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『さらば雑司ケ谷』や『民宿雪国』などの作品で知られる小説家・樋口毅宏氏インタビュー。前田日明やUWFに熱狂した時代を振り返っていただきました!(聞き手・ジャン斉藤) ☆この記事は2021年11月に掲載されたものです


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――
樋口さんのプロレス小説『太陽がいっぱい』読ませていただきました!

樋口 ありがとうございます。ずいぶん前に発表した短編集ですが、あの話は95年にUWFが新日に葬られた虚しさと、前田日明と高田延彦が笑顔で再び会うことはない悲しみから書きました。それにいまのうちに書いておかないと、みんなラッシャー木村さんのこととかも忘れちゃいますもんね。

――ラッシャー木村モデルの話も面白かったです!昭和のプロレスファンなら誰でも楽しめますし、昭和のプロレスに詳しくてジャンルの魅力を理解してないと書けない本ですね。

樋口 斉藤さんはいまおいくつなんですか?

――45歳ですね。

樋口 というと、新日本プロレスの金曜夜8時は……初代タイガーマスクは間に合いました?

――ギリギリです。タイガーマスクや長州・藤波の抗争は面白かったですけど、まだ子供だったので猪木さんはそこまでじゃなくて。大人になってから猪木さんの発明や事業ネタが大好きになっていったんですけど。

樋口 あの頃の猪木さんは体力の低下が甚だしかったですもんね。

――それで今回、樋口さんにお話を伺いたいのは、その80年代からスターダムにのしあがった前田日明さんのことなんです。最近前田さんの第何次ブームかが到来してますが、朝倉兄弟経由なんかで知った最近のファンは前田日明というプロレスラーがどういう足跡をたどってきたのかをあまりよくわかってないというか。

樋口 そうでしょうね。

――先日樋口さんはこんなツイートをされていて。「前田日明をいまだに崇めている方たちにお聞きしたいのですが、田中正吾から始まり現在の反ワクチンまで、前田の『騙される力』についてどうお考えでしょうか」。いまのファンがどういう意味は理解できないし、よく知っているボクらでも新鮮だったんですね。

樋口 そうなんですか。それはボクからすると、そういう批判の声がないのは、また意外だなあという感想ですね。

――前田さんに批判的な人は多いんですけど、何かもう一周回っちゃって、どうでもよくなってるところはありますよね。

樋口 それはわかります。

――樋口さんの前田日明批判って、前田日明のことが大好きじゃないと辿り着けない境地なんじゃないかなと。

樋口 はい、ごたぶんに漏れずプロレス大好き少年でしたから。斉藤さんが80年代前半の猪木にピンとこなかったのは、猪木の体力が低下して凋落が始まったからですよね。猪木という絶対神に老いが忍び寄り、絶望にも似た気持ちにあった中、唯一の希望が前田日明だったんですよね。それこそ『週刊プロレス』の表紙が毎週猪木から前田に取って変わっていく。 「前田こそがプロレスの新しい希望だ」という時代はたしかにあって。旧UWFが潰れて新日本プロレスに前田日明が戻ってきたころですね。

――業務提携時代は魅力的だったと。

樋口 ところが……第2次UWFのときは前田の腹がどんどんタプンタプンに出ていき、「これはどうなんだろうな……」と思いました。それはリングス時代もそうですけど。 第2次UWFで試合中に前田のコンタクトレンズが外れて試合中断したこともあったじゃないですか。あれは白けましたよねぇ。試合を中断して落としたコンタクトレンズを対戦相手と探す格闘王!

――それじゃあまるで達川光男ですね(笑)。

樋口 そもそも前田って圧倒的な知名度にもかかわらず、名勝負と言われるものが少ないですよね。

――たしかに90年代に入ると「これだ!」という名勝負がないんですよね。

樋口 断っておきますがボクは前田日明の試合はほとんど見てると思います。第2次UWFはすべて見ています。会場にももちろん何度も行ってます。

――いわゆる密航者だったと。

樋口 そこまでではないです。「密航者」って地方巡業まで追いかける人ですよね。ボクは東京なのでそこまでは。

――ちなみにボクは地方在住の小学生・中学生だったこともあって会場で見たことはないし、リアルタイムではないのでUWFの熱狂の測定は難しい立場なんですね。

樋口 第2次UWFで前田の名勝負と言われてるものは、なんだろうなあ……最後のほうに大阪城ホールで船木(誠勝)と2回目の対戦をやったときかな。この試合はよかったという印象がありますけど、いま見直したらどうなんだろうなあ。

――1回目の船木戦が酷かったという感想が多いですね。

樋口 武道館でやった試合ですよね。船木のパンツの銀ラメが剥がれたやつ。

――こないだ船木さんに取材をしたときにその試合を振り返ってもらったんですけど。1回目は前田さんと信頼関係がなかったことが大きな原因だったと。

樋口 船木さんが第2次Uに移った当初はあまり勝てなくて、ケガもあったことで東京ドームのビッグマッチにも出れなかったんですよね。復帰後に山崎(一夫)に勝って、前年に横浜アリーナで“疑惑の決着”があった高田にも勝った。

――高田さんが船木さんの打撃でKOされたのにうやむやのまま続行されて、従来のプロレスを否定するUのリングで高田さんが古典技のキャメルクラッチで勝利したという……。

樋口 2回目の横アリ見に行ってます。船木さんは藤原(喜明)さんにも勝ち、階段をかけ上がるようにして大阪城ホールで前田さんとの頂上対決を迎えて、新旧交代かという盛り上がりでしたから。あれは面白かったです。『週刊プロレス』の増刊号も出ました。タイトルは「誰が悪いのか はっきりさせたい!」。

――前田さんとフロント陣が揉めていた頃ですね。

樋口 あのときターザン山本(当時・編集長)が試合後の前田は船木を両手で抱きしめてるのに船木はそうでもなかったと。「ハムレットの心境か」と書いてましたよね。

――いまでもそうやって覚えてるんですから、ホントに前田が好きだったんですね。

樋口 あれだけ前田日明に熱狂していたのにここまで評価が下がっているのはなぜかといえば……逆に斉藤さんにお聞きしたいんですけども、前田日明は新日本プロレスからリングスに至るまでガチンコはあったんですか?

――いわゆる競技としてのガチンコはないでしょうね。前田さんの評価が下がったのは、ガチンコをやってないからなんですか?

樋口 はっきり言ってそれに尽きます。じゃあ新日本でやったアンドレ・ザ・ジャイアント戦はどうなんだと言われてしまいそうですけど。

――アンドレ戦は“壊れた試合”ですね。

樋口 前田日明最大の魅力って長州力顔面蹴撃事件もそうですが、アンドレ戦のようにプロレスから外れたときに発揮されるんですけど、リアルファイトがあったかといえば、なかったという。他のUWF系の人たちはガチンコをやった。新日本でいえば永田裕志や石澤常光(ケンドーカシン)もやってるし、ライガーだってやってる。パンクラスのリングで鈴木みのるvsライガーがありましたから。でも、あれだけ大きい声で格闘技は何たるかを話して、格闘王を名乗っていた人がガチンコをやったことがない。そこが失望した最大の理由ですよね。

――ただ「プロレスからはみ出したもの=リアルファイト」なのかという疑問もあって。前田さんが新日本の前座にやっていた頃は、何も決まってない勝負をあったりするわけですし、リングスでも特殊な勝負は続いてましたね。

樋口 新日本でやったドン・中矢・ニールセンとの異種格闘技戦も、前田の顔面にパンチがガンガン入ってましたもんね。まともにもらいすぎだよって。

――ところがプロレスからはみ出したもの魅力は、ガチンコと隣接してるので、「前田はどうなんだ?」という疑問は当然持たれますよね。


・前田日明は“言葉のプロレス”でのしあがった
・安生洋二の前田日明襲撃事件
・前田日明の根っこは優しさ
・UWFという「現代版・羅生門」
・大山倍達的幻想
・前田日明の弱さが見たかった
・『紙のプロレス』が良くなかった?……愛憎が詰まった15000字の続きは会員ページへ



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