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パンクラスのドキュメンタリー『HYBRID』、その文脈から外れた名場面■橋本宗洋
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パンクラスのドキュメンタリー『HYBRID』、その文脈から外れた名場面■橋本宗洋

2013-06-06 11:00

     パンクラスのドキュメンタリー映画『MMAドキュメンタリー HYBRID』に関しては、見る前から危惧というか、疑問に感じることがあった。
     主な題材が3.17ディファ大会だけだということだ。大会DVDの特典映像ということならそれでもいいのだが、劇場で公開する映画作品としては、見る前から心もとない感じがしてしまうのである。去年なり今年なり、一年間の闘いをじっくり追って、たくさんの選手に取材して、豊富な素材の中から映像をピックアップしてテーマなりメッセージなりを提示する。それがまあ、正当的な“ドキュメンタリー映画”だろう。
     たとえば、近年話題になったドキュメンタリーに『ドキュメンタリー of AKB48』シリーズがある。国民的アイドルグループを毎年追いかけ、一年間の映像の中からアイドルとしての喜びや悲しみ、苦しみを描き出すわけだ。ライブもあればPV撮影もあり、総選挙があってじゃんけん大会があって、さらに予期せぬスキャンダルも。そうした中から“アイドルの生き様”が浮かび上がる。そういう試みを見ているだけに、1大会だけでドキュメンタリーを作ってしまうというのがお手軽というか、急ごしらえな感じがしてしまうのだ。
     実際、この作品がもたらすエモーションは、どうしても弾け切らない。フィーチャーされている試合のうち、タクミvs大石幸史のフェザー級タイトルマッチはドロー。ISAOvsジョルジ・パチーユ・マカコもドロー。山本篤vs北方大地がフィーチャーされる理由もよく分からない。山本はこの試合がパンクラス復帰2戦目。ここで勝ったことでタイトル挑戦が見えてきたわけだが、ということはこの試合は“途中”なのだ。バックステージの緊張感や選手のインタビュー、家族と接する姿などは貴重だし印象的なのだが、作品の製作状況からして、どうしても“途中”を切り取るしかない。
     これが長期間の取材だったら、と思うわけである。タクミはジョン・ショレス戦の劇的な逆転勝利が映画になっていたかもしれない。ライト級王座から陥落し、フェザー級タイトル獲得にも失敗した大石が海外のイベントONE FCでベルトを巻く姿が収められていたかもしれない。山本のパンクラス再挑戦、そのクライマックスはどうしたってタイトルマッチのはずだ。いや他にも、パンクラスには追いかけるに値する選手、描かれてほしいドラマがたくさんあって、だからこの作品は制作の前提からして“惜しい”ものにならざるをえない。
     映画の中では、キック団体REBELSの提供試合・日菜太vs安河内将一も扱われている。そこから日菜太の次戦、REBELSでのタイトルマッチ(vs小西拓槙)も。
     まあパンクラスとREBELSは提携しているわけだからおかしくはないのだが、しかしパンクラスの流れからするとこの試合はイレギュラーなもの。ましてREBELSでのタイトルマッチは、パンクラスの“文脈”とはまったく関係ない。
     おそらくこれは“パンクラスのドキュメンタリーを作る”ということではなく“3.17ディファ大会を起点にドキュメンタリーを作る”ということからくるもの。だから映画としては、やっぱりチグハグだ。格闘技の、パンクラスの文脈がわかってないとも言える。
     ただ、限定された制作状況、文脈から外れているからこそのおもしろさもあった。たとえば北方大地。パンクラスの上位ランカーとはいえ、これまで北方を“大注目していた”というファンはそう多くないだろう。でも、この映画の中では大きくフィーチャーされている。ジムまで片道2時間かけて通っていたこと。父親が元競輪選手であること。夢はUFC出場で、以前から目標とそのタイムリミットを決めながら選手生活を送ってきたこと。
     格闘技界を大きく捉えるなら、この試合での北方は“なんてことない試合での、なんてことない敗者”になってしまう。しかしどんな試合でも、どんな選手にでもストーリーがありドラマがある。限定された製作状況ゆえに、そこにスポットが当たったわけだ。
     パンクラスの文脈からするとまったく関係のない小西も印象に残った。消防署に勤務する彼の訓練風景。公務員だからファイトマネーを受け取っていないこと。上司からかけられる言葉。それに岸和田で育った少年時代のエピソード。パンクラスには関係ない。でも、おもしろい。
     そして映画の終盤、あるジムの会長が突然出てきて核心に近い一言を発する。「さすが」という感じなのだが、このジムは選手の出稽古先の一つというだけだ。もし“文脈”中心で語るのであれば、カットされてもおかしくない場面。でも文脈から外れていようと構わず(やみくもに、と言ってもいいのかもしれない)取材していたら、思わぬ人の思わぬ名言が“撮れてしまった”という感じか。もう一つ言うと、長く格闘技を見ている人間としては、その会長を映画館のスクリーンで見るという、そのことだけでもグッときてしまったりする。「このジムといえばあの選手、あの選手のライバルといえば……」と連想を働かせて、格闘家の姿を描いた別の名作ドキュメンタリーに思いを馳せたりもした。
    『MMAドキュメンタリー HYBRID』は文脈から外れたところにある、予想外の“取れ高”が豊富な映画だ。映画はシリーズ化される予定もあるという。そうなると徐々に文脈ができていき、最終的には全体像、大きな流れが見えてくることになるんだろうか。パンクラスの映画としては、それが真っ当だ。でも映画を見終わったいまでは、文脈から外れたおもしろさも捨てがたいなと思うのである。(橋本宗洋)
     
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