岡田斗司夫の毎日ブロマガ 2019/07/18
今日は、2019/06/30配信の岡田斗司夫ゼミ「『君の名は。』完全解説と、『なつぞら』『ガンダム THE ORIGIN』、プラス6月のお便り&ステッカープレゼント」からハイライトをお届けします。
【画像】サロンオフ会より
じゃあ、どんなドラマを隠したのか?
続きの映像をこれから見てもらいます。
テーマとストーリーの関係性についての話なんですけど。
これも同じく2016年の9月に話した映像です。
それでは、よろしくお願いします。
(録画映像開始)
テーマとストーリーの関係なんですけど。
今回、映画の中に「結ぶ」という言葉が出てきています。
「結ぶ」という言葉とか、あと組紐という、細かい糸を撚って紐にするというのが、何回か出て来るんですけど。
お話としては、「1つの円環の中で、同じことが繰り返され、いろんな時間軸でいろんな事件が組み変わることで、話の糸を紡いでいく」というふうになっています。
つまり、「結ぶ」、「結う」というのが、お話全体のテーマとして流れているんです。
主人公の三葉と瀧は「お互いの身体が入れ替わる」という体験をするんですけど。
三葉が、それをお婆ちゃんに話した時、お婆ちゃんが「ああ、身体が入れ替わる、そんなこと私にもあった気がするわ」と言うんです。それどころか「お前のお母さんにもあったんじゃなかったっけ?」と言うシーンがあるんですけど。
つまり、この神主の一族……三葉は神主の一族なんですけど。神主の一族は、昔から思春期になると、どこかの誰かと身体が入れ替わったみたいなんですよね。
こういう話が、ごく自然に入ってくるんです。
「三葉と瀧は身体が入れ替わるんですけど、お婆さんも誰かと入れ替わったことがある。お母さんも誰かと入れ替わったらしい」と。
でも、劇中では、お母さんが誰と入れ替わったかが、描かれてないんですね。
ただ、描かれてないだけで、わかるようになっている。これ、実は三葉のお父さんなんですね。
だからこそ、町長であるお父さんのところに、三葉が「みんなを避難させなければいけない!」と言いに行った時、その理由を告げるまでは、お父さんは全く納得しなかったんです。でも、三葉が「自分は身体が入れ替わったんだ」ということを言った瞬間に、お父さんは彼女の言葉を信じたんです。
お父さんが、なぜ、それまで再婚しなかったのか? なんで、お母さんのことをずっと大事に思っていたのかというと、こんな体験があったから。
だからこそ、娘の世迷言のように聞こえた話を、お父さんも本気にしてくれて、「ああ、じゃあ、本当に隕石がこの場所に落ちてくるんだ」と信じてくれた。
でなければ、お父さんの心変わりする理由がないんですね。
映画の中では、三葉がお父さんのところに行って、真剣に「お父さん、話を聞いて!」と言うところまでしか描いてないんですけども。
その後は、もう全て終わってて、「町長が急にすごい指導力を発揮して、村民を避難させた」という新聞記事が出ているだけなんですよ。
なぜ、このお父さんが動いたのか、全く説明がない。
でも、それは、「思春期に誰かと入れ替わるという関係が、三葉の一族それぞれに成立してたから」なんですね。
つまり、この『君の名は。』というお話では、時間的、空間的な部分で、多重構造的に「結ぶ」ということが行われているんです。
では、ティアマト彗星の軌道図というのを考えてみましょう。
(ホワイトボードに図説する)
まあ、いくつか間違いも指摘されていますけど。太陽があって、その周りを地球が回ってる、と。
ティアマト彗星は1200年に一度、太陽系外から地球の近くを通って、太陽の方に行く彗星です。
なので、彗星の位置がここにある時は、尾がこのように伸びていきます。太陽風で彗星の尾というのは伸びていくからですね。
今回は、この彗星が2つに割れ、その破片が地球に落ちたことで、大災害が起こります。
ところが、彗星が落ちる前のこの村の写真というのを見てみると、巨大なクレーターのようなものがあって、その真ん中に神社があるんですね。この隣に村があるような構造になっている。
もちろん、このクレーターというのは、1200年前に彗星が落ちた時に出来たクレーターです。
つまり、「この村に彗星が落ちる」という事件は、さっき言った「三葉、お母さん、お婆さんそれぞれが、思春期に誰かと身体が入れ替わる」というのと同じく、過去に何度もあったのかもしれない。1200年前、2400年前という周期で、あったのかもしれない。
そして、なぜ、こんなことが繰り返されるかと言うと、「かつて地球に落ちて来た隕石の欠片が、ティアマト彗星にもう一度会いたいと思ったから」なんですね。
お話全体は「七夕」なんですよ。
2つに分かれたもの同士が「もう一度会いたい」と願う。これは、人間であっても隕石であっても気持ちは同じなんです。その願いが奇跡を起こす。
ただ、星の願う奇跡というのは、人間界にものすごい迷惑をもたらす。
なので、まるでウルトラマンが「ハヤタ隊員、私は命を2つ持って来た」と言うように、この村に住む一族に超能力が与えられて、せめて人間が、そこから逃げるようなチャンスを与えてくれたのかもわかりません。
「星と星とのもう一度出会いたいという思いは、確かに1200年に一度、叶うんだけど。その度ごとに、地球人類にはエラい迷惑が掛かる」と。これ、この太陽系というスケールだけで見ると、そういう話なんですけど。
ところが、太陽系自体も、ペテレルギウス座だったかな? その辺りを中心とした巨大な円周軌道を回っています。そして、この円周軌道自体も、巨大な銀河平面に対して回転しています。
銀河を真上から見ると、渦巻き状になっていて、地球はその第3渦状腕だったかな? 中心から3.5光年くらい離れたところで、1周辺り10億年くらいの時間を掛けて回転しています。
なので、太陽の回転というのは、銀河平面上で見ると、このような渦巻状になっているわけですね。
(銀河の中心に対して、受話器のコードのような軌跡を描きながら回る図を描く)
それに対するティアマト彗星の軌道は、この渦巻状に移動する太陽系に出会うために、このようになっているわけです。
(太陽系の軌道に絡まるように飛ぶ、ティアマト彗星の軌道図を描く)
こんなふうに、かなり複雑なものになっていると思われます。
これが、お話全体のテーマ、「結ぶ」なんですよ。この中で、奇跡が起こったり、何かをしたりする。
人の縁そのもの指す言葉である「結ぶ」とか「結う」。それと対応するように、映画の中には糸を撚る、紐を組むシーンが出てくるんですけど。それと共に、銀河平面で見た太陽系の軌道と、それに絡み合うように進んでいるティアマト彗星の軌道という全体が、大きい1つの糸を作っているんです。
つまり、そんな中で、1200年に一度だけ出会える彗星が、離れ離れになったもう1つの片割れに「もう一度会いたい」と思っているからこそ、起こるドラマなんです。
さらにその中で、一度別れた、もう二度と会えない相手に会いたいと思う人間が、心の入れ替わりみたいな奇跡を起こして、それが代々受け継がれて行く。
そんなふうに、物語全体が「結ぶ」とか「結う」、糸から紐が組まれていくような構造で出来てるんですね。
なので、新海誠としては、それまでの宇宙モノとかを合わせた集大成としてやっているんですけど。
この辺りの説明を全て諦めてまで、ベタな泣かせドラマに集中したというところが、「すげえよ、新海! よく割り切ったな!」と思うんですけども(笑)。
面白いのは、三葉の友達にテッシーという、ざっくばらんな男の子がいるんですけど。
このテッシーは、最初、自転車に乗ってるんですね。テッシーはこの自転車を「行って来いや! この村を救って来い!」みたいな感じで、三葉に貸してくれるんですよ。
で、三葉はその自転車で走って行くんですけど、途中で転んで、自転車を壊してしまうんですね。
なので、その後、瀧とクレーターで出会った後で、三葉はテッシーに「ごめん、自転車、壊しちゃった」って言うんですけど。テッシーは「何のこと?」って言うんですよね。
なぜ、ここで「何のこと?」と言ったのかというと、実は、瀧と三葉が出会った時に、もう時間軸全てが変わっちゃったんですね。
テッシーが自転車に乗っていない世界にズレちゃってるんですよ。
この世界では、テッシーは自転車に乗ってなくて、ずっとバイクに乗っている。その後、そのバイクを貸してくれたんですけど。
ここからもわかる通り、実は、時間軸のズレというのは、かなり早い時点で行われているんですね。
まあ、でも、そこら辺の説明も全て抑えて、「もう描かなくてもいいや!」と排除して行って、ベタなドラマにしているところが面白いと思いましたね。
あとは、「ティアマト彗星の軌道が曲がっているように見えて、ちょっと変だ」というふうに、SF作家の山本弘さんが指摘されてて。まあ、天文学的に考えればそうなんですけど。
ここら辺も、作画ミスと考えることもできるんですけど。その他にも、「いや、そうじゃなくて、これはこの星と星とが出会いたいからだ。作為的なリードなんだ」というふうに考えることもできるんじゃないかと思ってました。
まあ、99%作画ミスだと思いますけどね(笑)。
そんな感じがしますということで、ロー・ドラマの名作、『君の名は。』の話はここまでです。
(録画映像終了)
はい、どうもお疲れ様でした。
コメントを見てたら、「新海誠はそこまで考えていたのか?」と言う人がいたんですけど。考えているに決まってるんですよ。
ええとね、アニメの監督って、たぶん、普通の人が思っているより100倍考えています。これ、本当に真面目な話。
100倍考えた上で、「これをどこまで見せようか?」というのを調整しながら出してるんです。
それまでの新海誠は、そういうのを「わかってほしい! わかってほしい!」という出し方をしてたんですけど、「やっぱり、それでは売れない」というのがわかるわけですよね。
そこで、「あくまでベタなドラマを提供して、そのバックグラウンドの方に自分の言いたいことを引っ込める」ということを徹底的にやった。そのおかげで、プロデューサーの思惑通り、ちゃんと当てることができたんですけども。
まあ、解説の中で、いくつかミスがありました。地球はですね、銀河の中心から「3.5万光年」です。3.5光年のはずがない(笑)。
あと、銀河の自転って、僕が昔、本で読んだ時は、「10億年」と書いてあったんですけど、最近は「2億年から2億5千万年」となっているそうです。
ちょっと、そこだけ修正しておきます。
なぜ、町長である三葉の父が、三葉の言うことを信じて町の人達を避難させたのかというのは、映画内ではほとんど説明されてないんですね。
これも、やっぱりわざとなんですよ。新海誠は、これを説明しようとしたら、そういう脚本も描けるわけですね。でも、それを描かないわけなんです。抑えるわけですね。
「そうか! 三葉の父も、三葉と同じように、昔、入れ替わった記憶があるんだな! 構造的に重なっているんだな!」というのは、気が付ける人にだけ気付いてもらおうというふうになってるんですね。
これに気付かないような人というのは、とりあえず主題歌をガンガン掛けて、盛り上げたら、勝手に感動してくれるわけですよ。
そうやって、「ベタで盛り上げつつ、映画の構造的な面白さというのも、わかる人にだけわかるように、あえて後ろに引っ込める」というところが、この『君の名は。』の、世界映画としてメジャーを狙ったところだと思います。
「ティアマト彗星が、地球に落ちた欠片に会いたがって、1200年に一度地球に欠片を落としてくる」という、七夕のような、大変ロマンチックなお話を、夏に持ってくる。もう「この映画で当ててやる!」という勢いを感じる戦略、僕は好きですね。
「テッシーという友達の自転車を壊したことは、映画の中ではクライマックス以降、なかったことになっている」ということで、世界線がそこで切り替わっているんですけど。これも、気が付く人だけが気が付けばいい。
もうね、新海誠は変わりましたよ。『秒速5センチメートル』とかだったら、絶対にいくつも映像的な伏線を持ってきて、押し付けるように説明してたのが、そこら辺サラッサラになってきた。
なので、『天気の子』も、たぶん、やるとしたらこのベタ路線だと思うんですけど。どれくらいやるのか、ちょっと興味がありますね。
この辺りの仕掛けを、わかる人だけにわかるようにするというのは、作家としてはかなりシンドいんですよ、正直言って。
さっきも言ったように、作家というのは、僕らが考えるよりは10倍100倍は考えているんですけど、どうしても「わかってほしくなる人種」なんですね。
で、この「わかってほしくなるバルブ」というのを、どれくらい開けるのかによって、やっぱり、その作家の格みたいなものが変わるんです。
あの、皆さんもご存知の通り、僕の中で『けものフレンズ』という作品の評価が大変低いのは、そのバルブがガバっと開くからなんですよ。
「なんじゃこりゃ!?」ってくらい、かなりガバっと開いて、「はいはい、そういうことをやろうとしているのね。ほた見ろ、普通のアニメファンでも気が付く出来になってるじゃねえか」って思うから、「ああ、俺はもういいや」ってなっちゃうんですけど。
……ああ、2016年の口の悪い俺に戻ってしまう、アハハ(笑)。
でも、新海誠のこの『君の名は。』の場合は、これを思い切って隠しているから、ドラマとしては、あくまでもベタに進行できる。
このアニメは、作品としての側面と、商品としての側面、2つを持っていることになると思います。
今、ちょっとコメントで流れたんですけど、そうなんです。宮崎駿って、ここら辺のバルブが、割りと開いちゃうタイプなんですよね。
『未来少年コナン』とかを見たら、バルブが開いちゃってるんですよ。なので、一生懸命、たぶん、鈴木敏夫さんに言われて閉めようとした。
その甲斐あってか、『ナウシカ』は、割りと開け気味で作ってるんですけど、ジブリというスタジオが出来てからは、バルブを閉め気味にして、1回見ただけでは見抜けないような構造にしているところが面白いと思います。
……ああ、そうですね。高畑勲さんのバルブは逆に硬すぎて、俺でもシンドいです(笑)。
兎にも角にも、『君の名は。』というのは、商品と作品という2つの部分を合わせ持ったまま出したので、国民映画として成立したと思います。
『シン・ゴジラ』で、「ゴジラの正体は、人間が変身したものだ」という設定を、いまだに徹底的に隠しているのと同じです。これを隠すことによって、ゴジラが暴れるシーンというのに、映像的な快感を与えることに成功したわけですね。
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