「世の中の先端は、もはや田舎の方が走っている」
こう"田舎の実情"を紹介するのは、書籍『里山資本主義』。同書は、ベストセラー『デフレの正体』の藻谷浩介さんと、NHK広島取材班が「課題先進国を救う究極のバックアップシステム」を提案した一冊となっています。
そもそも「里山資本主義」という言葉は、かつて人間が手に入れてきた休眠資産を再利用することで、原価0円からの経済再生、コミュニティー復活を果たす現象を意味しています。同書では、その実例の一つとして、岡山県真庭市の取り組みが紹介されています。
岡山市内から車で北へ向かうこと一時間半。標高1000mの山が連なる中国山地の山あいにあるのが真庭市です。人口は5万人程度、その面積の8割を森林が占めており、典型的な山村地域といえます。しかし、ここで、世界でも最先端のエネルギー革命が進んでいるのです。
同市には30ほどの製材業者がありますが、どこも厳しい経営が続いていました。1989年に1万7000あった製材所は、20年後には7000を切るほどまでに。かなり厳しい状態の製材業界ですが、「発想を180度転換すれば、斜陽の産業も世界の先端に生まれ変われる」と語るのは、還暦を迎えたばかりの中島浩一郎さん。
中島さんは、建築材を作るメーカーの代表取締役社長。従業員を200人ほど抱えています。そんな中島さんは、右肩下がりの製材業界のなかで、新たな施策に乗り出しました。
建築材だけに頼ることはやめ、発電にも取り組むことにしたのです。そして、先駆けて導入したのが、高さ10mほどの円錐形シルエットの発電施設。なかなか製材所と発電は結びつかない関係ですが、発電のエネルギーとなるものが製材所にはゴロゴロ転がっているのです。それは、「木くず」。専門用語では「木質バイオマス発電」と呼ばれています。
木くずの量は年間4万トン。ゴミとして扱われてきた木くずを炉に流し込み燃やす。そこで発電される出力量は、1時間に2000kWにもなります。一般家庭の2000世帯分です。
「原発一基が一時間でする仕事を、この工場では一ヶ月かかってやっています。しかし、大事なのは、発電量が大きいか小さいかではなくて、目の前にあるものを燃料として発電ができている、ということなんです」(中島さん)
同社では、すべての電気をバイオマス発電でまかなっています。それだけで年間1億円の経費が浮きます。夜間は電気をそれほど使用しないので、余った分を電力会社に売ると年間5000万円の収入になります。そして、木くずを産業廃棄物として処理すると年間2億4000万円の出費となっていたため、これが0になり、結果的に年間4億円も得していることになるのです。
こうして、同社の経営は持ち直すことに成功。斜陽の中にあった製材業でしたが、再生のヒントは目の前にあったのです。
「農林水産業の再生策を語ると、決まって"売れる商品作りをしろ"と言われる。付加価値の高い野菜を作って、高く売ることを求められる。もしくは大規模化をして、より効率よく、大量に生産することを求められる。
そこから発想を転換すべきなのだ。これまで捨てられていたものを利用する。不必要な経費、つまりマイナスをプラスに変えることによる再建策もある」と同書ではまとめられています。
その他にも、常識を打ち破る施策が同書で紹介されています。再生のヒントは"田舎にある"。どの業界でも応用できる考え方ではないでしょうか。
【書籍データ】
・『里山資本主義 日本経済は「安心の原理」で動く』 角川書店
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