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100キロ超級・日本人最後の金メダリスト石井慧がコロナ禍のオリンピック、日本柔道“復活”という幻想を語る!(聞き手/ジャン斉藤)


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──
K-1の電撃参戦発表がされましたけど、オリンピックの最中にこういう発表をしちゃうのも石井さんらしいなと思ってしまったんですけど(笑)。別に狙ったわけではないですよね?

石井 ハハハハハハ。全然狙ったわけではなく、たまたまですね。

──以前からK-1事務所を訪問したり、そういう流れがあったうえでの話ですもんね。

石井
 そうです。そもそも今回の東京オリンピックは開催が1年ズレましたからね。

──
コロナ禍ということでオリンピックの存在意義が問われてるんですけど、以前オリンピックの価値をもっとも揺さぶったのは石井さんじゃないかと思いまして。

石井
 ありがとうございます。

──
「ありがとうございます」なんですか?(笑)。

石井
 ハハハハハ!

──
あらためてオリンピックや柔道のお話を聞かせていただければなと思ってます! まずコロナ禍における開催は基本的には反対の立場ではあったんですよね?

石井
 そうです。ボクは時期とかは関係なくイチ競技者、オリンピックに出ていた選手として、なんていうんですかね……他の選手に「負けちまえ!」って思ってると思うんですよ(笑)。

──えっ!?

石井
 オリンピック出たことある人、金メダル獲ったことのある選手は、他の選手にそう思ってるはずです。

──そんなもんなんですか、本音としては(笑)。

石井
 はい。その中でコロナっていうものがあって「やるか・やらないか」って話になったのならば、オリンピックはやらなくてもよかったんじゃないかなって。そうすると誰も金メダルは獲れないじゃないですか。やっぱり自分が一番かわいいというか。そんな感じです(笑)。

──
それはつまり金メダルは特別な存在の証であると?

石井
 金メダリリストだから特別なのではなく、自分のモノサシでは100キロ超級のチャンピオンは特別というか1番という認識です。自分だけが特別な存在でありたいというか。みんなやっぱり競技者はそういう感情を持ってると思います、そう思ってないとすると逆にちょっと……そいつがウソついてるか。

──
どうなんでしょう(笑)。嫉妬する感情がまるでないということは、一線を引いていたりするんでしょうね。

石井
 そう思います。

──
石井さんは柔道やオリンピックからは離れてるけど、別の競技で全力を尽くしてるからこそで。

石井
 あとボクは正直に生きてるんで。

──
いまの段階でもズケズケと言っちゃうんだから、本当正直なんだなと思います!(笑)。

石井
 ありがとうございます(笑)。みんな同じこと言うのもね、つまらないですし。いまの日本って媚びを売るというか、世論に媚を売らないといけないじゃないですか。そう言わないと逆に叩かれるというか、吊るし上げられるみたいな。みんなそこを気にしちゃうから。

──
ただ、石井さんはテニスの錦織圭選手が「(新型コロナで)死者がこれだけ出ているということを考えれば、死人が出てまでも行われることではない」「コロナの感染者が出ない時にやるべきかなとは思う」とコメントしたことに「競技により五輪の立ち位置は違う。テニスやゴルフなどはプロも確立されているし五輪と並ぶ名誉も何かあるだろう」「五輪の為に命を削り名誉と金のために命をかけてる選手は世界に沢山いる。だからこんな綺麗事を言うな」ってツイートで批判されてましたよね。

石井
 そうですね。もしボクが選手で東京オリンピックに出るとしたら、コロナで世の中がどうだろうが関係ないですから。

──
何があろうとオリンピックには絶対に出たいと。

石井
 絶対にやりたいし、関係ないですもん、そんなの。自分の家族がコロナで死んでも「東京オリンピックはやってくれ!」って思いますね。まあ、オリンピックもいろんな競技があるから、選手の立場によりますけどね。リアルガチで小さい頃からオリンピックの金メダルを獲ることを目標にやってきた選手は絶対にそう思ってると思いますよ。

──いまの発言を聞いて誤解を招く人はいると思うんですけど、中止になっても仕方がないという気持ちは……。

石井
 (さえぎって)いや、それは誤解を招くのはしょうがないと思うんですよ。結局オリンピックチャンピオンになった選手は、みんな孤独だと思うんですよ。なんでかっていうと、そのとき世界一になった人って1人しかいないじゃないですか。日本のほとんどの人はお茶の間でテレビを見ている人なんで、その景色は誰も見られない。同じ感覚なわけではないですよね。

──
常識では測れないってことですね。

石井
 だからボクのこういった発言を「わからない」のは当然と思ってるんで。ボクはそれを理解してるから全然大丈夫です。

──
今回コロナ禍でオリンピックをやることに対して、アスリートに対する批判の声もけっこうあるんです。たとえば幼少の頃からスポーツに熱中できるのは特権階級の人たちだと。

石井
 それは違いますね。まずスポーツはボクの中では国力だと思ってるんです。メダルの数を国で競ってる現状はあるじゃないですか。今回じゃなくてもアメリカ、ロシア、中国なんかはメダルの数を競ってますよね。

──
大国はスポーツも強いですよね。

石井
 そうなんです。そこにはやっぱり国の力はあると思うし、メダルを獲ることによって人生が変わる選手もいますし。そのためだったら、なんでもするというか、命を投げうつ覚悟のある選手がほとんどで。結局のところ先進国ってほんの一部で、やっぱりスポーツは成り上がるためのひとつの手段じゃないですけど。そこは保健体育とは違いますね。やっているキツさも違うし。

──
国が豊かであるからスポーツに力を注ぐことができるし、またスポーツによって人生を変えられる人もいるってことですね。大坂なおみ選手も才能が見込まれて支援があったことで一流プレイヤーに成長したわけですし。

石井
 普通の人が何か遊んでいるときに相当な時間をトレーニングに費やすし、自分の身体に対して投資もしないといけないじゃないですか。そこにもお金は必要だし、スポーツをやってると慢性的なケガも増えてくる。身も削ってるわけなんで。

──
元フェンシングの銀メダリストの太田雄貴さんが「オリンピックのメダルはその人の人生を大きく広げてくれる、いわば、『通行手形』だ。会いたい人に会えたり、行きたかった所に行けるようになる。通行手形は、持っているだけだと、活動範囲は広がらない。オリンピック選手には沢山の場所に行き、沢山の人にポジティブなメッセージを発して欲しい」とツイートしたことで、それもまた批判を浴びちゃったんです。コロナでみんな大変なのに通行手形とは何事だと。通行手形って言い方はボクは別におかしくないなと思ったんですけど。

石井
 ボクはガチで金メダルを通行手形にしてるというか(笑)。まずアメリカのグリーンカード。金メダルとノーベル賞受賞者は特別枠なんですよ。

──
えっ!?  そうなんですか。

石井
 銀メダルじゃダメなんですけど。金メダルとノーベル賞受賞者だけ。

──
ノーベル賞と同格なんですね。

石井
 それと、どこの国に行ってもイミグレーションやビザを取りやすいし。他の人より全然簡単だと思います。やっぱり通行手形っていうより信用になりますよね。初めて会う人にも信用がある。

──ゴールドメダリストというだけで。

石井
 人から信頼を得るというのがやっぱり一番大変で、生きていくうえで信頼は重要じゃないですか。柔道をやってて一番よかったのはやっぱり競技人口が多いんで。どこの国に行っても柔道ってあるじゃないですか。どこに行っても金メダルで信頼を得られるという。

──逆に「通行手形」って言葉に対して批判する人は「スポーツの価値はサクセスストーリーだけじゃないんだ」っていう青臭いものなんだと思うんですね。

石井
 そういうことを言ってる人たちは媚じゃないですか、結局。柔道で嘉納治五郎先生が「自他共栄」とか言ってるじゃないですか。あの言葉、ボクが知ったの最近なんで(笑)。

──あれま、そうなんですか(笑)。

石井
 そうなんですよ(笑)。ボクは特別昇段なんで昇段審査を受けに行ってないし、全然知らないんですよ。「自他共栄」もキレイごとだなと思うし。これを知ったのは武井壮に対して噛み付いたときに……。

――ああ、オリンピック絡みの件で。

石井
 誰かからDMで「初段を取ったときにこの言葉を忘れたのか?」ってことで「自他共栄」って送られてきたんですよ(笑)。

──
ホントに最近だったですね。

石井
 そうです。そもそもボクは父親が柔道やってたことで「柔道をやれ」と。全然弱かったんですけど。2008年のオリンピックは大阪か、北京だったんですよね。ずっと「大阪オリンピックを目指せ」と言い聞かせられてて、それだけしか見えてなかった感じです。

──
なるほど。さっき武井さんの話が出ましたけど。

「オリンピックはメダル争いだけじゃなく、スポーツ先進国もまだスポーツが根付いていない国も、大きな国も小さな国も、参加してその力を試す事ができるのが魅力だ 世界では弱くてもその国のトップアスリートなんだよ 国の背景を知って観る事で楽しみは膨らむ その国に新たな文化を作る戦士たちなんだよ」という武井さんのツイートに、石井さんは「本気で競技やったことないんだろうな」とリプしましたね。

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――石井さんからすると、武井さんは厳しい現実がわかってないという感じですか?

石井
 いや、厳しい現実もわかってるとは思いますけどね。だから世論に媚を売るようなことを言うんだろうし、キレイごともよく言うじゃないですか。

──
ああ、そこなんですね。

石井
 はい。ただ、本気で競技をやってないんじゃないかってのは、あんまり言いたくないですけど、十種競技で彼はオリンピックに出てないですよね?

──
出てないですけど、日本のトップではやってたそうですね。

石井
 そうですけど……彼が本当に十種競技をやろうとしてやっていたのか、十種競技で日本新を叩き出したいっていう思いでやってたのか。それとも大学に入ったときにいろんな競技をやるうえで十種競技だとを記録を作れたり、オリンピックに出られるから、今後のちょっとしたステップアップに使おうってことで始めたのかで違ってきますね。

──
動機ですね。

石井
 はい。武井さんがどうだったかはわからないですけど、この競技じゃ一番になれないなら、こっちをやろうってのはボクはあんまり好きじゃないんですね。それでも本気でやってるんでしょうけど、そこは生き方の問題なんで。でも、もし仮にですよ、武井さんがいろいろ考えてオリンピックには出れないけど、十種競技で日本チャンピオンになって、そこから芸能界に進出してタレントになるんだって目標があったのなら、それは成功者ですもん。タレントになって稼ぎたい、有名になりたいと武井さんが考えていたのならボクは全然、否定しないです。。

──
なるほど。だからこそ石井さんからすれば「オリンピックはメダル争いだけじゃなく……」という武井さんの言い分に「競技を本気でやってない」と物申すのは理解できますね。

石井
 だから立ち位置によって違いますよね。ゴールが違う、ボクはボクの生き方のモノサシの話をしているだけで、自分の美学じゃないですけど、自分の考えを言っているだけで。

──
いろいろと騒ぎがあった中でのオリンピックですが、柔道は金9、銀2、銅1。これは「日本柔道復活」という評価でよろしんですよね?

石井
 いやあー、ボクは逆に……。

──
あ、違うんですね。

石井
 ……これはたとえが合ってるかわかんないですけど、競技がサッカーからバスケットボールに変わったみたいな感じ。わかります?

──
そ、そんなに違うものなんですか!?

石井
 競技として違うってことじゃないんですけど、たとえばサッカーってゴールってなかなか入らないじゃないですか。

──
入らないですね。

石井
 なかなか入らないからこそ点が入ったら、みんなスゲー喜ぶじゃないですか。でも、バスケットってゴールがガンガン入るじゃないですか。なんかそんな感じですかね(笑)。

──
それはつまりメダルに「重み」がないということなんでしょうか?
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