
元プロレスラー、木村響子さんインタビュー。響子さんの娘だった木村花さんはスターダム所属のプロレスラーだったが、フジテレビのリアリティ番組『テラスハウス』に出演中、誹謗中傷がきっかけで2020年5月に命を経った。あれから5年、現在はSNSの誹謗中傷問題に取り組む響子さんに話を伺った(聞き手/ジャン斉藤)

――先日、響子さんの講演会に参加させていただいたんですが、SNSの誹謗中傷がテーマだったので、けっこう重い雰囲気なのかなと思ったら、全然そんなことはなかったのでビックリしました。
――こういった講演活動を続けていく中で、試行錯誤しながらやり方を見つけていった部分はあるんですか?
木村 そうですね。一番最初は、じつは小学校の授業から始まったんですよ。小学校でそういう授業をやりたいってところからスタートして。私の小学校5、6年生のときの恩師が本当に素晴らしい先生で、その方に相談したら「もう自分は引退してるから」ってことで現役の先生を紹介してくれて。それが千葉大学の藤川大佑教授。いじめ問題やSNSの専門家なんですけど、そこで繋がった教育関係の人たちとチームを作って「どんな授業にしようか?」ってミーティングを重ねました。授業では、たとえば「パパはわるもの」っていう本を読んだりして、講演はそれをベースに大人向けにアレンジしていく感じですね。参加する人によって内容を変えて、1回として同じ講演にならないように心がけてます。
――毎回かたちを変えるわけですか。
木村 それに講演ってどんな人が来るかわからないんですよ。今日の参加者に「この内容、ちょっと難しいかな」と思ったら、アドリブで噛み砕いたり、(木村)花の話を多めにしたり、配分を変えてます。学校も、教育熱心な家庭が多い地域、田舎で3世代同居が多い学校とか、環境によって内容を調整してます。とにかく心に残る講演や授業にしたいなって。
――その場その場で柔軟に変えていくんですね。
木村 そこはプロレスやってたからできるんですよ(笑)。お客さんの反応を見ながら、次の一手を考える。プロレスラーの経験が活きています。人生、何ひとつ無駄なことってないんだなって。
木村 お客さんとのコミュニケーションが大事だし、相手の反応を感じながら進めていきますからね。
――プロレスをまったく知らずに講演に来る人もいるわけですよね。
木村 授業でもプロレス見たことない子たちがいっぱいいるから、最初にプロレスの試合動画を流すんですよ。そこから興味を持ってもらえるように。
――このあいだの講演も、響子さんの入場シーン風な演出から始まりましたよね(笑)。
木村 そうそう(笑)。イベントっぽくしたくて、最初は本物のリングアナさんに来てもらったこともあったんですけど。
――こないだの講演会は年配の方が中心だったから、SNSの使い方自体がよくわからないって人も多かったですけど、子供たちはSNSネイティブですよね。
木村 そうなんですよね。年配の方だと、そもそもSNSに馴染みがない人もいるし、子供たちは使いこなしてるけど、意識の違いがありますね。講演に来る人って、人権やSNSの問題に興味がある層や意識が高い層が多いから、問題を起こしちゃう層には届きづらいかなって思うんです。だから学校での授業は学年ごとや全校生徒でやるから、興味がある子もそうじゃない子も一緒に考える環境ができて、そこはすごく大事ですね。
――わざわざ講演会に来るってことは、問題への理解ができてるってことですよね。
木村 でも、逆に意識が高すぎて、他人事みたいに考えちゃう人もいるんですよ。「私は絶対そんなことしない」みたいな。それはそれでちょっと危ういなって。誰でも、状況によっては問題を起こす可能性があると思ってるので、そこが難しいですね。やっぱり授業が一番やりがいがありますね。子供たちは本当に真っ直ぐで、核心をつく質問や意見をくれるんです。
――子供だと大人の視点とはまた違うんでしょうね。
木村 もう、逆に学ばされることばっかりですよ。中学校でやったときに事前に匿名アンケートで質問を集めたんですけど、ある子が「SNSって、なんのためにあるんですか?」と。それがめっちゃ良い質問で、みんなで考えたんです。そしたら「世の中をより良くするため」っていう答えが出てきて。シンプルだけど、大人だと正解を探そうとしすぎて、なかなか出てこない答えなんですよね。
木村 で、「世の中をより良くするために何が必要?」って聞いたら、日本語が母国語じゃない、普段ちょっと問題を起こしがちな子が手を挙げて「そういうことしてる人がいたら、みんなで止めて、仲良くすること」って言ったんですよ。それがもう真理すぎて。 大人からは出てこないような言葉ですよね。最後には、「じゃあ、みんなで仲良くするために何が必要?」って聞いたら、「相手に対する愛とリスペクト」って答えてくれて。もう刺さりまくりましたねぇ。
――ボクの世代って、大人になってからSNSが出てきたんで、何か得体の知れないものに触りながら、火傷しつつ学んできた感じがあるんですけど。いまの子供たちって最初からSNSがある世界だから、距離感や捉え方が全然違うんですよね。
木村 ジャンさんは何歳ですか?
――49歳です。
木村 じゃあ同世代ですね。たとえば校長先生とか教頭先生とか、学校で権限を持っている方々って、SNSネイティブじゃないんですよね。だから、ちょっとピンポイントでズレたことを言っちゃう。「見なきゃいい」とか「学校はSNSを推奨してません」とか……。学校によっては、携帯の持ち込み禁止、使用禁止にしてたり、SNSのトラブルには「学校は関与しません」ってスタンスのところもあるんですよ。それで、私は先生向けの講演会もやってるんですけど、先生たちがかなり疲弊してて。「どこからどこまでが学校の責任なんですか?」みたいな声が出てくるんです。
――責任の範囲は難しい問題ですよね。
木村 もちろん先生も大変だからそういう言葉が出ちゃったんだと思うんですけど、「どこまで学校に責任があるんですか?」って聞いたときにショックを受けたんです。生徒の目線で寄り添って問題を解決しようという余裕がないわけですよね。たとえば不登校になってしまった子がいたとして、学校での人間関係がSNSでも繋がってるわけですよね。未成年だから、第一の責任は保護者にあるかもしれないけど、学校は何もしなくていいわけじゃない。トラブルを防ぐ努力や、子供たちに啓発する義務がありますので……やっぱりモラル教育って、SNSネイティブの子供たちにはとくに大事なんですよね。私たちのプロジェクトでもそこはやってるんですけど、「これしちゃダメ、あれしちゃダメ」ってルールを教えるだけじゃ、子供たちの心に残らないんですよ。「全然興味ないから話は聞かない」っていう子も巻き込みたい。だから、楽しさや明るさってすごく必要だなって思ってます。
――いまのSNSのルールは、法律も含めてまだ追いついてない部分がありますね。
木村 そうなんですよ。花の事件ではめっちゃ複雑なのが、SNSでの誹謗中傷の問題と、テレビの番組制作が出演者の人権を守ってなかった問題が混ざってるんですよね。問題の番組自体が誹謗中傷を誘導してたんじゃないかと。自由に物を言いたい人は「テレビ局が悪い」っていうし、テレビの内容をもっと自由にすべきだと思ってる人は「いや、誹謗中傷した人が悪い」っていう。でも、私は「両方だよ」って思うんです。
木村 そうですね。裁判を2年間やって、ほとんど証拠が出されなかったんですよ。ほとんど進展なく2年間が過ぎて。さすがに酷すぎると思って、このあいだ記者会見を開いたんですけど。
――フジテレビ側は不誠実だと?
木村 しかも、どんどん後退してるんですよね。BPO(放送倫理・番組向上機構)の見解を受けたあとは真摯に受け止めて「今後の作品作りに取り組んでいきます」みたいなことを言っていたのに、裁判になったら「番組との因果関係はない」「SNSなんか見なきゃいいし、見た本人の責任」みたいな。不誠実ですし、二枚舌ですよね……フジテレビはこうしていろんな問題に蓋してきたことが地続きになって、いまの問題になってると思います。私が思うのは不祥事が起きたときに、独立した公正な第三者委員会が立ち上げられたかどうかで、本当に公正にしようとしてるかどうかがわかるんですよ。例えるなら、詐欺組織があって、その組織の人が「自分たちで調べます」みたいな話じゃないですか。いくらでも結果ありきで操作できちゃう。公正さがないんです。
木村 もう完全に風化させようとしてるようにしか見えないんですよ。裁判も本当に非協力的で……。
――今回の中居正広の件でフジテレビがここまで動いてるのは、問題が大きくなって収まりがつかなくなったからですよね。最初の会見で収まってたら、ここまでの対応してなかっただろうなと。
木村 そうなんです。結局、株主やスポンサーが動かないと動かないんですよね。力のない個人が、力のある大企業に対して被害を受けたときに、潰されてしまう。そこが問題なんです。
この続きとRIZIN男祭り、佐藤将光、水野新太、木村響子、ウナギ・サヤカvs前田日明…などの「記事15本14万字詰め合わせ」が800円(税込み)が読める詰め合わせセットはコチラこの記事の続きだけをお読みになりたい方は下をクリック!1記事200円から購入できます!
コメント
コメントを書く引退してもカッコいいな
読むまで気が重かったですが、とてもいい内容でした。
とても良い内容。
色々と考えさせられました。
重い内容を想像していましたが読んでよかったです。