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現役引退を表明した石渡伸太郎インタビュー。RIZIN漢塾塾長が万感の思いを1万字で振り返ります!(聞き手/松下ミワ)


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格闘家・石渡伸太郎の奥様は小料理屋の美人女将だった!



――
先程の引退会見、お疲れさまでした! 心にグッと響く会見を見させていただきました。


石渡 ホントですか? なんか、うまくしゃべれなかったんですけどね。

――榊原代表もおっしゃってましたけど、格闘家の方がこんなふうにちゃんと引退を表明するって、やはりなかなかできることじゃないのかな、と。

石渡
 正直言って、相当勇気がいりました。

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――
最初に引退に触れたのは、試合直後のRIZIN CONFESSIONS撮影班のカメラだった思いますが、当時はどのぐらい本気だったんですか?

石渡 もう100パーセント本気です。というのも……首が相当悪いんですよ。だから、練習もその中でやっていかないといけない。でも、井上直樹選手だったり、朝倉海選手や扇久保博正選手だったり、上位にいる選手たちを倒せないという状態だったら、格闘家として続けても意味がないのでね。その下の選手と勝った負けたとチョロチョロやっていても、もう意味がないかなと思っていたんで。

――
首が悪いというのは、体感として何割ぐらいの練習しかできてない感覚だったんですか?

石渡
 うーん……、正直、MMAの練習はできてないですね。

――
え……。


石渡 だから、本当に部分的な練習だけしかできなかったです。

――それで、よくこのグランプリに出られましたね……。

石渡
 それが自分の挑戦だったんですけど、試合を完全に否定されたんで、もうダメかなと。あと、なんて言うんですかね、ずーっと年齢も重ねてフィジカルも弱って、モチベーションも下がっているのに試合を続けていけば、それに反比例して試合ではどんどんダメージを負うことになると思うので。だから、自分でくっきりと区切りをつけることで、後進のお手本になるじゃないですけど、この先ボクもちゃんと社会で成功していくところを見せることによって、道を示せるのかな、と。そういう気持ちもありました。

――
それこそ、2017年のRIZINバンタム級GPの直後は「一生引退はしない!」というコメントも出されてましたが。

石渡
 まあ、それは「一生引退しないんだ」という心意気の話ですよ。現役中は「引退なんか来ない」と思って戦わないと。というか、ボクはこの状態でも優勝したり勝ち続ければ、40歳になっても50歳になってもやっていたかったですけどね。そこは、若い井上選手に世代交代というかたちで突き付けられたんで。

――
となると、井上戦が決まったときは相当複雑な思いを抱えていた。

石渡 複雑というか、MMAの練習ができないので、ボクとしてはMMAの試合を積みながら“答え合わせ”をしていきたかったんです。だからこそ、あとのほうに強い選手と闘いたかったんですよ。

――
つまり、この練習状況でどこまでMMAができるのかを順繰りと試したかったわけですか。

石渡
 そうそう。それを試合で練習したかったのに、いきなり”本番”がきちゃったから。

――
その井上選手については「思った以上に目がよかった」というお話をされてましたね。

石渡
 ああ、よく見てましたよね。距離感も抜群によかったです。あと、もっとジャブで組み立ててくると思っていたんですけど、蹴りで組み立ててきたのが予想外でした。

――
「目がいい」というのは、石渡選手の攻撃に対して反応がいいということですか?

石渡
 それもいいし、自分の攻撃が当たる距離、当たらない距離というのをよく理解してました。で、これまでの試合では彼はジャブをよく当てて刺していたんですけど、それはオレには当たらないよという自信はあって。で、実際にそれは当たらなかったんですけど、その代わりに蹴られたんですよね。ケンカ四つの展開でああいうカーフキックを重ねてくる戦い方って、MMAではあんまりないんじゃないかなって。で、べつに効いてはいないんだけど、いきなり動かなくなったりするじゃないですか。だから、気にはなっちゃってましたね。


――受け続けたらヤバいんじゃないか、と。

石渡 「ヤバいのかもしれない」という予感です。そういうのがあったから、無理に前に出たのもあったんですけどね。

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――ご自身としては、あの試合はどういう作戦を立てていたんですか?

石渡
 まあ正直、ボクは打撃で倒すということしかできないんですよ。タックルできないし、寝技できないし。で、寝技になったら凌ごう、と。

――
タックルもできない状態だったんですか……?

石渡
 タックルはできないです。もう、4~5年はタックルできてないです。

――
そうだったんですね……。

石渡
 でも、ああいうふうに自信満々で前に出てくる選手を、ボクは右フックで倒す自信があったんですよ。実際に、それはそのままそのとおりになって。だから、あの試合はボクの勝ちパターンなんですよね。

――
たしかに、最初に当てたのは石渡選手でした。

石渡
 でも、その勝ちパターンで負けたんです。あそこで殴り返されて倒れたのは自分でも驚いたんですけど……。やっぱり首が悪いこととか脳の神経的なダメージもあるのかもしれないですよね。最初の右フックのあと、殴り合いになって倒せるはずだったんです。今回はそのパターンで負けたんで、それもあって限界だな……って。

――
試合内容も含めて納得させられたというのがあったという。

石渡
 しかも一番最悪な負け方でした。もう、ダメージを負いたくないじゃないですか。過去に記憶を失ったこともあるし。

――
記憶を失ったのは2017年バンタム級GPの大晦日ですよね。準決勝で大塚隆史選手、決勝で堀口恭司選手と戦って。

石渡
 脳のダメージを受けたくない、そこに対して一番最悪なかたちでしたね。首絞められて負けてもべつに脳へのダメージはないですけど……。いまは、まだそんなに“おかしな人間”ではないとは思うんですよ。

――
“おかしな人間”というのは?

石渡
 いま、ボクおかしな人間ですかね?

――
ええっと、ちょっとだけ(笑)。

石渡
 えっ! どういうところがですか?

――
なんというか、いろいろと想像以上に面白い方だな、と。

石渡
 ああ~、それはもともとボクがひょうきんな人間だからです!(笑)。


――ハハハハハハハ!

石渡
 マジメな話、本当にイヤなこと言いますけど……さっきの引退会見とかでも質問されて答えるじゃないですか。でも、しゃべっているうちに「あれ、なんの質問だったっけ?」と思い出せないんですよ。

――
そ、そうなんですか……。

石渡
 ちょっとバカになってるんですよ、絶対。そういうのが積み重なっていくと、他人の話を聞けないとかになっていくので。だから、本当に限界だなと。

――日常生活でそれを感じるシーンもあるということですか?

石渡
 ありますね。記憶力は悪いです、凄く。

――
やはり、格闘技のダメージは深刻なんですね……。

石渡
 だから、選手たちが「大丈夫、大丈夫」と思っているところにも警鐘を鳴らすじゃないですけど。まあ、ボクがいま障害を持っているわけでもないんですけど、そこもちゃんと考えたほうがいいよというのはありますよね。


――となると、今回の決断は業界にとっても貴重なものになりそうですね。

石渡
 そうなってくれるとありがたいです。

――
そう考えると、1回戦の相手が井上選手だったことは……どうだったんでしょうか?

石渡
 うーん、もう過ぎたことなので。2回戦で戦っても負けてましたよ。彼のほうが強かった。でも、年齢が一緒だったら負けないけどな!

――おお!

石渡
 という思いはありつつも(笑)。

――
井上選手はまだ20代半ばですもんねえ。石渡選手は36歳。

石渡
 彼、24歳ですよね。ボクも同じぐらいの年齢のときに連続KOぶちかましまくってたんですけど、対戦した選手はみんなそのあといなくなっていったんでね。だからまあ、「……いつか、そういうときが自分にも来るんだろうな」と思っていたんですけど、いよいよボクの番になっちゃったということで。

――
誰にでも、いつかは訪れる瞬間だという。

石渡
 今回のグランプリに出場するにあたって、自分の中ではけっこう自信があったんですよ。練習できなかった部分もあるけど、たぶんほかの1回戦に出場した選手は全部KOできるぐらいの自信はあったんですよね。それぐらいボクは仕上がってたけど、それでもああいう勝ち方されたんで、井上選手は相当強いと思います。


――今回、誰が優勝すると思います?

石渡
 うーん、井上選手か……なあ。海くんとは手を合わせたことがないのでわからないですけど、井上選手はデカいからなあ。フレームがデカいんですよ。パンチももらわないし。


――それは、リーチがあるから距離を取れるということですか?

石渡
 それもあるし、足も使えるし、目もいいし。いろんな要素があるんですけど。だから、試合中に打撃でマットに手を付かせたのは、ボクが最初で最後かもしれないですよ!

――
なるほど! それは、今後の井上選手の試合の見どころにもなりそうですね。

石渡
 だから、さっき年齢の話が出ましたけど、ボクが唯一悔やまれることは、フィジカルの全盛期とスキルの全盛期、あとは世の中の格闘技の盛り上がりがうまくクロスしなかったことですかね。それがクロスすれば、もっと……。

――
それは興味深い話ですね。ちなみに、フィジカルの全盛期はいつぐらいなんですか?

石渡
 やっぱり20代後半ですかね。

――
スキルの全盛期は?

石渡
 いまです。

――
いま! そこは、やっぱりMMAは経験を積めば詰むほどスキルが上がるから。

石渡
 若い頃とは経験が違うんでね。

――
そして、世の中的な格闘技ブームもけっこう“いま”ですよね?

石渡
 だから、フィジカルさえついてこればもっともっとできたのにと、それは本当に思います。

――
なかなか、うまくいかないもんですね。

石渡
 でも、幸せな格闘技人生でした。

――
ただ、あらためて考えても、こんなにカッコいい引退表明ってなかなかないな、と。ちゃんと世代交代で後進を輝かせつつ、自ら引退を決断するという。


石渡 なんとなくフェイドアウトしていく選手が多かったり、惰性で続けていく選手がいたりとか、そういうのが自分は見ていてあんまりカッコよくないなと思ったし、いままでチケットを買って応援してくれた人とか、スポンサーさんにお金をいただいて練習環境を整えさせてもらったりしているわけじゃないですか。このまま惰性で続けていたら、ただお小遣いもらっている感じになっちゃいますからね。だから、トップを目指せないと思った時点で、やっぱり区切りをつけないとウソになるな、と。


選手生命に関わるケガとの戦いは2015年のビクター・ヘンリー戦の頃から
・唯一の後悔とは
・堀口恭司vs井上直樹がもし戦わば
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