないんですね。公立で1番パイがデカいというのは、州立大学までで。
山路:ああそうなんですか。
小飼:はい。それでご存知の通り米国というのは、私高公低、私学大学のほうが公立大学よりも強いんですね。
山路:スタンフォードとかハーバードとか。
小飼:はい。ハーバードに至っては米国の歴史よりも長いんですから。どっちがもう偉いかといったら、もう自明なわけです。ケンブリッジというと、たぶん日本ではイギリスのほうばっかり知られてると思うんですけども、米国のケンブリッジにもハーバードとMITがあるので、こっちも同じくらい有名で、今やこっちのほう、そう米国のケンブリッジのほうが英国のケンブリッジよりも重要かもしれない。
山路:えー(笑)。
小飼:たぶんそういうのを見てて思ったんでしょうね。日本もそうしなきゃと。でも日本には州なんかないからどうしたらいいか。そうかじゃあ今の国立大学、国立研究機関というのを私学化しようと、そういう浅はかな考えの元に話を進めたんでしょうね。でもその米国ですら、国立大学はなくても国立研究所というのはれっきとしてあるわけですよね。1番デカくて有名なところとだと、NIH(National Institutes of Health、アメリカ国立衛生研究所)とかね。
医療研究の中では最も重要な研究機関というのは、もうMayo Clinicとか、あと各大学でも頑張ってますけども、何といっても大事なのはNIHですよね。伝染病とかの対策のCDC(Centers for Disease Control and Prevention、アメリカ疾病管理予防センター)というのも当然、これも国立です。
だから大事なものというのは、連邦政府が連邦政府の金でやってたんですよ。
山路:なんか見る所が、見誤ったということなんですかね? 日本の大学改革において。
小飼:大学改革っていうのはもうやめましょう。大学改悪と言いましょう、それは。日本はしくじったの、でっかくしくじったの! これは個人的な感想を言うと、福一の事故(福島第一原子力発電所事故)よりもでかい、人災としては。独立行政法人化というのはでかい。本当に誰得な世界ですよ。
山路:これ、しかも若手技術者とかが随分困ってるっていうことは、そこから復活していくのっていうのは、どんどん難しくなりますよね。1回人口減少したところで、また人口増やすのが難しいみたいなもので。
小飼:そうそう。だからあれは本当に取り返しのつかないことをしてしまったレベルなんじゃないですかね。しかもまだそのことを率直に認めてれば、今後はそれを直すためにっていう施策も出しやすいんですけども、未だに、未だに! でしょう。未だにひたすら現場を責めてるわけですよ。
山路:うん。これなんか日刊工業新聞がすごい気楽な社説を書いてましたね。「研究に限らず何事にも世界にチャレンジする意識を植え付けることが重要ではないだろうか」とアハハ、現場のチャレンジ精神が足らんと言ってますけどね……
小飼:でもこういうのも何ですけども、研究者というのはもし自分の研究が正しくなかったら、その証拠を見せられたら、間違ってましたって言うのは義務ですよね。義務ですし、それが研究者の倫理なんですよ。少なくとも独立行政法人化が失敗だったというのは、どこのどんな統計を見てもそうだって言い切れるだけの証拠が集まってるわけですよね。
山路:『Nature』で特集組まれるわけですからね。白書が出る前に『Nature』が出たっていうのは、『Nature』の影響で結局白書を閣議決定することになったんじゃないかみたいな。
小飼:ご愁傷様です。だからまず、現場ではなくって、トップがあの時の決断は間違ってましたって言うのは、そこからですよね。
山路:謝らないですよね。日本の政治家は。
小飼:それを謝らない限りはどんどん下がり続けます。はい。僕が断言するまでもない、それは(笑)。
山路:ここで現場というか、何か出来ることはないんですか。そういう大学に関わる研究者とかができる、この場で出来ることっていうのは、もうないんですかね、こういうふうにここまで進んじゃうと。
小飼:いやでも、こういうのも何ですけれども、科学や技術の素晴らしい点というのは、一度それがもたらされたら、その御利益というのは一国にとどまらないんですよね。だから例え自分の国でなくても、業績をあげればそれはちゃんと日本のためにもなるわけです。
山路:もう外へ行けと。アハハ。外の大学にちゃんと行って研究しろよという。これ、それにしてもなんか現場、ひどい環境でよくみんな文句も言わずに……
小飼:それがいけなかったの、それがいけなかったの! もし現場の人たちに唯一悪い点があるとしたら、ちゃんと上にNoを言わなかった。「こんなんやってられるか!」って言わなかったことなの。
山路:ストライキとか、デモ行進なり。
小飼:そう! いやだからストライキやってもいいんですよ。だからそうやってストライキやった結果、実験で使ってたペトリ皿の中身が全滅してたとかいうのも、いいんですよ。でもそこまでの犠牲を払う覚悟がありましたか。
山路:やっぱり目の前の職とか失うと怖いですもんね。
小飼:あるいは目の前の研究ですよね。特に生物系とかだと1日温度管理に失敗したら、全部が吹っ飛んじゃう可能性というのはあったわけですよね。
山路:ある意味そういう人の良さ、真面目さにつけ込まれちゃったみたいな。
小飼:そうなんですよ。だから強いて悪いところがって言いましたけども、でもそんなところまで気にかけるのは、研究者じゃないよねっていうのはこれまた一理あることなんですよね。だからこそ、そういった人たちのおさんどんに相当する人たちが面倒見てあげなければいけないんですけども、こういうのも何ですけど、すごい強引な例えなのを承知で言うと、研究者というのは部活動に打ち込んでいる「子供」なんですね。「子供」なんですよね!
山路:確かに例えが(笑)。
小飼:そう、だから彼らの弁当を作ったりとかですとか、そういった仕事まで彼らにさせるというのは、あんまり誰も得しないですよね。
山路:ただでさえ、事務処理に今追われてたりとかもするみたいな。
小飼:そうそう。
山路:研究できなくて困ってるみたいな、そこでさらに政治活動までやるっていうのは大変な負担ではありますね。
小飼:そう、だからこう言うのも何だけれども、特別な子供たちなんですよ。なんですけれども、普通の大人として扱っちゃったんですよね。だから、すごい扱い方を間違えた(笑)。
山路:日本って、あらゆる人に、あらゆる能力を求める嫌いがありますよね。研究者でもマネジメントをして、その事務処理までして、研究もやって教育もやってみたいな。
小飼:そうそう、極論してしまうと、研究員だった頃というのは、財布を一切見たことがないとか、買い物を一切したことがないっていうのは、僕はそれはそれでいいと思う。数学者とかけっこうそういう人たちいるから、うん。
山路:アハハ。神永正博先生とか珍しいほうですよね。
小飼:珍しいほうです。だからあそこまで。でも神永先生は元日立の社員でもありますからね。
山路:確かに民間出身でもあるから。にしてもそうか、皆ストライキをしなかったから……
小飼:これ逆説的なんですけど、じゃあなんでそういう風になったかっていったら、日本では秘書に相当する仕事、職業のreputationというのが全然高くないんですよね。だから研究に打ち込めるのも才能だったら、その研究員たちに雑務を気にさせないというのも、これまた才能なんですよ。そっちのほうをどういうふうに評価したかっていったら、日本はただの雑務係として、はい。
山路:秘書としてキャリアアップするみたいなやつがないですもんね。
小飼:そうです。だから実は本当によくできた秘書というのは、本当に有り難い存在で、はい。
山路:そういうバックオフィス的なところを評価するとか、きちんとそういうスタッフ部門を評価するみたいな仕組みっていうのは、日本の会社にも大学にもないような気がしますよね。
小飼:いやあ、だからそうそう、その結果が書類改ざんですよ。そういうことなんですよ。裏方を舐めるっていうのはそういうことなんですよ。
山路:なるほどね。いやしかしここで大学の話聞くと、暗い結論にいつもなりますよね、どよーんみたいな。
小飼:うん、だけども、あれもまた日本の縮図なんですよね。明らかに上が間違っているので、上が間違いを認めることもせず、交代もせず居座って、下を責め続けるというのは、だからそれもまた日本の縮図なんですよ。だから、こう言うのも何ですけれども、まず「隗より始めろ」ではないですけども、まず大学の低下傾向というのをキチッと止めて、とりあえず逆転させられたら、日本もついてくるんじゃないかなという希望はある。