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 相変わらず、あんまり女災と関係ない記事を、久米某が大手で連載している間にも続けるよ!
 今回は最終巻までの五冊をレビュるよ!
 相変わらず「女災」からは離れるけど、『愛のプレゼント計画』は那須センセの女性観の総決算的な意味あいもあるのでよかったらそこだけでも読んでみてね!
 後、性質上、ミステリなどもネタは全部バラしていますので、そこはお含み置きください。

『ズッコケ三人組の地底王国』
●メインヒロイン:クシナ姫

 本作については、章タイトルが「選ばれし勇者」「悪竜との戦い」というものであるのを見た時から、イヤな予感がしていました。時代の流れについて行けなくなった作家が「何か、ファミコンみたいの」を書いて子供のご機嫌を伺おうとしている匂いがものすごくするじゃないですか。いや、本作は2002年の出版でもうファミコンの時代ですらないけど、この時期でも「ルンルン気分」とか「やるっきゃない」とか書いちゃうのが那須センセだし。
 いえ、とは言え、後期『ズッコケ』を読み進めるうち、レビュアーたちが腐すほどにつまらなくもないとの印象が多かったので、本作にも少し期待したのですが、やはり先の章タイトルから想像できる以上の内容はありませんでした。
 作者が意識的に後期シリーズの特徴である「児童文学にそぐわない陰惨さ」を封印してみたところ、逆方向で大やけどってのが裏事情じゃないかなあ。その意味では初期の『宇宙大旅行』に近い印象を持ちました。
 レビューブログには

全てが何分の一にスケールダウンした特殊な世界を舞台にしておりその世界における物理法則もちゃんと科学的に描かれている。もっとも、そのこだわりが物語の面白さに寄与しているかどうかは微妙である。


 といった評がありましたが、最後の最後、「高見から落下したけど(身軽になっていたため)無事だった」、また「何日もの冒険から日常へ帰還すると(それは体感時間が変化したための錯覚で)数時間しか経っていなかった」という描写もあるので(後者は途中でネタを割っちゃってるので意外性には欠けますが)、一応そこは那須センセらしさにはなっていたと思います。

『ズッコケ魔の異境伝説』
●メインヒロイン:荒井陽子

 荒井陽子が縄文時代の神様に憑依され、タイムスリップした三人組が陽子に導かれつつ大活躍……もとい、中活躍。
 前作『地底王国』は「俗に徹しようとして大やけど」感がありましたが、本作では那須センセのホームグラウンドの歴史物でありながら、盛り上がりに欠けるハナシとなってしまいました。
 ハチベエは「ケンカっ早い」と設定されながらケンカをするシーンは例外的なモノしかないのですが、本話では珍しく、クラスメイトととっくみあいをし、宅和先生がすかさず、「縄文時代には戦争がなかったんだぞ」と言います。また、ハチベエが「縄文の王様だぞ」と得意がると「縄文時代に王様はいなかった、せいぜい村長くらい」とのツッコミも。
 まあ、要するに「農耕が始まると共に、貧富や階級が生まれた、それ以前はパラダイスだった」論なのでしょう。ヒッピームーブメントの影響の色濃い『ギャートルズ』の最終回もまた、キャラクターたちが農耕を拒否し、貧富のない狩猟生活に留まる、というものでした。いや、それにしたって国家がなかっただけで、この頃だって貯蔵した木の実、ごちそうである獣の肉を巡っての争い、ヒエラルキーはあったでしょうに。こういうの、フェミニストたちの攻撃性から全力で目を伏せ、「男は凶暴だが女は優しい」と盲信するフェミニスト男性みたいなものでいただけません。
 後、本ブログ的には荒井陽子がシャーマンを務めるのが印象に残ります。「生々しい、地上の、イヤな女」として描かれてきた彼女が本作では例外的に「ニューエイジ的超越的美女」の役割を担っているわけです。もっともドラマ的要素は希薄なので、陽子もただ淡々と役割をこなしているだけの感はありましたが。

『ズッコケ怪奇館 幽霊の正体』
●メインヒロイン:竹田しおり

 幽霊の正体を暴くミステリ。謎解きしかり判明する経緯しかり、イマイチなのですが(ホント偶然見つけただけだモンなー)、事件の解決後に今まで登場したキャラクターたちの相関関係が一挙に明らかになる展開は見事で、全体的には久々に読ませるものになっていました。
 また、出番はさほどでもないですが民俗学専攻の大学院生、竹田しおりは非常に萌えるキャラとなっています。大学院生だが化粧っ気がなく、中学生みたいな童顔の眼鏡ッ娘(ルックスの方は、並みとも美人とも取れる描写があり、判然としません)。怪談のHPを男性名義で立ち上げ三人組ともフランクに接する、オタク好きのする「オタク」「喪女」「ニュートラル」キャラで、「とうとう『ズッコケ』にもこんなキャラが」と思ったのですが、考えるとこの手の女は70年代的な女性の一類型でもありました。丸い眼鏡をかけ、女性性に欠ける女の子。一例を挙げれば『メグちゃん』のロコとかがそうですが、むしろ当時の実写ドラマでよく見たキャラのようにも思えます(恐らくウーマンリブとも無縁ではない、リアルな女性像として、当時はこういう女性がメディアでももてはやされていたのではないでしょうか)。そう考えると一周回って、この種の女性の時代がまたやってきた、と言えるのかも知れません。
 後、陽子は(『情報公開』などの頃から)PCを特技とするようになりました。出番を増やすため、また彼女がブルジョアだからでしょうが、ハカセの家にPCがないってのはこの時期としてはどうなんでしょう。

『ズッコケ愛のプレゼント計画』
●メインヒロイン:荒井陽子、榎本由美子、安藤圭子、深町さくら、三橋さやか、高畠のぞみ、大倉志穂、吉本マリヤ、吉本ユリヤ

 さて、プレ最終巻です。
 以前、『修学旅行』と『未来報告』の時に、それらが擬似的な最終巻&プレ最終巻的な内容であると書きました。『修学旅行』でも本作でもハチベエが妙に女性にモテていて、ちょっとどうかなあと苦言めいたことを書いたこともありました(「補遺その四」の『夢のズッコケ修学旅行』の項)。
 辛口のレビュアーも

 チョコレートにまつわる甘ったるい話は、もはやかつてのメガヒット「ズッコケ三人組」シリーズの残骸であった。


 と非道く悪し様に本作を罵っており、そんなに駄作なのかと心配していたのですが、普通に面白く読めました。
 まあ、もちろん、とは言え不満もあるのですが。
 プロットとしてはバレンタインが近づき、チョコレート作りの講習会に参加する三人組、というものです。しかし、参加者である高齢女性がその場で倒れてしまい……と一波乱あるのはいかにも那須センセ。
 ラストでは、ハチベエが九人もの美少女に囲まれてエビス顔ってイラストが描かれます。クラスの美少女トリオ、そして第一小学校(他校)の三人組、更に上の高齢女性の孫の三人。最後に双子を出して人数あわせをやっている点など見ても、「ねえそれなんてエロゲ?」と問いたい充実ぶり。
 ただし、その「モテる描写」にはいささかの疑問も覚えます。
 クラスの美少女トリオは「もう卒業だから、一度くらいハチベエに優しくしよう、本当はそんなに嫌いじゃないし」と語ります。これは『修学旅行』のトリオが何の説明もなくハチベエに優しくするのと同様で、「モテないハチベエ」という基本設定を「実はモテていた」と強硬的に覆しているかのように見えます。
 例えば卒業間際の試験で、ハカセが何の説明もなく「何故か好成績を収めた」ら、どうでしょう? ハカセは「理屈屋だが学校の勉強は振るわない子」のスターであるべきで、それはちょっとどうかと言わざるを得ない。今回のハチベエも、そういう感じです。
 一方、他校の美少女三人組は妙に「あのハチベエ君」とハチベエを周知の、噂の人物であるかのように呼んで、彼に興味を持って近づきます。
 が!
 それについて特に説明がないのです。ぼくは読書中、ハチベエはセクハラ魔王として他校にも噂が知れ渡っている存在なのかと想像しました。そういう人物、身近にいると嫌でも、遠くにありて思う分には興味を惹かれる存在なのではないでしょうか(更には「最近は元気な男子が減って云々」というオッサン節も加わり)、ハチベエをある種、肯定してやるストーリーが展開されるのではと思ったのです。
 ハチベエの女の子へのいたずらは、今まで具体的な描写はなかったのですが、本作では普段、「スカートめくり、スカートずらし」「ノートにエッチな落書き」「鞄にカエルやカミキリムシを入れる」といったことをしていると語られています。
 ハチベエにはがっかりだよ! お前のことはこれから岡田斗司夫と呼んでやる!!
 いや……とは言え、岡田氏がモテていたのと同様、逆にそうしたキャラはモテるとも思えます。ぼくは本作を、そうした「元気な少年」に対する憧憬が、「他校の女子」の口を借りて語られる作品なのでは……と想像していたのです。
 で、あればハチベエのよさを美少女トリオが「再発見」し、結果モテモテ、という展開にも納得がいきます。事実、他校の美少女三人組にモテるハチベエに心穏やかでない美少女トリオ、という描写はなされていて、それはそれでリアルです。
『ゴーストスイーパー美神』の横島君は「人間の女性にはモテないが、物の怪の類にはやたらとモテる」と設定されていました。これは美少女妖怪などで読者サービスをしつつも、「でも現実にはモテませんから」とする、作者の冷静さの表れであると、ぼくは思います。
『ズッコケ』でも、意外にハチベエは異界の女性にはモテていました。
 繰り返すように『ズッコケ』の絵師は当初、前川かずおセンセでした。正直、彼の描く「美少女」は当時の感覚でも垢抜けず、「取り敢えずまつげや瞳の星を記号として描いておいたのでこれで勘弁して」感がありましたが、後継者の高橋センセが(美少女トリオは前川センセの忠実な模写にならざるを得ないとして)ゲスト美少女を描くと非常に可愛く、印象的でした。
 その結果、「ゲスト少女は可愛く、その多くは異界の美女である/レギュラーの地上的少女はイマイチ」という構造ができあがり、それは図らずも那須センセの「現世の女性に対する厭世観」を反映する結果になっていたように思うのです。
 その意味で、本作はそうした那須センセの女性観、作家性が「商業性」に敗北したお話だったのかも知れません。

『ズッコケ三人組の卒業式』
●メインヒロイン:なし

 最終作。
 冒頭から宅和先生の娘の婚約者である長井先生が再登場(『事件記者』)、文化祭についての言及(『文化祭事件』)、卒業間際のタイムカプセル(『未来報告』)と、過去作にまつわるエピソードやキャラクターが登場、いよいよ最終回といったムードが高まります。タイムカプセルというモチーフが共通している点などからしても、『未来報告』が書かれていた時期には前川センセの体調を鑑み、完結が検討されていたのかも知れません。
 お話は三人組がタイムカプセルを埋めようというところから始まりますが、それをきっかけにケンカしてしまうのも、またそのタイムカプセルの秘密を守るという共通の目的からすぐによりを戻すのも、それっぽくてぐっと来ます。何だか那須センセの「ケンカするほど何とやらなんだから三人組、もう少しケンカさせておけばよかった」「でも、オタク系の俺、そもそもケンカの経験ないし……」といった声が聞こえてくるようです。
 しかし逆に言うと、犯罪者の埋めたCDにまつわる中盤戦は今一面白くありません。演歌のCDと思いきや、プレイヤーにかけても雑音しか入っていない。むろん、入っていたのは音声データではなく犯罪にまつわるデータ(それも何だかネタとしては地味なもの)なのですが、そのすぐに見当のつく謎を妙に引っ張ります。『情報公開(秘)ファイル』でもフロッピーを仰々しく扱っていたし、さすがに那須センセもPCには詳しくいないのでしょう。
 犯罪者に捕まるハチベエ、というのがクライマックスなのですが、これも特に波乱のないまま、10pもかけずに解決してしまいます。好意的に取れば、今までにあったサスペンス、ミステリなどの要素は一通り網羅しよう、という意図があったのかも知れませんが。
 エンディングは教師を引退することを決意した宅和先生に、ハチベエたちが感涙して抱きつくというもの。宅和先生が引退を決意した理由は「もう自分は今の時代の教師ではない」というものです。これが那須センセの内面の吐露であるのは、書くまでもないでしょう。
 本来この宅和先生、それほど活躍をしてきたキャラでもなく、目立ったのはせいぜい『文化祭事件』くらい。にもかかわらず、最初期から登場する度にヤケに些細な描写がなされ(あだ名がタクワンだの、社会科の授業に熱を入れているだの)子供心に「作者の自己投影キャラなのかなあ」と思っていたのですが、初期作品の頃の那須センセは四十ちょいで、老教師に自分を重ねていたとは思いにくい。しかし、図らずも最終作において、宅和先生は見事に那須センセを投影したキャラとなり、前面に出てきて本作を締める役割を果たしました。いささか寂しいですが、その意味で本作もまた、前作同様の「敗北の物語」となったのです。
 それともう一つ。あちこちのブログで書かれるように(そして不評なように)卒業式ではいささか唐突に各国(韓国、北朝鮮、パキスタン、中国、イギリスというラインナップ)の旗が飾られ、各国の国歌が歌われます。学校には外国の生徒もおり、また「国歌斉唱」は義務づけられてはいても「どこの国歌かの規定はない」ことの裏をかいたドヤ顔での行為なのですが――まあ、どうしてもそれをやりたいなら、せめてゲストキャラとしてでも外国人の生徒のキャラを出して三人組と交流させるなど、お膳立てをしてからにするべきだったのではないでしょうか。別な動機がまずあっての「国際交流」こそ嘘くさいという意見もありましょうが、そこをうまく書くのが作家の腕でしょうし。
 後、余韻を与えずにばっさり終わっているのは前作同様なのですが、これって意図的なものなのでしょうか……?

 さて、『ズッコケ』全50作のレビュー、これにてコンプリートです。
 今年の初めに読み始めて、よもや三ヶ月ちょいでコンプリを果たせるとは思いませんでした。おかげで当ブログの性質もすっかり変わるという副作用も生まれましたが……。
 さて、ここでみなさんに悲しいお知らせがあります。
 本来、『ズッコケ』をレビューし出したのは那須センセの女性観が気になってのこと。
 それも、本丸は『ズッコケ中年三人組』シリーズです。
 よって本ブログはこれから、『中年三人組』コンプリの旅に入ります。
 ま……まあ、そっちは今のところ、十冊しか出てないから……(震え声)。