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 5月下旬以降、日経平均株価が下がり続けている。6月7日の終値は、1万2877円53銭。暴落が始まる5月23日には、間もなく1万6000円に届こうかという高値になっていたのだから、約3000円も値を下げたことになる。円相場も、これまでの円安の流れが円高に転じ、一時1ドル95円台となった。「金融緩和」「財政出動」、つまり「アベノミクス」発表以来続いていた株価上昇、円安の流れが止まったのだ。

 いくつかの要因は考えられる。だが、大きかったのは、来週閣議決定される成長戦略の内容が漏れ聞こえてきたからだろう。はっきりいえば、失望感である。思い切った政策を何も打ち出していないのだ。

 例えば農業だ。日本の農産物は質も高い。改革さえすれば、日本の農業は、国際競争力を持つ重要な産業に十分になり得る。そのためにも、まず保護一辺倒の現在の農業政策をやめなければならない。そして、農業への企業法人の参入、農地集約による大規模化をしやすくすることが必要だ。安倍首相も、その必要性は痛いほどわかっているはずなのだ。ところが、それができない。農水省、農協の抵抗が強いからだ。

 また、医療の問題も大きい。現在の日本では、ある患者が1種類でも政府の認可が下りていない治療薬を使うと、その人が受けるすべての治療に健康保険が適用されなくなってしまう。いわゆる「混合診療」が認められていない。この問題については、ガンをはじめとして、さまざまな難病を抱える患者たちが改善を求めている。しかし、これについても何も打ち出していない。厚労省、医師会が反対しているのだ。

 なぜ、安倍首相がこうしたいわゆる「抵抗勢力」に打ち勝てないのか。それは、7月に参議院議員選挙があるからにほかならない。農協や医師会が「反自民」に転じれば、多くの票が逃げてゆくのは明らかだ。安倍内閣は、選挙にがんじがらめになっているのである。安倍首相は、「参院選で勝ちさえすれば」と考えているだろうが、市場は待ってくれない。

 これまで静観してきた政府も、1万3000円を切るかという状況になって危機感を持ったのだろう。5日の講演で安倍首相は、「成長戦略」の第3弾を発表した。10年後に国民総所得をひとり当たり150万円増やすなど、いくつかの目標を掲げたのだ。だが具体策がない。これでは、逆に失望感が増すのは当然だ。いまのところ、株価の下落傾向がとどまる気配はない。6日には、一時1万3000円を割り込んでいる。

 安倍首相が今後、既得権益にしがみつく「輩」と闘い、どこまで思い切った施策が採れるか。日本経済、次はどうなるのか。まさに、日本経済の正念場は今なのだ。