米最大手クラウドファンディングサイト「Kickstarter」で、
最高額の資金調達に成功したプロジェクト
われわれは「効率性の経済」から「創造性の経済」へと移動する必要がある---。
これは、ダナ・キャランやマーク・ジェイコブスなど著名なデザイナーを輩出してきたことで知られる、米国ニューヨーク市のパーソンズ美術大学教授ブルース・ナバーム氏の言葉だ。
彼は、近著『
Creative Intelligence』の中で、巨大な資本によって管理され、効率性を追求することで成り立ってきたこれまでの経済システムの中では、イノベーションは起こりにくいと指摘。そうした中、世界各地で潮流となりつつあるのが、「Indie Capitalism(独立系資本主義)」だと語る。
独立系資本主義とはつまり、これまで資本や市場の存在を前提に行われていた経済活動から独立し、個人が単独で資金を集め、作品や製品、サービスなどを資金提供者に直接供給する資本主義の姿を指している。ナバーム氏は、インターネットを使った少額出資サービス、「クラウドファンディング」の成長が独立系資本主義の拡大を後押ししていると語る。
クラウドファンディングとは、インターネットを使った寄付や投資のサービスのことで、アメリカを中心に数年前から世界各地で急速に広がっている。
例えば、ある個人が「新しいスマートフォンを開発したいので、制作費用として500万円を集めたい」と完成品のデザインや事業計画をインターネット上で公開すれば、それを見た賛同者が「ぜひ実現させて欲しい」と1万円や10万円といった額をクレジットカードや電子マネーで直接本人に向けて支払うというものだ。
実際に、米国では会社を立ち上げて間もない20代の経営者が、スマートフォンと連携する腕時計(スマートウォッチ)のアイデアを発表。そのプロジェクトが、最初の28時間で100万ドル以上の資金を集めたことが話題を呼んだ。製品は今、世界市場で販売されている。
米国の調査会社massolutionの調べによると、世界のクラウドファンディング市場が、2012年は27億ドル、日本円でおよそ2,700億円だったのに対し、2013年は51億ドル、5,100億円まで成長すると見込まれている。
アジアなどの新興国でも、個人やベンチャー企業がクラウドファンディングで資金を調達するケースが増えており、新たなイノベーションが生まれている。このような独立系資本主義の成長は、世界の産業構造に小さな変革を起こしているのだ。
一方、個人と個人を結びつけ、相対的な関係の中で需要と供給のバランスを満たす動きは、クラウドファンディングの他にも広がっている。ワンコインと呼ばれる小額貨幣を介在させて、合理的にサービスを融通し合う仕組みだ。
ものづくりから子育てまで。今、独立系資本主義の思想や仕組みが、社会にあらたな価値を生み出そうとしている。そこで、最前線の取り組みをシリーズでリポートする。
ワンコインが解決するマーケットへのアプローチ
会社にいながらも自分のやりたいことを実現させてあげたい---。
去年のサービス開始以来、1年間で会員数が6万人に迫るWEBサービス『ココナラ』をみなさんはご存知だろうか。今、市場からの注目を集めるITスタートップ企業だ。
ココナラは、「自身の"得意なこと"をオンライン上で売買できるオンラインフリーマケット」だ。売買するのは自分のスキル。現在"1回500円"という一律の価格設定で運営されているが、出品されているサービスの質はかなり高く、バラエティに富んでいる。
例えば、駆け出しの翻訳家の女性が「英語と日本語の翻訳を500円で行います」というサービスを出品し、価格の安さと仕事の速さが評価を得たり、現役の歯科医師が同じく500円で、ホワイトニングやインブラントに関する質問に個別に答えたりと興味深い。
「バナーをつくります」「ホームページのデザインを行います」といった、IT関連の出品も目立つ。一般ユーザーはもちろん、「プログラミングや開発の相談に乗ってほしい」というエンジニアからの支持も集め、盛り上がりを見せている。
今回、ココナラを運営する、南章行さんにインタビューを行った。金融業界、海外でのMBA取得、2つのNPOの立ち上げなど、様々な経歴を持つ南さん。『一人ひとりが「自分のストーリー」を生きていく世の中をつくる』という南さんの考え方は、これからの時代に即した新しい働き方への大きなヒントとなるのか。インタビューシリーズでお伝えする。
「ココナラ」代表の南章行氏
慶応義塾大学を卒業後、1999年4月、住友銀行に入行。運輸・外食業界のアナリスト業務などを経験したのち、2004年1月に企業買収ファンドに入社。 2009年に英国オックスフォード大学経営大学院(MBA)を修了。東日本大震災をきっかけに2011年6月に投資ファンドを退社し、株式会社ウェルセル フを設立。知識・スキルの個人間マーケット「ココナラ」を2012年7月にオープン。
「一人一人が自分のストーリーを生きる世の中をつくるサービス」とは
堀: ココナラは、一般の人たちがこれまでタッチできなかったようなマーケットや資本への入り口になっていると思うんですよね。個人が自分の力を大きなものにしていくことに関して、どんな未来を思い描きながら、サービスを構築されてきたのですか?
南: ベースの発想として、現代って手触り感を持つのが難しい時代だと思うんです。働く意味が見いだしにくいというか。大きな話で言えば、昭和だったら働く理由を考える必要がなかったと思うんですよね。
例えば、日産自動車に入りますというと、そこで働いて会社が潤えば、国が潤って、国民が潤うし、車が売れればみんなが嬉しい。そんな環境において「なぜ働くか」なんて考える必要があんまりなくて、純粋に「よりいいものをより多く売る」ということだけ考えていれば、みんな幸せだったんですよね。
しかし、今は必ずしもそうじゃない。いい悪いではないですが、現状で日産入ったらどうなるかというと、車は飽和している現状で、勝てるの勝てないのという議論になる。電気自動車が出てきたけれど、環境的に車はどうなのかとか、車に乗らない若者が出てくる中で、何で日産で働いてるのかといった時に、答えを持っていないとちょっとつらくなるんですよね。なぜつらくなるかというと、会社も成長しているわけではないし、給料も上がらず、昇進もしないという中で、働くことの意味合いも見い出しにくい。
世の中で、こういうことが全般的にすごい増えてると思うんです。そうなると、何で働いてんのかな、何で生きてんのかなあ、ということが分かりにくい時代になってしまって、すごく手触り感がないというか。
このような中で、人ってそもそもどういう時に幸せを感じるんだろうと考えたんです。僕自身は、ある特定の環境下、あるいは組織、関係性において、自分が機能している感覚を持った瞬間に、人は生きることができると思っています。
あなたが生きてきた人生をベースに、誰かに、何かを提供する。「ありがとう、よくできた、うまくいった」ということでもいい。夫婦間とかでもいいですが、何らかの関係性で機能してるな、誰かの役に立ってるな、という感覚を持てることが人を生かすと思うんです。
ココナラのベースの思想は、わりとその辺にあって、知識やスキルを販売できる、売ってお金が得られる場となっています。そして、ビジョンでは、「一人ひとりが自分のストーリーを生きる世の中を作る」という言い方をしています。何かが得意とか詳しいとかって、その人の人生そのものじゃないですか。
ココナラでは、その人の人生そのものから抽出された何かをしますよ、話聞きますよ、ということが提示される。そして、そこに頼る人がいて、何か問題を解決する。それだけの稼ぎで食えるかというと別ですけど、生きられるベースになると思ってるんです。誰かに肯定されて、がんばったら何か報われたみたいなことって、すごくうれしい瞬間だと思っています。
一方で、購入する側、お願いする側の人も、もともと念頭に置いていたのは女性だったりするんです。やっぱり、気軽に人に聞けないところがあるし、つらいことがあっても言う場がないというのがあるかなあと思っていて。
システムそのものがすごく大きくなっていて、みんなその中の小さな役割があらかじめそこにあったかのように求められている今の世の中。誰も困った時に聞けないとか、意外とそういう孤立化って進んでいるのかなあと思います。あるいは主婦になって、社会との接点がすごく持ちにくいことも、ネットが拍車をかけているところがあると思うんです。
ほんの数年前までは、ママさん友達の愚痴なんてmixiに書いてればよかったんですよね。でも今、Facebookが主流になってくると、オンとオフの切り替えなんてないです。ママさん友達はみんなFacebookにいて、かわいい服でも子供に着せようもんなら、こんな服を着せている誰々ママは素敵とか、「いいね!」を押さなければならないじゃないですか。これって、めんどくさいし、逃げ場がないですよね。
すべてがオープンになってきている中で、そういう人が困った時に相談できる場だったり、しがらみなく聞けることの価値がすごく出てきています。匿名でクローズドの場で誰かに聞ける、親身になって聞いてくれる人がそこにいる関係が、すごく大事で、その人がその人らしく生きるために必要なピースになっていると思います。
そういう何かを教える、あるいはアドバイスする時と、困った時に頼るペルソナは、そんなに離れたものではなくて、ある部分ではこっちだけど、ある部分ではこっちということがあるじゃないですか。
すごく俗っぽいけど「あなたらしく生きる」。それをサポートするのがココナラです。それが、「一人ひとりが自分のストーリーを生きる世の中をつくるサービス」ということですね。ベースとしてそういう思想があり、自分が得意なことで誰かの役に立てるというのがいいねということ。そのような空気感を持ちつつも、スキルを売って食っていくのも大事だし、やっぱり仕事って、自分が興味・関心が持てる領域でやるのが一番幸せだと思うんですよね。
ただそれをすべての人がやれるかというとなかなか難しいところがあります。働きながらやっているうちに、ひょっとしたら自分の興味こっちかもあっちかもとなることもある。自分の夢を殺して働いている人もいるだろうし、別に一つじゃなくて、これは仕事としてやってるけど、二つ三つ興味・関心がある人もいると思うんです。今までそういう人に対しての場が、すごくなかったと思うんですよね。
だから、自分の中に存在する二つ三つの興味を実現したり、食うための仕事はこっちでやってるけれど、もう少し喜んでもらうための仕事があってもいいと思います。少しでも興味・関心のあることに対して、アクションを起こすことができて、それに対して正のフィードバックがあって、楽しく生きられる感覚を味わえる場がすごく欠けてると思ったんです。僕らとしては、そこを用意したいと考えました。
人って変わっていくもので、例えば一個得意なことがあって、「ココナラでキャッチコピーを作りました、似顔絵作りました」となると、何人かに一人は、これでいけるんじゃないかな、食えるんじゃないかなって気持ちになっていく人がいるんです。何百人に一人かもしれないけど、実際に転職しちゃった人もいるんですよね。