あのビル・ロビンソンの薫陶を受けIGFのリングでプロデビュー。現在はフリーとして各団体で活躍する鈴木秀樹。前回のインタビュー(http://ch.nicovideo.jp/dropkick/blomaga/ar744581)も反響だったが、今回はIGFと大日本プロレスの両団体ともに知る立場から、天龍源一郎引退興行の藤田和之&岡林裕二vs諏訪魔&関本大介についてド直球で語ってもらった! なぜプロレスファンは大日本勢を支持し、藤田vs諏訪魔は迷走したのか。そしてプロレスとは何か――?
――今日は鈴木選手に藤田和之vs諏訪魔について語っていただきたいんです。
鈴木 まぁ簡単に言っちゃうと、しょっぱいだけですよ(苦笑)。
――試合開始1秒で結論が!(笑)。
鈴木 ハハハハハハハハ。ボクはこのタッグマッチに出た4選手とも試合をしたことがあるんですけど、最初は大日本ではなくKAIENTAI DOJO勢がそれぞれのパートーナーでしたよね。真霜(拳號)選手と火野(裕士)選手の試合は何度か見たことしかなくて、試合のイメージはあまり沸かなかったんです。でも戦ったことのある関本(大介)、岡林(裕二)の大日本の2人に変わった時点で、これは後出しジャンケンじゃなくて、こういう試合になるだろうなあ……っていうイメージはできたんですよ。だからあまり興味がなかった。
――それは鈴木選手の中でイメージできる材料はあったということですよね?
鈴木 まず大日本の2人は場所がどこでも変わらずに、自分の力を出しきるんですよ。天龍さんの引退興行のあの日だけ、ああいう試合をしてるわけじゃないんですよね。
――藤田和之と諏訪魔の2人を「食ってやろう!」と張り切ったわけじゃない。
鈴木 全然違います。だから、食ったんですよ。彼らは会場が商店街だろうと両国だろうと、お客さん多い少ない関係なく同じ試合をやるんです。どこでも同じ試合をすることが信条。だから今回の試合も、マックスの自分たちを見せることがわかっていたんです。
――その期待感もあっての「大日本!」コールでもあったというか。それにしても藤田選手と諏訪魔選手は自分たちの持ち味が発揮できませんでしたね。
鈴木 一番の問題はタイミングが悪かったと思うんですよね。最初に2人の接触があったのは去年の4月5月くらいですけど、やるんだったら半年以内ですよね。でも、やれなかった。そこでもう1回チャンスが来たのが今年の5月。このときもすぐにやれなかったので、お客さんの潜在意識の中に「ああ、やるんだ……」という覚めたものだったと思うんですよね。「いよいよやるんだ!」というトーンじゃなかった。
――鉄を熱いうちに打てなかったわけですね。
鈴木 前哨戦って昔のプロレスには必要だったのかもしれないけど、いまはもういらないと思うんですよね。面白いですかね、前哨戦って?
――まあ、勝負が決まらない前提の試合ですしね……。
鈴木 面白いときもあるかもしれませんが……。たとえば昔はゴールデンタイムで中継していたから、地方で前哨戦をやってもテレビを見ている観客は意味がわかったと思うんですよ。でも、いまはこのカードが前哨戦なのか、なんで揉めてるのかは熱心なファンじゃないとわからないですよね。
――その場で完全決着しないのであれば余計にモヤモヤしますねぇ。
鈴木 ボクも船木(誠勝)さんと何回かタッグでやったあとに「すぐに船木さんとシングルで組んでください。場所もどこでもいいし、条件はなんでもいいから」って言ったんです。熱いうちにやらないと意味がないなって。それでも3〜4ヵ月かかったんですけどね。
――諏訪魔vs藤田和之は1年以上かかってようやく“前哨戦”です(笑)。
鈴木 それなのか、藤田さんと諏訪魔さんのお互いの気持ちもすれ違ってましたよね。ボクはこの試合が実現した経緯をよくは知らないんですけど、天龍さんが引退興行の場を使ってまでも2人を戦わせようという男気があったと思うんですよ。だってセミファイナルですよ? 普通の試合と意味合いが違うと思うんです。
――直後に天龍さんの引退試合があるわけですから、露払いとなるセミにこういった因縁試合は置きづらいもんですよね。
鈴木 だから凄いんですよ。こういう試合は休憩前か、休憩明け、もしくは何か1試合挟ませてからの引退試合ですよね。でも、天龍さんはプロレス界の今後を考えてセミに組んだ。2人とも天龍さんのそんな気持ちを感じて試合に臨んだと思うんですけど、感じ方がお互いに違ってしまったんでしょうねぇ。
――そのチグハグさが試合内容にも表れてしまったという。
鈴木 それは試合後のマイクの内容を聞くかぎり、藤田さんはこの先のことを考え、諏訪魔さんはこの場のことを考えていた。悪く言えば、諏訪魔さんはお客さんに媚びて、藤田さんはお客さんの存在を無視したとも言えるんですけど(笑)。
――そう受け止めているファンも多いですね(笑)。
鈴木 2人ともあの場で言うことではないし、あのマイクもそれぞれおかしいんですよ。天龍さんの引退試合で先のことを話す藤田さんはおかしいし、諏訪魔さんの立場で「大日本のような試合をしたい」と言うのもおかしい。だったら大日本のリングに上がれよという話だし、全日本でそういう試合ができていないってことになっちゃう。だっていまの全日本ってヘビー級の選手が揃ってるんです。ほかの団体よりも平均身長が全日本は高いんですよね。
――全日本のリングでも充分にできるはずだ、と。
鈴木 じゃあ、あそこで天龍さんが出てきて「もう1回やれ!」と言ってあの2人がやれるかといったら……やらないと思うんですよねぇ。
――たしかに。
鈴木 ポーズなんですよ、2人とも。そこをお客さんも薄々感じてしまっていたんでしょうね。
――そんな前哨戦気分だと、いつでもマックスで試合をする大日本勢が光り輝いちゃいますよねぇ。
鈴木 だってこの2人のシングルは大日本の両国大会で大成功してるんですよ。うまくいかないわけがないんですよ(笑)。それに、これは事実として言うんですけど、大日本のほうが全日本やIGFよりお客さんは入ってるし、ファンの人気がある。
――全日本やIGFは興行的に苦しいですね。
鈴木 IGFに関しては猪木さんの名前で入ってるだけですしね。選手たちの力でお客さんを呼んでいるわけじゃない。それに対して大日本は自分のたちの力で毎回後楽園ホールを満員にしているし、団体としてIGFや全日本の上なんですよ。これはボクの印象じゃなくて悲しいけど実情です。だからその差が両国でも出たんじゃないですかね。
――諏訪魔と藤田和之はビッグネームだけど、団体の力は大日本の上だったという。意外な結果として捉えるのは、大日本勢に失礼なんですね。
鈴木 そういうことです。全日本プロレスは伝統のある団体ですし、IGFは猪木さんが看板だからメジャーのイメージがありますけど。
――でも、いまのプロレスファンに全日本やIGFにそれほど届いていないからこそ、前哨戦でなくあの場で満足させることを求められて。
鈴木 藤田さんと諏訪魔さんの2人が、いまのプロレスファンの予想を超える試合ができる可能性があったからこそ、天龍さんもセミに組んだと思うんですね。藤田さんと諏訪魔さんっていまのプロレスにはない“山あり谷あり”の面白さがありそうじゃないですか。