「その歳で、なぜそんなに元気なのですか」と、よく聞かれる。そんなとき僕はいつも、「悩まないこと」と答えている。もちろん、日々迷うことはある。いろいろと考え込むこともある。けれど夜になれば、悩んでも仕方ないと寝てしまうのだ。だから、失敗しても引きずらない。済んでしまったことを、くよくよ悩んでも仕方ないからだ。
ぼくは、特別な健康法なんてしてはいない。ただ、しいていえば、たっぷり7時間睡眠をとるようにしている。そして、好きなことしかしない。このふたつだけは、心がけている。人間、ストレスが一番体に悪いのだ。
以前、人に頼まれて、オーケストラの指揮者の真似事をやったことがある。カラオケの音楽に合わせてイヤイヤ指揮棒を振る練習をしたら、たちまち消化器系がダウンしてしまった。それ以来、僕は嫌だと思う仕事は受けないようにしている。
食事も、嫌なものは食べない。好きなものしか食べないのだ。たとえ身体によくても、食べたくないものなんか食べても、身体が喜ばないのではないか。僕は、そう考えているのだ。だから、朝はトーストと目玉焼き、ちぎったレタスと紅茶。そして、すりおろしたリンゴと季節の果物と決まっている。昼は、だいたいうどんだ。
夕食は、外食になることが多いが、それでも、あきれられるほどいつも同じメニューにしている。僕は、お酒は一切飲まない。そのかわり、白いごはんと味噌汁、煮るか焼いた白身の魚、野菜の煮物かお浸しと豆腐。デザートは旬の果物だ。25年来、ほぼ毎日、こんな食事をしているが、飽きることはない。
かなり前のことだが、「三世紀会」という、政治家の会合を取材したことがある。会長は、1896年生まれの岸信介さん。岸さんは戦中戦後に活躍した政治家で、安倍首相の祖父である。この岸さんはじめ、会員はみんな19世紀生まれだ。そもそも会の名称は、19世紀、20世紀、21世紀と、「三世紀を生きよう」ということでつけられたのだ。つまり、みんなで100歳以上生きようというわけである。
では「長生きのコツは?」と僕は会員たちに聞いた。すると、3つの答えが返ってきた。ひとつめは、つきあいを悪くすること。つきあいがよいと、パーティや飲み会についつい毎晩顔を出して疲れてしまうというのだ。ふたつめは、悩まないこと。悩んでも物事は解決しない。3つめは、肉を食うこと。これは、最近の研究でも科学的に実証されているようだ。
僕は、肉は好きではないので、残念ながら3つめは実践できない。でも、ひとつめとふたつめは、実によく実践できていると思う。
僕にとって何より大事なことが、ひとつだけある。それは、毎日いろんな人たちと会うことだ。家で本を読んだり、原稿を書いているとき以外は、たいてい人と会っている。なぜ人に会いたくなるのか。それは「好奇心」があるからだ。好奇心が、僕の原動力になるのだ。