前回の『ひろぐ』における
『大田王全解説』
はかなり多くのアクセスをいただき
再びバーチャルな大盛況となった!
その中で15番目に解説した
『スミスと呼ばれるヌミヌと書かれた男』
にちなんで
ワークショップ「Royal Plant」メンバーである
「ジェンヌ伯爵」
『侯爵杯2014』にてドイツ優勝を予想!)
からこんな写真が届けられた!
愛猫の診察証だそうだ!
送られて来た際のタイトルは
『マリと呼ばれるヌソと書かれた猫』
であった!


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はてさて!
最近の私の周囲における演劇界では
「発想は喫煙所で生まれる」
と言われている!
稽古の休憩時に喫煙所に行くと
稽古中の真剣さから解放された
自由な発想による意見が
おおいに語られる!
稽古場において
演出家vs俳優
として対峙していると
なかなか言えない個人の発想が
喫煙所では気楽に発せられるようだ!
そして休憩が終わる頃には
「よし!
 じゃあ次はそれを試してみよう!」
という事になる!
嫌煙者にしてみれば
「なにがどうなったの?
 なんで急に変わったの?」
という大迷惑なのだろうが
その方が面白くなる場合が多いのだから
仕方がないとしておこう!

「大田王(だいたおう)」の劇場稽古中!
喫煙所にいたのは私と
「つっちー」こと「土田英生」
音響の「るい」こと「児島塁」の3人だった!
一体何を話していたのだろう?
確か私と「つっちー」で
言語に関して話していたのではあるまいか?
演劇留学でロンドンにいた「つっちー」なので
多分アメリカ英語とイギリス英語の違い
のような話題だったかもしれない!
そんな中に「るい」が
ぽつりと実に面白い話を投じてくれた!

「お二人はアヤパネコ語って知ってますか?」

「るい」はクイズマニアだ!
なのでおかしな事を沢山知っている!
私も知識は豊富な方なのだが
「アヤパネコ語」という言葉は初めて聞いた!
「つっちー」も同様に知らなかった!
それは「ノリピー語」的なものか?
と尋ねてみると
実在する言語なのだと言う!

「アヤパネコ語」は
「メキシコ」における少数部族の言語だそうだ!
しかも驚くべき事に
それを話せる人はなんと!
たった2人しかいないのだそうである!
調べてみると名前までわかっていた!
「マヌエル・セゴイア」さんと
「イシドロ・ベラスケス」さんだそうな!
どうなのだこれは?
「Piper」の舞台であれば私が脚本に
「まいっ!」
と書くと何のト書きもないのに
「あぁ殴るのね!」
とキャストもスタッフもみんな理解してくれる!
つまり
誰にも通じないとされる私の「まいっ!」でも
20人以上は言語理解者がいるという事だ!
なのに「アヤパネコ語」は
「マヌエル」と「イシドロ」の
2人でしか話せない言語なのだと言う!
そんなものが言語として数えられるのだろうか?
そうなればもう
仲良し2人だけの”暗号”に過ぎないのではないか?
我が家で”シュレッダー”の事を
「がっがっが」と呼ぶのと
どこに違いがあると言うのか?

ところがだ!
話はここから最上級に面白くなっていく!
「アヤパネコ語」が仲良し2人組の暗号ならば
それを巡る話は素晴らしくハッピーだ!
老人2名が誰にもわからない言葉で
過去や今日や未来を語り合う!
それはロマンチックにさえ聞こえる!
だが!
実際の「マヌエル」&「イシドロ」は
とんでもなく仲が悪いのだそうだ!
ほんの少しも一緒にいたがらないのだそうだ!
さぁ大変!

運悪くそこに現れたのが
「ダニエル・サスラック」という人類学者だった!
「サスラック」に課せられた使命は
絶滅の危機にある言語「アヤパネコ語」の
辞書を作る事だった!
『舟を編む』という作品で世間に広まった通り
より正確な辞書を作るためには
人々の会話から
単語のニュアンスを分析しなければいけない!
その単語が会話内で使われる意味合いを収集して
辞書は作られる!
なのに!
なーのに!
「マヌエル」と「イシドロ」は会話をしない!
2人は会ってもくれないのだ!

私と「つっちー」の目が輝いた!
「これは脚本にすれば最高のコメディになるね!」

Wikipediaで「アヤパネコ語」を検索すると
ここまで記したまったくその通りの事が
かなり真面目な文章で書かれている!
あまり詳しくは記されていないのだが
恐らくそれを読む誰もが
「んふふ」
と笑うだろう!
それは実によく出来た「コメディ」の設定なのだ!
「コメディ」には被害者がいなければいけない!
しかしその被害者が本当に悲惨な目に遭っては
「コメディ」は成立しない!
一人の怪我人も一人の死者も出ない
この「アヤパネコ語」をめぐる珍事は
あまりにも美しく
「コメディ」の基本を全て備えている!

「サスラックは2人を騙して
 会わせたりするんだろうねぇ!」

そこから作家2人による
ストーリー作りが始まった!

「わざと間違い電話をかけさせたりね!」

「仲良くさせるために
 孫同士を恋仲に持ち込もうとしたりね!」

私と「つっちー」の発想は止まらなかった!
「マヌエル」と「イシドロ」に
なんとか「アヤパネコ語」で会話させようとする
「サスラック」の奮闘に関して
あらゆるパターンを創造した!
私はよく飲んでいる席において
頭の中にあるストーリーなどを話しては
周囲の感想や発想を取り込み
更にストーリーを固める事が多い!
だが作家同士でそうした会話をする事は
とんでもなく珍しい事だ!
私は「つっちー」との”発想比べ”を
喫煙所でたいそうひろいだ!

ストーリー会議は
やがてエンディングへと向かった!
「つっちー」がこんなアイディアを出した!

「けどさ!
 結局どっちかが死んじゃうんだよね!
 んでその時にさ!
 残った方がものすごく泣くの!」

見事だ!
憎み合う事が唯一のコミュニケーションだった
2人の老人!
たった2人しか話せない言語のために
世間から自己の存在以上に扱われ
果ては日本版Wikipediaにまで名前を載せられた
その複雑な胸中は
他人に理解できるようなものではあるまい!
一方が死んだ時!
もう一方が見た事もないほど泣く!
それはとても美しい終わり方だ!

私はそのエンディングに
もう少しだけつけ加えた!

「泣きながらアヤパネコ語でいっぱい話すんだよ!
 ”あの時お前がこう言ったから
  俺はこう返したんだ!
 あの時お前がこう言わなけりゃ
  俺はこんな事言わずに済んだんだ!”
 みたいな事を!
 そこで一人でアヤパネコ語の会話を聞かせるんだよ!
 んで泣き終えてサスラックにこう言うの!
 ”この愚痴をわかるのも俺だけになっちまった”
 って!
 けどサスラックが言うんだよ!
 ”大丈夫!僕がいます!”って!」

私と「つっちー」との間に静寂が生まれた!
それはなんだか
とても美しいストーリーが
あまりにもうっかり完成した瞬間だった!
「つっちー」は私の顔を覗き込んで言った!

「どうする?
 ヒロが書く?」

私は笑った!
私はそれを書く事はないだろう!
ストーリーとしてはとても高い出来だが
私がそれを書くとは思えない!
なぜなら作家の想像で
実在の人物を勝手に一人殺してしまっているからだ!
いかにいい作品になるとは言え
それは決してやってはいけない事だ!
「アヤパネコ語」という言葉を文字にするのは
恐らくこの『ひろぐ』が最初で最後だろう!

だがもし!
この話を日本に置き換えて
「東北」の山間部や
「沖縄」の離島などを舞台に
架空の方言を巡る話として書き上げれば
それはあり得るかもしれない!

「発想は喫煙所で生まれる」!
なので「大田王」メンバーの嫌煙家達は
誰もこの話を知らない!

写真は「つっちー」が
電車を乗り過ごして稽古に遅刻した際
それを疑った私に対して
「本当に間違って西九条まで来たんです!」
と言って送って来た物!
彼の携帯電話には大阪全駅のホーム写真が
季節や昼夜にあわせて
あらかじめ保存されている!

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