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『カエルの楽園』第二章

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 翌日、またもや平和な空気を切り裂くような悲鳴が轟きました。
 それは昨日と同じ南の崖から聞こえてきました。たくさんのカエルたちが南の崖に向かうと、崖のふちに一匹のウシガエルが仁王立ちしているのを目にしました。
 ツチガエルたちは間近に見る巨大で醜悪なウシガエルの姿に悲鳴を上げ、後ずさりました。ソクラテスもまた、その恐ろしい姿にふるえあがりました。
 ウシガエルは無表情のままツチガエルたちをなめるように見つめています。
 南の崖のふちにウシガエルが立っているという信じられない光景を目の前にして、ツチガエルたちはどうしていいかわからないようです。その中にはデイブレイクもいましたが、彼もただ全身をガタガタとふるわせているだけでした。
 ウシガエルもツチガエルも動かないまま、恐ろしい緊張に満ちた時間だけが刻々と過ぎていきました。ウシガエルの吐く臭い息がツチガエルたちにも匂ってきます。
 そのとき、「ハンニバルが来たぞ!」と言う声が聞こえました。